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勇者の戦い方

翌日投稿出来ました!この指示調子で続けていきたいですね

 ボゥッ、という音がして、闘技場内の壁に備え付けられた松明が一斉に火を灯すと、ガラガラギシギシと古い金属がぶつかり合う音と共に闘技場奥の鉄柵が上がっていく。

 そうして開かれた鉄柵の向こうから、何頭もの獣の影がゆらりと伸びてくる。


「ホーンウルフの群れっ!?何故こんな所に……………」


ハッとリリアナが獣が出て来た鉄柵の奥を見ると地面に大型の魔法陣が煌々と輝いていた。


 そういえば、ドレーアフィレカ内でも魔物と人間の戦いが見せ物として盛んだった頃、討伐対象である魔物を闘技場に転送する陣が開発されたと歴史書で読んだことがある。

 

 けれどどうしてとうの昔に閉鎖されている闘技場の魔法陣が今発動しているのか。


 ホーンウルフ達は腹を空かせているのか、それとも敵意を剥き出しにしているのか、「ヴゥヴゥウゥゥゥゥ……………」と唸り勇者ににじり寄ってくる。


「っ!?ダメです!ダメ!!すぐにでもオルドルフ卿を呼び戻して──────」

「要らん」


勇者は特に怯えもなく普段通り────ではない。

 それはそれは嬉しそうに、楽しげに、今こそ我が世の春とでも言い出しそうな笑みを浮かべている。

 服装や髪の見窄らしさがあって尚、好青年のごとく見える笑顔だったが、その中でギラギラと獰猛に輝く二つの眼がその印象を完璧に打ち消していた。


 しかしその表情はリリアナからは見えないし、見えたところで目の前で人が獣に食い殺されそうになっている焦りが薄れる訳でもない。


「何をやる気になっているんですか!剣一本で何が出来るって言うんですかっ!?逃げて、少しでも時間を稼いで────」


逃げたとしてどうにもならないことはリリアナとて分かっていた。

 獲物を追いかけるのに特化したホーンウルフの脚力に人間が敵う訳がない。しかも相手は群れ、勇者は闘技場内に閉じ込められているのだ。

 例え彼に超人的な脚力が備わっていたとしてもグルグルグルグル場内を駆け巡って最後はスタミナ切れで喰われるのがオチだ。

 

 しかしだからと言って戦って勝てるとも到底思えなかった。

 ホーンウルフは全長約二メートル。知能が高く、鉤爪や牙ばかりではなく、その額に生えた一本角も脅威とされる。

 一頭を確実に討伐するのなら熟練の兵士五人は必須であるし、それが群れともなれば騎士団の一中隊は丸々動員させたいところだ。


 今回召喚されたホーンウルフの数は五頭。群れとしては小規模だが、単純計算で兵士一五人は必要になる。まかり間違っても一人で挑む相手ではない。


(どうする?怪我をする度に私が回復魔法をかければ………でもそれでは枢機卿を呼ぶ人間がいない)


 それにリリアナにも魔力切れという制限がある。永遠にかけ続けられはしない。

 

 脳みそをフル回転させてもろくな解決策は浮かばないが、ここで勇者を死なせる訳にはいかなかった。

 彼が望んだこととはいえ、勇者をこんな地下牢に閉じ込めた上に死なせてしまってはオルドルフ卿ですら処刑は免れないだろう。

 というか勇者云々に関わらず普通に人が喰われる場面なんざ見たくない。

 大体なんでこんな時にあの魔法陣が発動したんだ。


 解決策が浮かばな過ぎてリリアナの思考が段々愚痴っぽくなっていると、唐突に勇者の声が聞こえてくる。


「剣一本で何が出来るかと言っていたな」


(こんな時に声を出すな!!!!!!)


大声ではないがそれなりに響き渡る声を勇者が急に発したことで、獣達の警戒が見るからに強くなった。

 余計なことで命を縮めるなと訴えたいが今にも襲いかかりそうな彼らの様子に、何が刺激になるか分からず、呼吸すら躊躇ってしまう。


 けれども勇者はそんなリリアナも、ホーンウルフ達すらも気にも止めず続ける。


「案外色々と出来るぞ。例えば──────」


 一瞬、勇者の身体がブレる。


 「?」とリリアナが目を擦ろうとした途端、


 「ギャンッ!」


一頭のホーンウルフの頭が、爆ぜた。


 周囲の四頭が驚いて振り返れば、右目に剣が突き刺さり、フラリと倒れようとする仲間の姿が。


 闘技場の奥、いくつも備え付けられた内、五つだけ灯っていた松明の火が一つ消える。


「こういうのとか、な」


その瞬間を逃さず、勇者が一気に距離を詰めると、走った勢いそのままに先頭に居る一頭の頭を踏みつけ、地面にめり込ませた。

 まだ息のある三頭は襲撃に驚いた様子で散る。


 どうにか戦闘態勢を立て直した一頭が勇者に噛みつこうとするが、彼が今踏みつけた獣を蹴り上げて盾にしたことで、その牙は仲間の腹に届く羽目になった。


 また一つ、火が消えた。


 勇者が盾になった死体を噛み付いてきたホーンウルフごと地に打ち捨てると、今度は二頭が別方向から襲いかかってくる。

 片方は牙で噛み砕く為に飛びかかり、もう片方は角で突き刺す為に真っ直ぐ突進して来た。

 勇者は躊躇なく飛びかかって来た方と向き合い、身を屈めて牙を避けるとガシリッ、と頭部を掴み、突進して来ていたもう一頭の方へ振り返りながらそいつを突き出す。それにより、彼に突き刺さるはずだった角は意図せず味方の口蓋をぶち抜くこととなった。


こうしてさらに一つ、火が消える。


残るは二頭。ただし一頭は死体に食い込んだ牙が未だ抜けず、もう一頭は角に死体をぶら下げた状態だ。


 勇者は幾分か余裕を持って最初に投げた剣を死体から引き抜き、再び構える。

 その頃には流石にホーンウルフ達の牙も角も抜けていたが………………



 最終的に残り二つの火も消えたことは、言うまでもないだろう。



「………………」


呆けた顔で眺めていたリリアナ側の壁にも松明が一つ灯っており、最終的に全て消えてしまった向こう側と違い未だ温かな光が灯っている。なんなら心なしか照明役のその辺の松明より力強く煌めいているくらいだった。


 この闘技場が運営されていた当時の城主の趣向だろうか。戦いを盛り上げるために大盤振る舞いで設置されている魔法具の数々にリリアナは大分引いていた。あの馬鹿でかい音で鳴った鐘も、元はこの闘技場の為のものだったのかもしれない。


 しばらくして全ての松明の火が一斉に消えてしまうと、勇者がスタスタと歩いて戻ってくる。

 その顔に既に笑みはなく、初めと同じようなどこを見てるんだか分からない、ぼんやりとした顔つきをしていた。


 カランと剣を前の位置に戻してドスンと身を投げ出すようにして椅子に座る。

 そのまま目を閉じてしまったので、リリアナはハッとして再度名を呼ぶが、寝付いてしまったようで全く目を開ける様子は無い。


 いくらなんでも寝つきが良すぎる。


彼女は安堵によるものか気疲れによるものか分からない、大きなため息をつくと、疲弊した顔で暗闇の中に横たわるホーンウルフ達の死体を見やった。


「勇者の戦い方じゃないでしょ………………………」




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