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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第27話 はい寄る兄の剣

 場所は再び王都に戻る。


 傭兵ギルドへと向かう、二つの影。

 それらは周囲へと警戒を向けており、人目を避けるようにして移動している。


「さあ、こちらですぞ、シュヴァルツ様」


「うむ、ご苦労だな」


 侍従の案内に、シュヴァルツは労いの言葉をかける。

 傭兵ギルドの前に姿を見せたのは、コークロッチヌス子爵の嫡男であるシュヴァルツと、その侍従だった。

 ここに来たのは、先日出した依頼の報告を聞くためである。

 扉を開けて中へと入っていくシュヴァルツ。薄暗い部屋の中には、相変わらず男が偉そうな態度で座っていた。


「お前は傭兵ギルドの人間か」


「これはこれはどうも。シュヴァルツ・コークロッチヌス」


 カウンターに放り上げていた足を下ろし、立ち上がってゆっくり男が近付いてくる。


「俺は、この傭兵ギルドのホッパーっていう者だ。まあ一種の通り名だと思ってくれ。本名を明かさないのが傭兵の通例なんでな」


「人の名前を勝手にいったくせに、自分の名前は明かさない。これだから、傭兵というのは信用ならないんだ」


 シュヴァルツは、露骨に不機嫌な態度を見せている。


「まあまあ、そういうもんじゃないさ。それよりも、ここに来た理由があるんだろ? なあ、そっちの侍従さんよ」


「え、ええまあ。そうでございまいますね」


 急に話を振られて、侍従が言葉にちょっと詰まりかけた。

 その様子を見て、ホッパーはどことなくほくそ笑んだ様子を見せている。


「まあ、立ち話もなんだ。奥のテーブルにかけて、ゆっくり話をしようじゃないか」


 ホッパーがくいっと親指で差し示した先には、確かにテーブルとソファーがあった。

 シュヴァルツたちはそれに従い、テーブルを囲んで席に着く。


「それで、クロナ。俺の妹のふりをした魔族の行方は分かったのか?」


 シュヴァルツは単刀直入に話題を振っている。面倒な前置きなど、邪魔なだけだからだ。


「正確なところは分からない。そう言ったら怒るか?」


「愚問だな」


 シュヴァルツは剣に手をかけている。これが答えだと言わんばかりの動作である。


「まあ、分からなかったのは事実だ。調査の途中、ブラナに邪魔をされたからな」


「なんですと?!」


 ホッパーの報告に、侍従が驚いている。


「あの魔族を助けるつもりか、あの女」


 シュヴァルツが険しい表情をしながら、歯を食いしばっている。


「いや、魔族を仕留めるのは自分だと言って、邪魔をされることを嫌っているようだ。うちのディックが直に聞いているからな」


「……そうか」


 シュヴァルツは、剣にかけた手を戻している。


「で、話の続きだ」


 シュヴァルツの動きを見て、ホッパーが落ち着いた様子で話を再開させる。


「あいつとしては、俺たちを牽制したつもりでいるだろう。だが、暗殺者としてのあいつを知っている俺たちからすれば、逆にヒントを与えたようなものだ」


「というと?」


 ホッパーが話す内容に、シュヴァルツがかなり食いついているようだ。これには、つい顔をにやけさせてしまうホッパーである。

 ホッパーはディックを呼んで、このイクセン王国の地図を持ってこさせる。

 テーブルの上に地図を広げたホッパーは、眺めながら話をさらに進めていく。


「あいつくらいの凄腕の暗殺者が、たかが子爵家に仕えているというのも不思議な話だな」


「暗殺者だったのか、あの侍女は」


「ああ。昔は名の知れた暗殺者で、血も涙もない様な女だったさ。そこの頃から付き合いのある俺が言ってるんだ、間違いない話だぜ」


 どうでもいい情報なのか、シュヴァルツたちは黙ったままである。

 ちょっと苦い表情をしたホッパーだったが、気を取り直して話を続ける。


「あいつはイクセン王国の中に何か所もアジトを持っているんだ。ディックが会ったのは、ここにある拠点だな」


「そこは確か、岩山がありましたな」


「ああ、周りを森で囲まれていて、あまり人が近寄らない場所だ。あいつはそういった場所を拠点にしている」


「前置きはいい。その拠点と魔族と、どういった関係があるというんだ」


 シュヴァルツはいらつきながら、ホッパーを問い質している。


「ディックに忠告をしていた様子からすると、あいつは魔族を誘導していると思われるんだ。となると、自分だけしか行けそうにない場所へ、魔族を導いた可能性がある」


「なるほど?」


「それが正しいとするならば、魔族の潜伏地点は、おそらくここになるだろう」


 ホッパーは地図の一点を指差している。


「そこは、国境の山岳地帯ではないですか。強い魔物が徘徊する、イクセン王国の中でも最も危険な場所ですぞ」


「そう。だからこそ、魔族はここにいると見ていい。時々一緒に依頼をこなしてたせいで、あいつの拠点には俺も訪れたことがあるからな」


 かなり自信を持って勧めているようだ。


「……道案内を頼めるか?」


「危険な場所ですから、案内となると別に報酬をもらうことになりますぜ?」


「構わん」


 シュヴァルツの迷いのない返事に、ホッパーはにやりと笑っている。


「分かったぜ。成功した際には、報酬を半分ずつに分け合う。それでどうでしょうな」


「それでいい、案内しろ」


 シュヴァルツは鋭くホッパーを睨み付けている。

 その目を見て、ホッパーはかなり満足そうである。


 シュヴァルツがクロナの潜伏場所を見つけてしまったようだ。

 ところが、すぐに動くことはなかった。この場は準備があるとして、シュヴァルツは引き揚げていったようだ。

 実の兄妹による悲しい戦いが行われるのは、そう遠くないようである。

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