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はじまり

よろしくお願いします

「そもそもあんたのせいでここにくるハメになったんじゃんアタシ達」

ボソリと、しかし『訓練中』の他のクラスメイト達にも確実に聞こえる音量で放たれた言葉。

口にしたのはクラスの女子の内で人気を二分していた片割れ、水野ハルナ。

その言葉を受け、愕然とした表情を浮かべて何かを言おうとするも、言葉が出ないのか口をパクパクとさせるだけの少女は、クラスの人気を二分していたもう1人の女子、朝日ユウキ。

「そうだよな……」「たしかに」「言われてみればアイツのせいじゃん……!」

一度放たれた批判の言葉は、かなりの速度を持ってクラス中に伝播されていく。


「………っ!」

いくつもの敵意のこもった目線に晒された朝日ユウキは、その視線から逃れるように『訓練所』から走って立ち去っていった。


「うわ逃げた」「サイテー」

と、口々に悪意を吐き出しながらも追いかけもせず憎々しげに彼女の出て行った扉を見つめるクラスメイト達をみて、俺は少し溜息を吐き出して、ゆっくりとその場を立ち去った。



時を、少し巻き戻す。



とある日の朝、どこにでもあるような普通の高校のひとつの教室。

いつも通り遅刻ギリギリで教室に着いた俺は、自分の席に座り、担任教師の到着を待つ。


「ユウキさー、サッカー部のキャプテンに告られたんでしょ? なんでフッたの? 勿体ない」

と、そんな声が俺の耳に入ってくる。

サッカー部のキャプテンといえば隣のクラスだったか。見た目と実力を兼ね備えた、この学校ではかなりの人気者だったはず。

朝日ユウキもかなりの美少女なので、そいつと付き合っていたとしたらさぞ絵になったことだろう。

「いやー、アハハ、今はちょっとそう言うのいいかなーって。剣道に集中してたいっていうかさ」

そう、朝日ユウキは美少女剣道小町なのであった。

その実力もたしかなもので、なんでも一年の頃には全国大会に出たこともあるとか。

その絵になる見た目も相まって、地元のテレビ局から取材が来ていたこともある。

「はーん? 流石、選ぶ側は言うことが違いますこと!このこの!」

「ちょっ! ユミちゃんやめっ、アハっ、アハハハ!!」

と、この日も朝日ユウキは楽しそうに友人と戯れあっていた。

「チッ」

と、距離的に離れていた一部の女子がかすかに舌打ちをした。

その女子、水野ハルナは俺の隣に座っており、位置的にその舌打ちが聞こえたのは俺だけだろう。

水野ハルナも水野ハルナで綺麗系の美人で人気者のはずなのに、何故か朝日ユウキを嫌っているようであった。割と謎だが、もしかしたら自分と同じくらい目立っている女子がいることが気に食わないのかもしれない。いや、まぁ俺の勝手な憶測だが。

そして、ユミちゃん、つまり忍野ユミのくすぐりに耐えかねた朝日ユウキがその拘束を振り解いて逃げ出した。

そしてその直後、俺の視界は虹色の光におおわれた。



━━━これは俺も知らなかったことだが、『それ』は、朝日ユウキが教室のちょうど真ん中にたどり着いた時に起こったのだった。



「おお、成功じゃ!」

「見事!」「流石は魔道士長殿」「これで世界は救われる!」

光が収まると同時、明らかに周りの空気が変わる。

なんというか、澄んだ感じの空気感だ。

深い山奥みたいな、科学文明の入り込んでいない空気感というか。

しかしなんだか頭がボンヤリする。なにか上手く回らない感覚だ。

それを押さえながらうっすらと目を開けると、そこにはなんというか、ザ・魔法使いって感じの格好の爺さんと、部屋の周りを囲む幾人もの西洋甲冑を着込んだ騎士のような人物達がいた。

「ム、召喚された者がかなりの数いるようですが? どういうことでしょうか魔道士長殿?」

一際豪奢な鎧に身を包んだ人物が、俺たちを見ながらそう言った。

「いやさ、確実に勇者様に此方にお越しいただくために魔法陣を広めに描いたのが原因じゃろうな。しかし、文献によれば異世界召喚魔術にはこの世界に最適化する様に肉体を変化させる術式が組まれていたはず。それならば他の者も素晴らしい素質を秘めている筈じゃ。問題なかろう」

