表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒角の魔聖女  作者: 未羊
17/27

第16話 不気味な森

 クロナは、無事に洞窟を脱出して、ブラナから渡された地図を頼りに移動をしていく。

 地図に記された場所はまだサンカサス王国の中のようだった。


(よかった。サンカサス王国の中なら、邪神の呪いは他国に広がる心配はありませんね。ですが、暗殺者だったブラナのアジトってどんなところなのでしょうか)


 クロナは地図に記された場所がどんな場所なのか、とても気になっているようだった。


 くうううぅー……。


 スチールアントの背中の上で、クロナのお腹が盛大に鳴っている。


「ううっ、そういえば何も食べていませんね」


『聖女様、お気になさらずに。このまま我らの上でお食事を済ませてしまって下さい』


『そうですよ。今はここが一番安全でございますからね。どうぞご遠慮なく』


 スチールアントに言われるがままに、クロナは仕方なくパンを取り出してもぐもぐと食べ始める。

 クロナを乗せたスチールアントは、クロナが指示した場所まで一直線に進んでいる。

 途中の平原はすんなりと進んでいたのだが、目的地が近付くとスチールアントの足が鈍ってきていた。


「どうしたんですか?」


 クロナは気になって、スチールアントに声をかけている。


『魔物が』


『強い魔物の気配がします』


「魔物ですか?!」


 スチールアントが動きを鈍らせたのは、スチールアントよりも強い魔物の気配を感知したからのようだ。

 スチールアントたちはクロナの味方となっているが、今反応している魔物までがそうとは限らない。そのため、スチールアントたちは警戒をしているのだ。

 しかし、クロナはぎゅっと拳を握りしめて歯を食いしばる。


「大丈夫です。みなさんは私が守ります。このまま突き進みましょう」


 クロナの放つ力強い言葉に、スチールアントたちは力強さ頷いている。


『そうだ。我々には聖女様がついていらっしゃる』


『聖女様にあだなすものに、怯えてたまるものか!』


 自分たちを奮い立たせ、目的地へと向けて歩みは速さを取り戻していた。


「グオオオッ!!」


 行く手を阻む魔物が現れる。

 どうやらクマのようである。


「ジャイアントベアーですか。図鑑で見たことがあります」


『あの爪を食らったら危険だ』


『聖女様、避けましょう』


 スチールアントたちがびびっているが、クロナだけは違っていた。

 最初はスチールアントを見ただけで気絶していたというのに、今では覚悟を決めたような目をしている。


「そのまま突っ切って下さい。私を信じて下さい」


『分かりました。聖女様を信じます』


 クロナの言う通り、ジャイアントベアーたちの間を、スチールアントたちは突っ切っていこうとする。

 通りかかろうとした瞬間、ジャイアントベアーたちの腕が振り下ろされる。


「シールド!」


 クロナの声とともに、強固な魔法障壁が展開される。

 一瞬で出現した魔法障壁に気が付くことなく、ジャイアントベアーの爪が振り下ろされる。


 ボキッ!


 何かが砕ける音が大きく響き渡る。


「ガアアアアッ!!」


 なんとジャイアントベアーの腕があらぬ方向に曲がっているではないか。

 クロナたちへと振り下ろした腕が、魔法障壁によって跳ね返され、ジャイアントベアーの腕を折ってしまったのだ。


「怯んでいます。今のうちに駆け抜けて下さい」


『はっ、承知しました!』


 スチールアントたちは歩を速めて、一気に駆け抜けていく。

 折られた腕の痛みにのたうち回りながら、ジャイアントベアーたちは悔しそうにクロナたちを睨んでいる。あまりにも鋭い眼光であるので、クロナは振り返ることなく、ブラナのメモに記してあった隠れ家へと急いだ。


 あの洞窟を脱出してから、一体どのくらい経っただろうか。

 気が付けば、クロナたちは国境の山脈のふもとにまでやって来ていた。


「すごい森ですね。この奥に、ブラナの隠れ家があるのですね」


 クロナが言う通り、目の前にはうっそうとした森が広がっており、先程ジャイアントベアーと遭遇した森よりもいっそう不気味な雰囲気を放っている。

 ところが、ブラナの記した地図には、この森を進んだところに隠れ家があると記されていた。

 ジャイアントベアーで感じた恐怖よりも、さらに強い恐怖感が森から漂っている。


『聖女様、この森はただの森ではございません。いくら隠れるに適した場所であろうと、ここに踏み入れるべきではございません』


『そうです。我らの本能が危険だと告げております。どうか、お考え直し下さい』


 魔物であるスチールアントですら、このうろたえようである。ということは、ここは実を隠すにはもってこいということでしょう。

 スチールアントに苦戦をしていたバラフィー王子たちであれば、そう簡単にここに踏み入れることはできないでしょうからね。


「いえ、進みましょう。ここに踏み入れれば、私の命を狙う者たちの足止めとなってくれるはずです。みなさんのことは、私が守ってみせます」


 クロナにここまで言われてしまえば、従うという意思表示をした以上、スチールアントたちに断ることなどできなかった。

 覚悟を決めたクロナたちは、身の安全を確保するべく、スチールアントたちですら怖がる森の中に足を踏み入れていった。

 ブラナが拠点としていた場所なのだ。それを根拠として、クロナはゆっくり遠くへと進んでいく。

 三年間を無事に過ごすための、ちょっとした時間稼ぎになれば……。

 クロナは強く、そう願うばかりであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