第1回 「自主練か」
ようやく更新……。スローペースですが宜しくお願いします。
「今日の練習は終わりだ!」
「ありがとうございましたーっ!」
野球部の練習は監督の一声で終わった。
「秋大会でベスト16に入ったって言うのに、監督はやっぱり監督だ」
「同感。予定が入ると他の先生に頼まずに、練習終わらせちゃうんだからな」
「佐野も思わねぇか、監督の練習って自分勝手だって」
「ええ、そうかもしれないですね」
佐野と呼ばれた少年はグラブを磨きながら適当に頷いた。
「ほら、やっぱりチームのエースが言うと、重みが有るね」
「はっはっはっ!」
練習が早く終わった事で野球部の少年のほとんどは笑っている。
「おっ、そうだ。マックかサイゼにでも行かね?」
「いいねぇ〜。浅川も行くか!」
「あっ、はい!」
着替え途中に話しかけられて、浅川と呼ばれた少年は頷いた。
「それで、世界史の柳沢が相変わらず、気持ち悪いんだよ」
「わかる、わかる。あいつはあからさまに女子びいきだからな」
サイゼ●アに入ってから気が付くと、既に夜の八時を回っている。
当初、10人前後いた面子も少しずつ抜けていった。
「福元先輩、戸村先輩。そろそろ、失礼しますね」と浅川は言うとお金をテーブルに置いて、店を出た。
「はぁ〜。こんなんで良いのかな、俺は」
ファミレスからの帰り道に浅川の口からため息が漏れだす。
(あのメンバーはスタメンやベンチに入ってる……。でも、俺はベンチにすら入ってない。同じ練習量なのに何がいけないんだろうな)
ファミレスにいた連中、特に福元と戸村はそれぞれ遊撃手と左翼手のレギュラー。
それ以外のメンバーだって、内野手と外野手の控えだ。
(何かきっかけが有ればな……)
「浅川くん、またサイゼに行ってたね?」
いきなり後ろから話しかけられた浅川は驚いて振り向く。
「なんだ、広橋さんか」
立っていたのは野球部のマネージャーの広橋。
浅川の一つ上の先輩だ。
「なんだって、随分立派な口を叩くね〜!」
「すいませんでした!いたいっす!」
笑いながら、広橋は浅川の頭を拳でグリグリと押した。
「たく、佐野くんは一人で残って、自主練してんのに!ホントにウチの部活の奴らはやる気が無いんだよね」
「自主練って、あいつ部活の後に練習してるんですか?」
「そうだよ。ウチの学校ってバスケ部やサッカー部が強いから、トレーニング用の備品揃ってるでしょ?佐野くんはそれを使って練習してるよ」
「わざわざ、どうして……」
「さあね。でも他の連中にもう少しだけそのやる気があれば、もっと勝てると思うよ」
広橋はそう言うと、浅川の自転車の荷台に座る。
「先輩、二人乗りはヤバいですって!」
「良いでしょ。浅川くんにはピッタリの筋トレだよ。それに浅川くん家と我が家は隣なんだしね」
ウインクしながら言われ、しぶしぶ広橋を荷台に乗せて浅川は自転車を漕ぎ始めた。
「俺も自主練すれば、ベンチに入れますかね?」
浅川は自転車を運転しながら、ふと広橋に尋ねる。
「分からない。でも、中学でエースだったんだし行けるんじゃない?」
「でも中学の時なんか負けてばっかで、勝てなかったです」
「なら、無理だ」
はっきりとそう言うと、広橋は自転車を飛び降りた。
「でも、挑戦してみなよ。何をして何が起こるかは分からないからね」
そして「送ってくれてありがとうね」とつけ加えると、広橋は自分の家に入って行った。
「“挑戦”か……」
秋の爽やかで冬の足音を感じさせる夜風が浅川の周りを吹き抜ける。
「よし、やってみよう!」
浅川は決意を固め、自分の家に入ったのであった。
自転車の二人乗りは危ないですし、法律で禁止させられています。絶対にやめましょう。