慶太郎、祠でお参りをしてオフクロを得る
「旅立つ前にはオフクロ様の祠でお参りをしていきなさい。この村では絶対よ。」
シスターに言われて、慶太郎が旅立ちの前に向かった祠は、赤い鳥居みたいな門のある洞窟であった。異世界であるこちらでは色として朱色がだせないのか、鮮やかな赤色で少し違和感があった。魔王様が作った祠だという。
「オフクロってお母さん? 魔王の母親が奉られてんのかな。日本でも神社にも、神様の関係者とかが御神体だったりすることあるしな。」
洞窟入り口に入ると狛犬っぽい置物が置かれ、足元はジャリジャリ音が鳴る砂利道である。
慶太郎は、つい真ん中は歩かないようになど考えてしまう。この世界の神様が通るかどうかもわからないけど。
少し歩くと水の魔石の魔道具から水が流れ出ており、石鉢から溢れていた。柄杓も置いてあるため手水舎の代わりなのだろうと思われた。一応、慶太郎もお清めをする。
洞窟内の灯りには魔石が使われているが石灯篭風で、魔王が作ったと言うのが事実であれば、確実に彼(彼女)は日本人なんだと思う。よく見ると神社っぽくないところもたくさんあるが、異世界ナイズされたとも言えよう。
奥には賽銭箱と、ご神体が中にありそうな木の建物があった。本殿とでも言えばいいのか。もちろん本殿の扉は固く閉ざされ、中を見ることはできない。
「まあ、折角だからお参りをするか。」
慶太郎は旅の安全を願って銅貨一枚の賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らす。
作法には詳しくないが、お正月を思い出しながら二礼二拍手一礼の順で参拝した。礼は腰を45度~90度に曲げてお辞儀、拍手かしわでは右手の指がひと関節ほど前に出るようにして胸の前で手を打ち鳴らす。
最後の一礼から顔をあげると、なぜか眩しい。
目を細目ながら本殿を見ると閉ざされた扉がゆっくりと開いて、中からまばゆい光が差し込んできたのだ。
「え、何? え、え、中になんかある……! 」
光の中から木札が現れた。
そこには慶太郎にも解る文字で書かれていた。
「なになに? ―――お賽銭入れて二礼二拍手一礼をした人へ。この世界のごはんはまじでハードモードなんで、時間停止の機能があるマジックバッグをプレゼントするよ。この村の卵を持ち運ぶのがオススメ―― って、御神体はまさかのマジックバッグ! 」
木札の下には、茶色の肩から掛ける革製カバンがひとつ。
中には黒色のローブと"どうのつるぎ"、しっかりとしたブーツ、それと銀貨と銅貨が数枚入っていた。魔王の餞のようだ。ありがたい。
帰宅して直ぐにそのマジックバッグに買えるだけの卵を詰め、鶏肉を詰め、マヨネーズを詰め込む。
こうしてマジックバッグをもって旅を始めることが出来、慶太郎は魔王様にお礼をいうことを目標にした。
そして、いろいろ話を聞きたい。日本に戻る方法など知っていないだろうか。
不死の肉体を持つ魔王は、今でも旅をしているらしい。