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慶太郎は伝説のTKGを食らう

ハジマリの村から街道を半日歩くと、少し都会の町についた。そこには地図を置いている店があると聞いたからだ。旅をするのに地図なしは迷子になりかねない。


日本でみたような精密な地図ではなかったが、商人の使う簡略化した地図を見たときに、慶太郎は気がついた。


地名が日本語のところに美味しいものがあるに違いない、と。


今いる町から川沿いに南に向かうと"ウオヌマ"という町があった。しかも、"コシヒカリ"という食べ物があると店の商人から聞いた。そりゃ行くしかないと乗り合いの馬車に乗り込むこと3日。


結果だけ言えば、"コシヒカリ"は予想通りに米であった。


早速、乗り合い馬車で出会った商人から聞いたネタを試してみようと、宿の食事処でマジックバッグからハジマリの村の卵を取り出す。商人から購入した調味料とともに。




「女将さん、ここにクリーン済みの生卵があるんですが、例の―――」


「それはハジマリの卵!? では、伝説のTKGですね……! 」


ラミアとおぼしき女将さんはきらりと目の端を光らせる。


それに合わせて周囲の目もギラついた気がした。




この世界では、もともと生卵は食べるものではなかったという。浄化済みの卵を時間停止のマジックバッグで持ち運びするという魔王様の発明により普及したとラミアの女将が話してくれた。


転移前の日本では生卵は当たり前にスーパーに売っていたが、衛生管理や賞味期限がしっかりしてるからこそである。他国には生卵が危険な国もそれなりにあったし。


そもそも日本の鶏卵は、採卵後、そのまま流通するのでなく、通常、流通過程でパックに詰められる前に「洗浄・殺菌処理」が実施されていた。そうでないとサルモネラ菌によるサルモネラ症を発症する可能性があり、少なくとも生では食せないのだ。


あとは輸送の問題もある。冷蔵トラックのような温度管理ができて早く走れるものや、揺れの少ない道路なんかはこの世界にはまだ少ないようであった。


マジックバッグがあったから、可能となった伝説のTKGなのである。




ラミアを女将が茶碗一杯のごはんをテーブルに置く。つやつやと輝く、真っ白なごはんが湯気をたてている。米が立つとはこういうことかとため息をつく。見た目にも最高に美味しそうだ。


慶太郎はまず卵黄と卵白を分けた。商人から分けてもらった貴重な"TKGのたれ"と呼ばれるだし醤油を小さじ1と、ハジマリの村のシスターに持たされたきび砂糖を小さじ半分卵白に入れて全力で混ぜる。一分くらいまぜる。そして、卵白をご飯にかけ、上に卵黄を乗せたら完成だ。




「んん……っ! な、なるほど…!! 」


卵黄を崩しながら口に頬張ると、卵白が米の滑りをよくするのか、直滑降でするする胃袋に入ってくる。胃袋の中でスポンジに水が染み込むくらい、卵かけご飯が慶太郎に染み込んでくる。箸が止まらず、茶碗をかっこむ。


伝説と謡われるだけある、卵かけご飯であった。


「………ふぅ。日本じゃ“めんつゆ×天かす”派だったけど、だし醤油×砂糖派に鞍替えしてもいいわ……。あの商人さん確実に玄人だろっ……! 」




「こちらもどうぞ。」


どうしてもと頼まれて、結局女将にハジマリの卵を売ったのだが、そのオマケといわれて出てきたのが卵焼きだった。


箸を入れると、湯気がふわりと立ち上る。焼きたてのようだ。


TKGに砂糖を入れていたことから予想していたが、甘い系卵焼き。魔王様の実家は玉子料理には砂糖を入れる家なんだろう。ふわふわしてとろとろした柔らかい舌触り。添えられた大根おろしとの対比が素晴らしい。


慶太郎の実家はしょっぱい系卵焼きだが、またこれもよい。だし醤油をちょっと掛けてもまた美味しい。




「この形の卵焼きはこの辺りでしか見られないんだよ。なんせ、隣村のドワーフと魔王様が四角い卵焼き専用フライパンを作ったのはまだ最近の話だからね。魔都にだってまだないはずだよ! 」


女将が嬉しそうに笑う。


この卵焼きに相当な自信があるのだろう。これは自信があってもおかしくない、実に美味しい卵焼きである。

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