閑話 紅の巫女との出会い(王子side)4
「ああそんなに、荒くこすってはだめです。
肌が、赤くなっているじゃないですか・・。・・歌の内容ですね?」
ビクッと彼女の体が動いた。図星だったみたいだ。
ああ、なぜ俺には、神語が、分からないんだ・・。
歌の内容が、彼女を苦しめた事は分ったのに・・。
頬に、まだ頬に残っている涙に手を伸ばそうとすると、
俺の手は、彼女から荒々しくはたき落とされた。
手の温かみに触れてしまうのを怖がっているように、拒絶された。
「本当に、何にもないんです!!離して下さい!!」
彼女が荒々しく身じろぎした。
俺には、まだ彼女の痛みを分けてはもらえないのだと、
分かってしまった。拒絶・・されたのは初めてではないのに、
なぜか、とても、胸が痛んだ。
「・・分かりました・・。これ以上は、聞きません。
歌の内容を私たちは、うかがい知ることはできないのですよ。
貴方が苦しんでいるのを分かっていても、貴方が言ってくれるまでは
理由を聞いて、慰めることも、貴方の苦しみを、わけてもらう事さえできない。
だから・・・今は、許してあげます・・。」
そんな、陳腐な事しか言えない自分に嫌気がさした。
「・・わかりました。何もなかったとは言いません。
ですが、まだ今は、言えないんです。聞かないで下さって・・ありがとうございます。」
彼女は、そんな事を言って、笑顔を返してくれた。
その笑顔に、また見惚れた。彼女の本当の笑顔を見たような気がした。
「そんな・・・顔するから・・調子に乗ってしまうのですよ・・。」
照れ隠しに、ぼそっと彼女に聞こえるか聞こえないかぐらいの声で言った。
「え?何か言われました?」
「いえ・・なんでもありませんよ?」
だけど、彼女にいっぱい負けてしまったから、
少しいたずらがしたくなって、彼女の手をひっぱって、耳元で囁いた。
「・・・次嘘ついたら、キスしちゃいますから・・」
彼女が驚いたように固まった。
そんな彼女をまたお姫様だっこした。
「うわぁ!!!」
急のことだったので、彼女はバランスを崩しかけ、首に捕まった。
またうれしくなって、ちょっと顔がにやけてしまったと思う・・。
「それでいいです。じゃあ、行きましょうか、王宮へ。」
彼女は、照れたのか、
「すみませんが、降ろしていただけませんか?」
といってきたが、もう俺は彼女を離す気はなかった。
「嫌です。ダメです。離しません。」
だから、にっこりわらって即答した。
王宮に帰るためには、馬に乗ってもらわなければいけない・・。
彼女は乗れるのだろうか・・。
リトルにアレキサンドラをつれてこさせると、
彼女は、とても気に入ったようだった。
だが、さすがに、気に入られ過ぎじゃないか?
でも、アレキサンドラが、一番飼育の行きとどいた馬なので、
これに乗ってもらう事になるというと、
彼女が、ものすごく喜んだ。顔がキラキラと輝いている。
だが、馬に乗れるのかと聞くと、がっくりしたような悲痛な顔をした。
やっぱり彼女は、乗れないのか・・。
じゃあ・・。
「じゃ、じゃあ私と一緒に乗りますか?」
邪な気持ちがあるわけじゃないんだ・・。
ただ、彼女が、アレキサンドラに乗りたいというから・・。
彼女をを先に乗せ、そして俺は後ろに乗った。
間接的に、抱きしめるような状態になるなんて、
も・・もちろん考えてなかったぞ?
彼女は、すごく楽しそうに乗っていたが、
一応、乗馬の体験がないのなら、大丈夫かと尋ねるとにっこり笑って答えてきた。
「全然大丈夫です。すごく楽しいです。馬に乗れるなんて夢みたいだ・・。」
心臓に悪いと、思っていると彼女が、少し真剣な顔になった。
「あ、聞き忘れていたんですが・・・ここで、何が起こっているんですか?
闇に、支配されかかっているときに、紅の女神が現れた・・でしたっけ?
俺が、女神に召喚?されたのもそのせいですよね・・。」
話し忘れていた。
「それが・・・、なにが起こっているのかよくわからないんです。。」
「は?」
彼女は、びっくりしたように聞き返してきた。
「ですから、見える範囲では、何も起こってないのです。
怪物が出てるわけでもないし、この国を侵略しようとしてる、気配もない。
でも・・・なんだか、気のせいといっても過言は、無いくらいなんですが、
みんなの心が、荒れんできてるような、悪い予感がするんです。」
「悪い予感か・・。闇とは、どういうものを指しているんでしょうね・・。」
そんな事を彼女は、独り言のように、ぽつりとつぶやいた。
長い、帰路の道のりも、彼女が腕の中にいるというだけで、かなり、快適だった。
もうあたりに、夜の帳が、落ち始めたころ、町の城壁門にたどり着いた。
「ブライアン殿下が、紅の巫女様を無事保護し、帰還されたぞ!!
門を開け放て!!!」
リトルが、大きな声で宣言すると空気を震わせるような歓声が、城門の奥から聞こえた。
そして、門は、上から落ちてくるように開き、そのまま堀と町をつなぐ橋となった。
開いた門の先には、道脇にずらりと、松明や、ランプを灯し、国民が頭を下げて、並んでいた。
父上が言ってたこっちの方でも歓迎の用意をするっといってたのはこの事か・・。
「おかえりなさいませ、ブライアン殿下、アトランティス首都アトラス、
ようこそいらっしゃいました、紅の巫女様・・。」
みな顔を上げていく、紅の巫女の顔を見た者だけが、
目を彼女に奪われ、固まった。
「女神だ…。」
誰かが、そんな事をポロリと言った。
彼女の異変に気付いたのは、彼女がぐったりと俺の腕に寄りかかってきたからだ。
くたりと、彼女から力が抜けた。なんど、名前を呼んでも、彼女は、答えることはなかった。
あとがき
やむなくさいUPしました。
理由を詳しく知りたい方は、今日の活動報告をごらんください。