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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第21話 非情の依頼

 部屋に戻ったシュヴァルツは、侍従を呼ぶ。


「お呼びでしょうか、坊ちゃま」


「いい加減にその呼び方をやめてくれ。傭兵どもにこれで依頼を出してくれないか」


 シュヴァルツは、侍従の前にドカッと何かを置いている。


「坊ちゃま、これは」


「貯めてきたお小遣いだ。足りないかもしれないから、その時はこっちの宝石でも換金して足しにしてくれ」


 取り出したのは、クロナが部屋に残していったアクセサリーの類だった。無用の長物であるので、売り払おうというわけだ。

 お金と宝石を目の前にした侍従は、ごくりと息をのんでいる。


「傭兵ギルドへの依頼ですか。どのような依頼を出すのでしょうか」


「決まっている。俺の妹のふりをしていた魔族を始末するためだ。そのためにはまずは行方を探さなければいけない。さすがに探知系は苦手なんでな」


「なるほど……。承知致しました、早速行ってまいります」


 侍従が出ていこうとするが、シュヴァルツは呼び止める。


「待て」


「何か?」


「人相書きと名前くらいは用意してからだ。こちらの素性を知らせるつもりはないのでな」


「承知致しました。では、それもわたしめが用意して向かうとします」


「頼んだぞ」


 お金と宝石を手にした侍従は、シュヴァルツの部屋を出ていく。

 部屋に残ったシュヴァルツは、しばらく考え込むように座り込んでいた。


「……よし」


 何かを思いついたらしく、椅子から立ち上がってどこかへと歩いていく。


 やって来たのは子爵邸の中にある私兵の訓練場。

 その訓練場に、シュヴァルツは剣を持って現れたのだ。


「これはシュヴァルツ様。どうなさったのですか、剣など持って」


「稽古をつけてくれ」


 兵士が問い掛けると、シュヴァルツはまったく迷いなく答えている。


「えっ、俺たちが稽古をつけるんですか?」


「学園では最強とも聞きますのに、なんでまた……」


 兵士たちの間には戸惑いの様子が見られる。


「それは相手が学生だからだ。俺はこれから、魔族を相手にしなければならないんだ。だから、最低限、魔物相手でもまともに戦えるだけのすべが欲しい。頼む、稽古をつけてくれ」


 シュヴァルツは、本気のようである。


「分かりました。話を聞く限り、お嬢様になり切っていたあの魔族を相手になさるのですよね?」


「その通りだ。あれの存在に気がつけなかったことに、俺はとても悔しくてたまらないんだ。今、あれの消息を探らせるために動いている。いつ見つかるかは分からないが、戦うには俺自身が強くなっていないといけないんだ」


 兵士の問い掛けに、シュヴァルツは歯を食いしばりながら力説している。

 シュヴァルツの強い決意に、兵士たちも心を決める。


「承知致しました。我らコークロッチヌス子爵に仕える兵士一同、シュヴァルツ様のために一肌脱ぎましょう」


「そこらの魔物には負けないように、みっちり鍛えていきます」


「お覚悟願いますよ、シュヴァルツ様」


「ああ、よろしく頼む」


 兵士たちの声に、シュヴァルツのは頭を下げたのだった。


 その頃のシュヴァルツの侍従は、宝石も換金したお金を持って、傭兵ギルドへとやってきた。


「へい、何の用だい?」


 扉を開くと、中からは気怠そうな声が聞こえてくる。

 ギルドの受付だというのに、カウンターに足を乗せた男が一人いるくらいだった。


「ここは傭兵ギルドでいいんだよな?」


「ああ、そうだ。ここは初めてかい? まあ、貴族連中はここを使わねえからな」


 侍従が確認をすると、気怠そうな男は侍従を貴族と見抜いた上で言葉を返してきた。


「分かるのか?」


「まあな。俺はちょっと人を見る目が鋭いんでな」


 男は足を降ろすと、カウンターを飛び越えて侍従の方へと寄ってくる。


「あんたの依頼は……、なんだ、聖女を騙った魔族を探せってとこみたいだな」


「な、なぜ分かった」


 ぴたりと言い当てられて、侍従は青ざめさせている。

 侍従に対して、じりじりと男が迫っていく。

 一方の侍従は、入口に向かって後退っていく。男の雰囲気がただならぬものゆえ、侍従には耐え切れないようだった。

 男は侍従の目の前まで来ると、ぴたりと動きを止める。


「ほら、依頼だろ。さっさと出すもん出して頼んでけってんだ。きちんとした報酬さえあれば、俺たちは任務は遂行する」


「わ、分かった……」


 侍従は移動して、男とカウンター越しに向かい合う。


「さっ、依頼の内容を言いな」


「あ、ああ……」


 結局男に言われるがままに、侍従は話を始める。

 依頼内容を聞き出した男は、ずいぶんとにやけた表情をしている。


「なるほどね。コークロッチヌス子爵令嬢……っと、元だったな、そいつを探し出せって話か。生きていれば、状態は問わないってことでいいんだな?」


「ああ、特に何も言われてないからな」


「ふむ、分かった。やつを差し出せば追加で報酬をもらうぜ。今は立派な国家のお尋ね者だ。教会も加わって躍起になっているからな。渡された金額じゃあ、仕事に見合わねえかもな」


「くそっ、足元を見やがって……」


 男に対して、侍従は恨みたっぷりに吐き捨てる。


「んじゃ、交渉成立だな。まあ、待ってな。ちゃんと仕事はやって帰ってくるからよ」


 男はそう言うと一度奥の方に声をかけ、すぐさま外へと出ていく。


「あんたは自分の主に依頼を出してきたことを伝えて、そのままおとなしくしてな。あばよっ!」


 入口の前に立ち止まって、男はそう言い残していく。

 侍従はどことなく悔しいらしく、歯を食いしばってその場でしばらく立ち尽くしていたのだった。

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