「いや、しかし……」

豪奢な鎧の人物は納得がいっていない様子で、さらに言葉を紡ごうとするが……。

「ぐ、ぬぬ。すまぬがワシはこの大魔術で些か消耗しすぎた。後のことは貴殿に任せる。もとより召喚後のことは貴殿の管轄だしのぅ」

そう言って魔道士長?と呼ばれた老人は立ち去った。

「と、言う事です。勇者様方。つきましては此方で何方の方が勇者様か鑑定魔術で調べさせていただきたいのですがよろしいですか?」

と、豪奢な鎧の人物がが問いかけてきた頃には、此方の意識もハッキリしてきていた。

その後、まぁ当然と言えば当然ながら一悶着あった。

突然異世界だの勇者だの言われても意味がわからないのは当たり前だろう。

鎧の人も騒ぐクラスメイト達を宥めようと苦心していたが、まぁやったことは誘拐も同然なのだから抑えきれない。

そして、一番声のデカかったバスケ部の不破リョウスケが、魔法で【昏睡】させられ、その場は静まり返った。


「手荒な真似をして申し訳ない! しかし此方にも事情があってのことなのです! 皆様の混乱は分かりますが、少し此方の話を聞いていただきたい。ですがこのままでは冷静に話し合うなど無理でしょう、なので1日! 1日時間を空けますので、どうぞその間に落ち着いてください。メイドの者たちは皆様を客室の空いている部屋に案内して差し上げてくれ!」

と、言われ、俺たちは不破リョウスケが昏睡させられたことで怖気付き、素直に従う他なかった。

そして、次の日の朝、俺たちは大きな城の中庭に集められていた。

その城は昨日俺たちが一晩を過ごした建造物らしいが、素人目にみてわかるほどに建造物として歪な形をしており、嫌でもここが別な世界なのだと理解させられた。


そして、昨日の豪奢な鎧の人とは違う鎧を纏った人物が、俺たちの前に現れた。

その人物は自らの兜に手をかけ、それを外した。

シュルシュルと金色の長い髪がたれ、それはまぁとても整った顔の美女が兜の中から現れた。

「改めてご挨拶申し上げる!我が名はアンネローゼ・シュヴァイン! この地を治める女王陛下の近衛騎士の長を務めている者だ!

これより貴方がたが置かれている現状について説明させていただく! 質問等は話が終わった後に受け付けるのでまずは耳を傾けてもらいたい!」

そうして、アンネローゼ・シュヴァインはいくつかのことを語った。

ここがヴァルハートという国であるということ。

そして魔蝕という現象に苦しめられていること。

その魔蝕の原因は魔王という存在であること。

そして魔王を倒せるのは異世界の勇者だけということ。

そのために俺たちは召喚されたということを。

それを聞いて、クラスメイト達はあまり大きな反発ができなかったが、そのうち1人が震える声で問いかけた。

「あ、あの……ウチに帰してもらうことはできないんですか……?」


それを見て少し憐れみの色を宿した目を向けながら、アンネローゼ・シュヴァインは残酷な言葉を口にした。

「現時点では不可能だ。世界を超えるほどの魔力は召喚で使い切ってしまったし、仮にその魔力が残っていたとしても現状を打開するまでは帰せない。呼んだ意味がないからな」

明らかな落胆の溜息が随所で吐き出される。

しかし皆ある程度悟ってはいたのか、不満を表立って表すものはいなかった。

「じゃあ、魔蝕ってのはなんなんだ……ですか?」

ならばせめて建設的な話をしようと、俺はそう問いかけた。

「魔蝕とは、書いて字の通り魔力への侵蝕。我々は自然界の魔力を体に取り入れて生きている。その魔力を蝕み、人が吸収できないソレへと変貌させてしまうのが魔蝕だ。魔蝕の範囲はどんどんと広がっている。このままでは、人類の生活圏は全て失われてしまう」


「わかりました。じゃあ、魔王を倒して魔蝕を止めたら、俺たちは帰してもらえますか?」

と、俺は続ける。

「ああ、それはもちろんだ。魔蝕の危機さえなくなれ貴方がたをこの世界に拘束する理由はなくなるからな」

クラスメイト全員から様々な感情が湧き出る。

帰れるという希望、魔王を倒さねばという使命感、それができるのかという不安。などなど。


「では、貴方方の中から勇者様を見つけ出すための鑑定の儀を執り行います。呼ばれた順に此方へ来てください。」


そうして、鑑定の儀、というのが始まった。

【聖騎士】【聖女】【賢者】など、仰々しいものから【戦士】【鍛治師】【忍者】なんてのもあった。

そんな中、俺はというと、

「【狩人】か」

俺は、手に持ったカードを見つめながら呟く。

そのカードは【ソウルカード】というらしく、当人の魂に刻まれた能力を書き記したものだとか。

俺はカードを右手に押し付ける。すると、カードはスッと右手に溶け込むように消えた。

これはなんかまぁそういうものらしい。

「【勇者】様がわかったぞ!」

と、そんな声に驚いて振り向くと、そこには困惑した顔の朝日ユウキと、喜びに満ち溢れたアンネローゼ・シュヴァイン他、ヴァルハートの関係者がいた。



そして、クラスメイト達はそれぞれ大なり小なり、『こいつに巻き込まれたのか』という感情を心の中で抱いていた。

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