第16話 不気味な森
クロナは、無事に洞窟を脱出して、ブラナから渡された地図を頼りに移動をしていく。
地図に記された場所はまだサンカサス王国の中のようだった。
(よかった。サンカサス王国の中なら、邪神の呪いは他国に広がる心配はありませんね。ですが、暗殺者だったブラナのアジトってどんなところなのでしょうか)
クロナは地図に記された場所がどんな場所なのか、とても気になっているようだった。
くうううぅー……。
スチールアントの背中の上で、クロナのお腹が盛大に鳴っている。
「ううっ、そういえば何も食べていませんね」
『聖女様、お気になさらずに。このまま我らの上でお食事を済ませてしまって下さい』
『そうですよ。今はここが一番安全でございますからね。どうぞご遠慮なく』
スチールアントに言われるがままに、クロナは仕方なくパンを取り出してもぐもぐと食べ始める。
クロナを乗せたスチールアントは、クロナが指示した場所まで一直線に進んでいる。
途中の平原はすんなりと進んでいたのだが、目的地が近付くとスチールアントの足が鈍ってきていた。
「どうしたんですか?」
クロナは気になって、スチールアントに声をかけている。
『魔物が』
『強い魔物の気配がします』
「魔物ですか?!」
スチールアントが動きを鈍らせたのは、スチールアントよりも強い魔物の気配を感知したからのようだ。
スチールアントたちはクロナの味方となっているが、今反応している魔物までがそうとは限らない。そのため、スチールアントたちは警戒をしているのだ。
しかし、クロナはぎゅっと拳を握りしめて歯を食いしばる。
「大丈夫です。みなさんは私が守ります。このまま突き進みましょう」
クロナの放つ力強い言葉に、スチールアントたちは力強さ頷いている。
『そうだ。我々には聖女様がついていらっしゃる』
『聖女様にあだなすものに、怯えてたまるものか!』
自分たちを奮い立たせ、目的地へと向けて歩みは速さを取り戻していた。
「グオオオッ!!」
行く手を阻む魔物が現れる。
どうやらクマのようである。
「ジャイアントベアーですか。図鑑で見たことがあります」
『あの爪を食らったら危険だ』
『聖女様、避けましょう』
スチールアントたちがびびっているが、クロナだけは違っていた。
最初はスチールアントを見ただけで気絶していたというのに、今では覚悟を決めたような目をしている。
「そのまま突っ切って下さい。私を信じて下さい」
『分かりました。聖女様を信じます』
クロナの言う通り、ジャイアントベアーたちの間を、スチールアントたちは突っ切っていこうとする。
通りかかろうとした瞬間、ジャイアントベアーたちの腕が振り下ろされる。
「シールド!」
クロナの声とともに、強固な魔法障壁が展開される。
一瞬で出現した魔法障壁に気が付くことなく、ジャイアントベアーの爪が振り下ろされる。
ボキッ!
何かが砕ける音が大きく響き渡る。
「ガアアアアッ!!」
なんとジャイアントベアーの腕があらぬ方向に曲がっているではないか。
クロナたちへと振り下ろした腕が、魔法障壁によって跳ね返され、ジャイアントベアーの腕を折ってしまったのだ。
「怯んでいます。今のうちに駆け抜けて下さい」
『はっ、承知しました!』
スチールアントたちは歩を速めて、一気に駆け抜けていく。
折られた腕の痛みにのたうち回りながら、ジャイアントベアーたちは悔しそうにクロナたちを睨んでいる。あまりにも鋭い眼光であるので、クロナは振り返ることなく、ブラナのメモに記してあった隠れ家へと急いだ。
あの洞窟を脱出してから、一体どのくらい経っただろうか。
気が付けば、クロナたちは国境の山脈のふもとにまでやって来ていた。
「すごい森ですね。この奥に、ブラナの隠れ家があるのですね」
クロナが言う通り、目の前にはうっそうとした森が広がっており、先程ジャイアントベアーと遭遇した森よりもいっそう不気味な雰囲気を放っている。
ところが、ブラナの記した地図には、この森を進んだところに隠れ家があると記されていた。
ジャイアントベアーで感じた恐怖よりも、さらに強い恐怖感が森から漂っている。
『聖女様、この森はただの森ではございません。いくら隠れるに適した場所であろうと、ここに踏み入れるべきではございません』
『そうです。我らの本能が危険だと告げております。どうか、お考え直し下さい』
魔物であるスチールアントですら、このうろたえようである。ということは、ここは実を隠すにはもってこいということでしょう。
スチールアントに苦戦をしていたバラフィー王子たちであれば、そう簡単にここに踏み入れることはできないでしょうからね。
「いえ、進みましょう。ここに踏み入れれば、私の命を狙う者たちの足止めとなってくれるはずです。みなさんのことは、私が守ってみせます」
クロナにここまで言われてしまえば、従うという意思表示をした以上、スチールアントたちに断ることなどできなかった。
覚悟を決めたクロナたちは、身の安全を確保するべく、スチールアントたちですら怖がる森の中に足を踏み入れていった。
ブラナが拠点としていた場所なのだ。それを根拠として、クロナはゆっくり遠くへと進んでいく。
三年間を無事に過ごすための、ちょっとした時間稼ぎになれば……。
クロナは強く、そう願うばかりであった。




