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異能

 「――魔物の出現報告、大変感謝致します。すぐにこの地域の警戒を強めるよう上に報告を出しておきますね」

 「は……はい、ありがとうございます」

 

 ギルドでの手続きは滞りなく終わった。

 ……それは別に良かったのだが一点気になる事がある。

 ()()の人の容姿が異世界物でよく見かけるガタイの良い色黒スキンヘッドで目つきの悪い謎のトゲトゲ肩パットが付いているワイルドな恰好の髭面オッサンな件についてだ。

 あの、普通ギルドの受付って美人なお姉さんがやってるもんじゃないんですか!?

 初めて見たわ!あんなむさ苦しいオッサンが受付やってんのは!!


 「あ、言い忘れておりましたが、こちらの魔物の素材売却について一つよろしいでしょうか?」

 「うん?ええ、別に構いませんが」

 

 言葉遣いも事務的で丁寧だし……なんかこう気持ち悪い。

 いや決してこう、職業に対しての差別的偏見を持っているとかではないぞ。

 それでも敢えてこう言いたい。

 アンタは受付じゃなくて絶対、冒険者もしくは世紀末を生きている()()であると。

 

 でも余計な事言ったら殺されそうだし、話は真面目に聞いておこう。

 

 「実はですね素材の売却に関しては現在、冒険者登録を行って頂きますと五割増しで買取させて頂いております」

 

 五割増だって?

 マジかよ。

 随分と魅力的な話だが冒険者って魔物と戦ったりする訳でしょ?

 

 「それは凄いですね。でも私みたいな貧弱そうなのが……その、冒険者登録って大丈夫なんですか?」

 「はい、全く問題ありませんよ。えーとヘンリエット様は現在農民登録されておりますよね」

 「ええ、そりゃまぁ農民なんで」

 「農民登録は職業選択や国外移動等に大きな制限があり旅をされるなら不便だと思いますよ。これらの制限は冒険者――つまりは自由人身分に変更する事で解除されます。別に魔物と戦う事だけが冒険者ではありませんし、自由というメリットの為に身分を変更される方も多いのですよ」

 「へぇーそれは初耳でした」

 

 なるほどな、確かにオッサンの言う通りかもしれない。

 冒険者だからって魔物と戦わなきゃいけないって義務もない訳だし、依頼板を軽く見た感じオレでも出来そうな素材集めやお使いの依頼だってたくさんある。

 

 「そもそも農民と自由人は同じ身分階層ですのでいつでも自由に更新可能ですし、一度お試ししてみては?」

 「へぇ、割と簡単に切り替えれるんですね」

 「さらに今、冒険者登録するとギルド特製三徳ナイフと魔導マッサージ機をプレゼントさせて頂きますよ!」


 おい、なんか怪しい通販番組みたいになってないか?

 ていうかナイフはまだしも魔導マッサージ機って何だよ?いらねぇよ。


 「……あの、冒険者に登録すると何でそんなサービスいいんですか?」

 「ああ、それは残念な話ですが今の時代、自由人なんて不安定な稼ぎの身分より安定した商人や公務員身分の方が人気なのですよ……だから我々、冒険者ギルドとしては新規冒険者獲得に必死なのです」


 うわ、結構切実で現実的な理由だった。

 

 冒険者かぁ……憧れが無かったと言えば嘘になるし、すぐに身分変更出来るのならやってみてもいいかもな。

 よしっ!いっちょ、やってみっか。


 「分かりました冒険者登録お願いします!」

 「かしこまりました!……それではあちらに設置されているノウリョクワカール水晶に手を(かざ)してみてください。しばらくすると隣に置いてある魔導印刷機から現在のヘンリエット様のステータスが印字された紙が排出されてきます」

 

 受付のオッサンが指し示した方向には水晶玉と印刷機のセットが長テーブルの上に複数個の置かれており、そこに集まる冒険者達が診断結果に一喜一憂している様子が窺えた。

 

