プロローグ
ここは、静岡市のどこかにある、成山大学附属中学校、(通称・成山中)の1年6組。
ある意味カオスなクラスである。
ここでは、32人の生徒たちがそれぞれの個性を光らせ、賑やかな日常が繰り広げられている。
4月のとある日。
授業終了のチャイムが鳴り響くと休み時間になり、教室の静けさは一瞬で破られ笑い声やおしゃべりが飛び交う。教室の後ろの席では、学級委員長の朝倉茂が将棋の戦略について語っている。
「師匠の次の一手はこうだと思うんだよな」
そう熱く語る彼を、幼馴染の秋山桃奈が吹奏楽部のフルートの楽譜を読みながら見つめていた。
師匠というのは、高校生にして将棋の天才である水橋隼斗。茂は、その隼斗に弟子入りしているのだ。
井沢快琉と井沢晴琉、双子の兄弟であるふたりは、爆食系男子の永田大とまたおかしなことを企んでいる。
「次の休み時間に、みんなを笑かそうぜ」
大が言った。
「僕たちは大爆笑を誘うネタを用意してるんだから!」
双子の兄の快琉が言えば、晴琉は
「兄ちゃん、オレも何かやりたい!」
そう目を輝かせる。
うるさくも、楽しい雰囲気が周りを包み込む。
これぞ快琉と晴琉、略して「快晴兄弟」といったところだ。
その一方で、内心では葛藤している生徒もいる。
九代琴香は相変わらず席にこもり、パソコンのフォルダの中のデータに目を通している。そしてときどき、クラスメイトの笑い声が聞こえるたびに、彼女の視線が揺らぎ、ため息をつく。なぜかくすぶっている彼女の心の影は、仲間たちには見えない。
また、武藤爽太郎はスタイルを活かし、スケボーを組み合わせた新たな遊びを思いつこうと頭をひねる。
白川佑美と真原咲は、サッカーとアイドルの話で白熱している。咲は自慢気に2点5次元アイドルグループ「キボウと愛」のグッズ、ホログラムキーホルダー初回生産限定版を見せびらかし、佑美はそれを羨ましそうに眺めている。まるでその瞬間、世界中の全ての悩みが消え去るような明るさだ。
教卓の周りでは他の男子と女子がたむろして、話をしている。
授業が始まると、24歳の担任の理科担当教師・井沢快晴が言った。「みんな、今日は実験だぞ」と声高らかに告げると、教室は一瞬にして静まり返り、その後、期待と興奮に満ちたざわめきが広がる。
1年6組の担任、井沢快晴は快琉と晴琉の兄でもある。
井沢と同じく24歳の副担任の女性・大台和泉も、快晴の熱気に共感しながら、クラスの雰囲気を温かく包む。「頑張ろう」と微笑み、生徒たちの姿を見守る。彼女もまた、静かに過去の出会いを思い出している。
彼らの毎日は、さまざまな感情で彩られ、時には衝突し、時には優しく寄り添い合っている。