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黒角の魔聖女  作者: 未羊
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第23話 静かな追跡

 ホッパーの部下であるディックは、バタフィー王子たちの魔力をたどっていく。

 森を目の前にしたところで、ディックは一度立ち止まった。

 そこには、明らかに人の手が入った跡があったからだ。


(バタフィー殿下たちは、ここを拠点にしていたようですね。しかし、なぜこんなところにピンポイントで?)


 確かに、かなり不思議な光景だった。

 今回のクロナの討伐に関しては、潜伏していて場所が分からない。小隊に分けての拠点というのなら分かるが、見る限りはかなりの人数がこの場所に留まっていたようである。

 つまり、先程見たバタフィー王子や遅れて這いずって戻ってきた兵士たちは、全員がこの場所にいたということだろう。


(もしや、バタフィー殿下には、聖女を騙った魔族の場所が分かったというのでしょうか?)


 思わず考え込んでしまう。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 依頼を受けた以上は、それを確実に遂行する。それが、傭兵ギルドの理念だ。

 余計なことには一切かかわらず、任務を完遂することが最優先。なので、気にはなるものの、ディックはバタフィー王子たちの魔力の残滓を再びたどり始めた。


 そうしてやって来たのは、森の中にあった岩山にぽっかりと開いた、洞窟の入口だった。

 こんなところに洞窟があったのかと、ディックは驚いて眺めている。

 驚きながらも、ディックは洞窟の中へと入っていく。バタフィー王子たちの魔力は中へと続いていたからだ。

 不思議なことに、洞窟の中は明かり取りの魔法を使わなくてもかなり明るい。おかげで、問題なく奥へと進んでいけている。


「ここが一番奥か……」


 洞窟の中を進み続けたディックは、広がった空間を不思議そうに眺めている。それと同時に、洞窟内の異様な光景に目が留まる。


「これは、剣が立っている? どういうことなんでしょう」


 目の前にある剣は、地面に突き刺さって少し斜めに立っている。

 ディックは自分の能力で探りを入れてみると、剣の下に人の形をした反応があることに気が付いた。

 わけもわからないので掘り返してみると、そこから現れたものに思わず目を背けてしまう。


「こいつは、酷いですね……」


 そこに埋まっていたのは、兵士の死体だった。よく見ると、喉元を一撃で貫かれている。


「墓標代わりに立てられていた剣で貫かれたのでしょうか? いや、剣の位置はずれているし、地面越しにこんな貫通できるわけがない」


 遺体の状況を見ながら、ディックは分析している。こういうのも傭兵ギルドの人間としての癖のようなものだ。

 その結果、死因がこの喉元の傷であることが特定できた。

 周りを見ると、同じように地面に突き刺さった剣が数本見つかる。それらも同じように、地面の中からは人型の魔力が検知された。


「戦いが終わった後に、誰かが埋葬したということですか。だが、こんな頑丈な地面、人間には簡単に掘れるもんじゃないですね」


 結局、どういう状況でこうなったのかは分からない。

 しょうがないので、ディックはこの場所で再び魔力痕跡を調べ始める。


「向こうに魔力が続いていますね。奥は行き止まりのようですが……?」


 ディックが近付いていく。

 壁にぶち当たるものの、その壁の向こうへと魔力が続いていた。


(変わった属性の魔力ですね。となると、これが目的の聖女のふりをした魔族のものということでしょうか)


 空中に漂う魔力の残滓に、ディックは首を傾げている。

 魔族は二本の足で地面に立っているはずなので、この空中に浮いている状況が理解できなかったのだ。

 とはいえ、魔力が残っているのだから、ディックはただただ追跡していくのみである。


 いざ進もうとしたその時だった。


「傭兵ギルドの人間が、私のアジトに何の用というのですかね」


 突然声が聞こえてきた。

 くるりと振り返ると、そこには侍女服に身を包んだ女性が立っていた。


「どちら様……と言いたいところですが、ブラナじゃないですか。お久しぶりですね」


 ディックは体も振り向かせて話を始める。


「何の用で、ここに来たのですかね。用件次第では、あなたとて相手をしますよ?」


「それを、答えると思いますか?」


 身構えるブラナに対して、ディックはからかうように答える。


「そうでしょうね。依頼は外部に明かさない、それが傭兵ギルドの掟ですからね」


「そういうことですよ」


 理解を示しながらも、ブラナは構えを解かなかった。


「どうせ、お嬢様の家族から依頼を受けてきたってところでしょう。魔族を身内に抱えていたなど、貴族にとって汚点以外のなにものでもないのですからね」


「分かっているのなら、見逃してもらえますかね。その物騒なものをしまって下さいよ」


 ディックが話し掛けるも、ブラナは構えを解かなかった。


「お嬢様は私の獲物です。他の誰にも渡すつもりはありませんよ」


「それは困りますね。依頼が達成できないのであれば、傭兵ギルドとして名折れですからね」


「あなたがこれ以上追いかけようにも、無理ですよ。お嬢様には今、多くのスチールアントが付き従っていますからね」


「なんですと?!」


 ブラナの証言に、ディックは驚いている。


「どういうわけか、お嬢様をスチールアントたちが守っているのですよ。私も邪魔されましたからね」


 ブラナですら邪魔されたとなれば、ディックは黙り込むしかなかった。


「しょうがありませんね」


 ディックは一度下がることにする。


「一応あなたのことは報告しておきますからね。次は邪魔をしないで下さい」


「それはこちらのセリフですよ」


 ディックは来た道を引き返していく。

 その姿を見届けたブラナは、どことなくほっと安心したのだった。

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