 「なるほどあれがノウリョクワカール水晶……ね」


 ネーミングセンスは随分とアレだが、要は異世界でありがちな能力判定機って所だろうな。


 「ギルドはその測定結果を基に冒険者の皆さまのランクを決定しておりますので出来上がった書類をカウンターにご提出下さい。その後、簡単な事務手続きが終了次第ヘンリエット様の冒険者登録が完了致します」

 「了解です。ならばそれでは早速、能力を測定してきますね」

 

 オレはそこで一旦受付を離れ、人が集まっていなかった角のテーブルに設置されている水晶の方へと向かった。


 「さてと、これに手を翳せばいいのかしら……意外と私の中に眠る隠された才能とかも判明して大騒ぎになっちゃたりして」

 

 微かにそんな期待も膨らませながらオレは水晶に手を翳すと水晶がやんわりと脈打つような光で輝き始めた。

 水晶の輝きは時間と共に徐々に小さくなり消失する。

 光の消失と同時にどういう仕組みかは知らんが魔導印刷機とやらから文字が書かれた一枚の紙が排出された。

 

 「これで私のステータスが確認できるのね。どれどれ……」


 オレはその紙を手に取って内容を確認する。


 種族:人間

 レベル:3

 HP :530000

 MP :13

 攻撃:3.141592

 防御:119

 速度:閃光のタカシより速い

 魔力:711

 賢さ:0.721

 運 :一億光年

 特殊スキル:【神速のツッコミ(ボケスレイヤー)


 「私のHPは五十三万です…………じゃねぇよ!なんやこのステータスぅッ!?」


 オレはこのアホみたいな測定結果をクシャクシャに丸めてゴミ箱に投げ捨てる。


 「仕方ない、もう一度計測してみよう」


 きっと何かの間違いだ。

 そう思い、さっきと別の場所の水晶で再度計測してみる。

 しかし結果は無情にも先程と全く同じものが印刷されたのであった。


 「…………やっぱ、やめよっか。冒険者」

 

 手にした紙をやる気なく見つめながら冒険者辞退を本気で考えていた時――。

 突然何者かがオレの手から測定紙を取り上げた。


 「――ほう、これがお主のステータスか。中々興味深い」

 

 それと同時に聞き覚えのあるとても嫌な声が耳に入ってきた。

 恐る恐るの声の方向へと目を向けると、やはり……オレの隣には例のゴスロリ少女が立っていた。

 

 「最悪……アンタもこの町に来ていたのか」

 「やはり運命は我等を巡り合わせたようだな。ここにいるという事は人間の女も冒険者とやらになりに来たのであろう?」

 「知らないわよ、それに二度と近付かないでって言った筈だけど?」


 オレはゴスロリ少女から紙を奪い返し、その場を後にしていく。

 

 「おい人間の女、そっちは妾の方の紙じゃぞ」

 「え?」


 ヤツの言葉を聞きオレは慌てて立ち止まる。

 この紙にコイツのステータスが?

 あの女は一応オークを遊び半分で屠る程の実力の持ち主……そんな奴がどれほどのステータスの持ち主なのか興味が無いわけでもない。

 

 オレは手に持った測定紙にゆっくりと目を通していく。


 「これは……!?」

 

 醤油(110g)

 みりん(110g)

 酒(100g)

 砂糖大さじ3

 水(400cc)

 ミノタウロスの脂1かけら

 白葱2本

 ミノタウロス肉400~500g

 白菜1/4個

 人参1/4本

 しらたき1袋

 焼き豆腐1丁

 えのき茸1袋

 ベニテングタケ1個

 シイタケ2個

 生卵 人数分

 うどん(お好みで)

 

 彼女のステータスを目の当たりにしてオレは一瞬で理解した。

 

 あまりに圧倒的な次元の違いってやつを。

 

 そこには彼女の能力を推し量る表記は存在すらしない――。

 ただ或るのは……そう。

 

 「すき焼きのレシピじゃんこれえええええぇぇぇぇぇ!!!!」


 みんな大好き、美味しいすき焼きのレシピだけだった。


 ――完。

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