旅の困難(集合場所に来ない勇者)
前にも述べたが、目的地に着くまではトラブルの少ない安全な道を通る予定だった。
面倒ごとで初期からスケジュールを崩したくなかったリリアナが必死に調べた、比較的治安の良いルートだ。よっぽどの不運に見舞われなければ、何事もなく目的地に辿り着けるはずだった。
しかしあくまでそれは、自ら危険に首を突っ込みにいかなければの話である。
「おいあんた!そのでっかい魔物仕留めちまったのかい!?」
「こいつ、うちの家畜襲った奴じゃないか………助かったよ」
「こんなの持ってってどうすんだ?毛皮剥ぐなら手伝うけど………」
「喰う」
「く、………食べんのか!?!?」
「魔物って食べれんのかよ」
「知らないよそんなの」
ザワザワ、ガヤガヤと賑やかな村の一角を、リリアナは冷ややかな目で眺めていた。
しばらくしてようやく人が減ってくると、ツカツカと先程まで囲まれていた人物に近づいていく。
「何してるんですか貴方?」
「……………誰だ、お前」
「いい加減慣れて下さい。案内役を請け負っているリリアナです」
彼女は現在、髪は焦茶、瞳は深い緑と巷でありふれた色に変わっていた。
勇者が世間に発見される前から聖女と同行していたことがバレないようにする為の偽装である。
「それは良いんですよ。今私が聞いているのは、何故貴方が集合場所に居ずに魔物なんて狩っているのか、ということです」
「魔物が出る、と聞いたから」
「戦うならせめて私に伝えてからにして下さいと先日も言いましたよね?何故伝えずに行ったのですか」
「お前に伝えてたら魔物が逃げるかもしれんだろう」
「逃げたならほっとけば良いでしょうが!!!!」
この勇者、ありとあらゆる危険に自ら首を突っ込みに行く。
そもそもリリアナが定めたルートでは泊まる宿も決められているのだが、彼はとにかく野宿をしたがるのだ。
曰く、「俺の住処じゃないから落ち着かない」とのこと。
自然とて別にお前の住処ではあるまい。
仕方がないので翌日の集合場所を決めて、リリアナは宿で勇者は森で一晩を過ごすのだが、大体翌朝になっても勇者が集合場所に来ない。
何故なら森で過ごしている間に獣やら魔物やらを見つけて、そのまま追いかけてしまうからだ。
どうにも目の前のことしか思考に上らないようで、リリアナがいれば彼女を案内人と思ってついて来るのだが、いないと他に興味のある方に行ってしまうらしい。
結局毎度彼女が半日かけて勇者を探す羽目になり、旅程は大幅に遅れていた。
(これはもしかしなくても、私も共に野宿しなくてはいけないのでしょうか……………)
実は初期の方から薄々分かっていた解決方法が再び眼前に立ちはだかる。
集合場所に来ないなら、初めから同じ場所で一晩を過ごせば良いのだ。
勇者が自分に合わせてくれるはずも無いので、当然自分が彼に合わせるしかない。
(……………多分、寝心地は最悪ですよね)
合わせるしかないのだが、人の手で整備されている建物となんの手も加えられていない自然では快適さに天と地程の差があるだろう。
理性では解決策が出ていたのに、彼女が決断に踏み切れなかったのはそれが理由だ。
人間の為に用意された宿泊場所をどうしても手放せなかった。
ある意味では、旅程が遅れた原因がリリアナにあるとも言える。
「………………………………………仕方がありません。今晩からは私も貴方と野宿します」
「かなり嫌そうだが止めた方が良いんじゃないか」
「だったら貴方が宿に泊まって下さい」
「嫌だ」
「…………………」
最悪だろう寝心地を少しでもマシなものにする為、多少値段が張っていても良い寝具を買い込もうとリリアナは決意した。