慶太郎、クエストの報酬を食べる
「キミが、タルタルソースの作り方を教えてくれるって言うノームの少年だね? 」
「はじめまして、ケータローです。ハジマリの村から来た冒険者です。」
「なるほど、卵ソースの! ハジマリ村出身者ならタルタルソースの作り方を知っていてもおかしくないな!! 」
「家によってちょっと入ってるものが違ったりするんで、魔王様のタルタルソースと違ってるかもしれないのですが。」
「ほほう! 家庭によって違うお袋の味のソースなんですな! 」
ガッチリとした体型と岩のような肌をした町長との握手は、慶太郎の手のひらに傷を作った。ロックリザードとかいう種族らしい。町長はめちゃくちゃ強いそうだ。たぶん握力だけでりんごジュースを絞れそうなくらいだった。
慶太郎は手のひらの傷をポーションで治してから、レシピを伝授する。
「まず、玉ねぎは細かいみじん切りにし10分ほど水にさらし、よく水気を絞ります。」
「こうか? ぎゅっっっっ!!! 」
「ああ圧縮が強い……。水気全くないじゃないですか。あ、いや、強めで大丈夫デス――で、ピクルスも細かいみじん切りにし、軽く水分を絞っておきます。あの、こっちは軽くでいいですからね。」
「む。力加減が難しい……。ぎゅう……っ! 」
「ゆで卵の白身も細かくみじん切りにして、これらをみんなおんなじボールにいれます。そこに塩コショウ少し、マヨネーズたっぷり、レモン汁お好みでいれて混ぜます。味みてください! どうですか? 」
「ん、ああ! シャキッとした歯ごたえの玉ねぎとゴロゴロとしたゆで卵がたっぷり入って、んんっ、ソースだけど食べごたえもあって、旨い! これがタルタルソースか……! 」
「味を見て、塩気が足りなければ塩、酸味が足りなければレモン汁を少量足し、お好みの味になれば出来上がりです。って、や、ちょっと味見なのに食べすぎじゃないですか町長! 」
「はっ! あまりの美味しさに、つい……! これをアジフライにかけるのか。絶対旨いな! おい、持ってこい! 」
町長が手を叩くと、奥から皿を持った使用人が現れた。
皿の上にはもちろん、黄金色をした衣の―――
「アジフライ!! 」
「そう、ギルマスに言われたクエスト報酬だ。この迷宮採れたて直送で熱々だぞ? これに、今作ったタルタルソースを掛けて……、さあ、召し上がれ! 」
「―――いただきます。」
ザクッ……
衣が音を立てると、じゅわりと魚の瑞々しさが溢れ出す。身は歯応えが残る適度なフワフワ食感、脂がのっていて美味い。
玉ねぎとピクルスの、素人の荒いみじん切りがタルタルソースにざっくりとした歯応えを作ってアジフライと混ざりあう。ともに、衣が、アジの身が、噛み砕く度に口の中で踊り出す。
「ヤバ、旨い…っ……! 」
手のひらくらい大きなアジフライは、あっという間に消えてなくなった。迷宮の魔物を倒した後のように消えた。ドロップはないが、満足感だけが残る。いや、もっと食べたい飢餓感もある。これは宝箱に入ってるだけある、――嗚呼、宝物だ。
タルタルソースのレシピを売って小金を得た慶太郎は、しばらく迷宮都市に滞在してアジフライを飽きるまで食べるのであった。
続きはのんびり書きますね。