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異変

王女の読み聞かせ回。毎年恒例とはいえ、働いている少年少女たちにはもう馴染みはない。今回はたまたま仕事休みで、友に誘われて遠目で見ていた。友の誘いの理由としては最低なものだ。この王国で美しく、優しい優雅な姫の姿を見たいというものだった。不敬とは思いつつ、王城へ戻る姫様を陰ながら見送りながらつぶやいた。



「どこが優雅なお姫様だって?」



そう呟いたのは青髪の青年ロキ。隣に立つもう一人の青年はロキをお祭りに誘ったフェルだった。彼はロキの幼馴染であり、親友だ。長い髪の毛を一つに束ねた白髪の青年。少し浮世ばなれしている髪型だが、彼いわく魔族の瘴気にあてられ、白くなってしまったらしい。そんな彼に呆れながら問うが、笑ってごまかしていた。



「美少女に変わりはないだろ?」



「そこは否定しないが……。」


ロキとフェルはこの王国の住人である。二人は買い物という当初の目的を果たしたため、帰路を辿っていた。目的はフェルの自宅だ。今日は国の行事と同時にめでたい日でもある。春の月の15日、ロキの18歳の誕生日だった。両親がいないロキはフェルにとって兄弟同然のように育った。


フェルの両親はロキの両親と少しの間だけだが、付き合いがあったそうだ。父親はロキが3歳のころに大きな仕事にでたまま失踪。母親はロキが8歳のころに体が弱かったため亡くなった。ロキにとってフェルの両親は第二の両親のような存在だった。


家に戻ると食事の準備が済まされていた。ロキの食卓席には果物が入り混じったスポンジに、その上に乗った薄黄色い蜜がかけられている。フェルの父親はロキに嬉しそうに声をかけた。



「おかえり。丁度出来上がったところだ。この国名物の蜂蜜ケーキだぞ。」



ロキは一瞬顔を歪めそうになった。ロキは甘いものが苦手だ。それはここにいる誰もが知っている。おそらくフェルと彼の父親がからかって作ったのだろう。



「止めたんだけどね……。」



フェルの母親は苦笑いを浮かべながらそう告げた。ロキの表情をみて感じ取ったのだろう。ロキは申し訳なさそうに気にしないようにフォローをいれる。実際、血のつながりなどないこの家に上がり込んでるほうが図太いのだ。文句をいうわけにはいかない。



「おいおい、そんな顔するなよ!冗談だって!お前のはこっち!」



なんとなくそんな気はした。”またか。”とあきれる。昔からフェルはいたずら好きだ。あまり感情を出さないロキの表情が変わるのが面白いという理由でこのような幼稚なことをしている。父親と協力してまでロキの表情を変えたいらしい。理解に苦しむし、同じ年代とは思えないほど、精神のほうは幼く感じる。



「お前のはこっちな。」



今度は蜂蜜のかかっていないスポンジケーキだった。蜂蜜の代わりに様々な木の実で彩られている。フェルの父親も先程のことを謝罪し、このケーキが新作であることを伝えられる。自慢げに話をする顔は、どこかのいたずら顔と似ていた。


こういった表情を浮かべるときは、最高に楽しいときと決まっている。彼の父親が最高の出来をうたうなら、間違いないと確信を得られる。そしていつものようにみなで食卓を囲み、楽しい夜を過ごした。



誕生日ということもあり、夜遅くまで話が盛り上がってしまった。主に話していたのはフェルたち家族のほうだが、思い出話に花が咲いてしまった。



帰り道、さえぎる雲はなく満月だけが空に浮かぶ。思い出話をされて両親のことを少しだけ思い出した。そうはいってももう大分記憶からは薄れていた。


母親のことは薄っすらとだが覚えている。目が見えないに加え、体がとても弱い人だった。父親のことは物心つく前の話だから何も知らない。父親から手紙が来たこともない。フェルの両親はロキの父親を知っているようだが、とても不器用な人だと言っていた。手紙を書くタイプにも見えないと言っていたが、もう十年以上は立つのだ。生きてはいないだろう。少し寂しい気持ちはある。


ふと晴れた夜空に似つかわしくない、赤く燃え上がる炎のような星があった。いや、完全に燃えている。星の輝けは小さくなり、赤い光が空を覆う。


ロキは外を見回っている兵士たちに事を伝えるべく踵を返した。たまたま目についた兵士を見つけて叫ぶ。



「隕石だ!隕石が落ちるぞ!!」



兵士たちも異様な天気に気づいていたのだろう。すでに行動は起こされていた。ロキもすぐに避難するよう声をかけられる。皆を城へと誘導している最中だったらしい。その誘導に従おうとしたとき、フェルたちのことを思い出した。家の中にいてはこの騒ぎに気付いていないかもしれない。


ロキは兵士の止める声を無視してまた走り出した。空の様子を伺う。肉眼でボールのように見える。それはつまりとてっもなくでかいということがわかった。衝撃で家が吹き飛びかねない。よりによってあの隕石の軌道がフェルの家の方向に近いのだ。間に合うかどうか。すぐにその考えを消した。


まだ落ちてない。勝手に判断して間に合うものも間に合わなくなる。もう一つの家族を失うわけにはいかない。家に飛び込むとフェルたちは一斉にロキを見た。やはりまだ行動して

いなかった。冷静に事の重大さを伝える。


フェルの母親は慌てたように飛び出そうとするが、冷静にフェルの父親が止めた。


「今からでは間に合わない。地下に避難しよう。」



もしもの時があった時のために準備したものらしい。ロキは頷きフェルたちとともに地下へ逃げ込んだ。入り口を閉じた瞬間、地面が激しく揺れた。フェルの両親は体を寄せ合い、ロキたちはしゃがみこむ。


しばらくして揺れはおさまった。外の様子を見るため、入り口を開けると焼け野原になっていた。まるで戦争の跡地のようだ。街の一部に隕石の破片が飛び散っていた。一歩遅ければロキ達も潰されていただろう。



「ははっ……なんてこった。」



フェルは困惑気味に笑った。彼の顔は青ざめていてある方向をじっと見ているように見えた。現状に絶望しながらも無事に生き延びることができたことに安堵した。ロキはフェルたちを自分の家に泊まらせることにした。早速行動に移る。必要なものを持って移動しようと提案した。


幸い彼の家は災害にあった場所とは離れたところにあったのだ。街から外れた森に囲まれている場所。両親がなぜこんな場所を好んだのかは知らないが、辺鄙なところに家があることに感謝した。



「ありがとう、ロキ。」



感謝の言葉をいわれ、気にしないでくれという。ロキはいつも助けられてばかりだったのだ。お互い様だと伝えようとしたとき、変な胸騒ぎを覚え、ある方向を見る。隕石が落ちた方角、耳まで心臓の音が響いているようだった。ロキの頭の中にある言葉がよぎる。”嵐がくる静けさ”。これからとてつもないことが起こるのではないかという予兆。


フェルに声をかけられ、ハッとする。固まってしまったロキをみて心配してくれたようだ。なんでもないと誤魔化してロキの家へと向かった。



ーーーそのころ、ある森の奥深い場所では。



「ふわぁぁ……。ねむい……。」



一つあくびをしたあと、背伸びをする少女。彼女の周りは隕石の欠片によって作られたクレーターが広がっていた。


「自然現象……?いいえ、ありえないわね。」


皮肉をこぼした後、口角をあげる少女は丸く輝く月を眺めるのであった。

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