表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/81

その53

 

「結局、紅夜くんは変わらなかった。助けを求めることも、誰かを求めるもしないで。そのままひとりでいることを受け入れたまま卒業して。君は目をそらすことを選んだんだ」


 痛い。

 美織の手が、視線が、言葉が。

 何もかもが、すごく痛い。


「私は、私のことを見て欲しかったのに。それなのに、君は…!」


 ギシギシという音が聞こえるかのよう。

 まるで心が張り裂けそうだ。


「悪いの、かよ…」


 だけど…


「は…?」


「僕が全部、悪いのかよ!逃げちゃいけなかったのかよ!?」


 美織の手を振りほどいて、僕は叫ぶ。

 僕にだって、言い分くらい、ある。

 美織だって十分勝手じゃないか…!


「僕だって逃げたいわけじゃなかった!たくさん悩んださ!でも、あの時の僕は、もう限界だったんだ!あれ以外にどうしようもなかったんだよ!」


「なに。いきなり…逆ギレしないでよ」


「怒りたくもなるよ!美織だって辛かったかもしれないけど、僕だって辛かったんだ!なのに、好き勝手言ってくれちゃってさ!」


 やれることをやったなんて言わない。

 あれしか出来なかった。


「あの時は、どっちも悪かったんだ!それでいいだろ!僕にばっかり、責任を押し付けないでくれよ!!!」


 ああすることが、あの時の僕にとって、正しい選択だったんだ。


「頼むから、今さら蒸し返すなんてしないでくれよ…僕の中じゃ、もう終わったことなんだよ…別々の道を行けば、もうそれでいいじゃないか…」


 今さら、こんな話なんてしたくない。

 だって、終わってるんだ。僕たちの関係は。

 だから交わらない。どこまでいっても、平行線にしかならないのに。


「…………彼氏なのに」


「え…」


「彼氏だったのに、そういうこと言うんだ。私を助けてくれなかったのに。助けて欲しかったのに…」


 美織の中では、まだ終わっていない。


「私はまだ、君のことをこんなにも好きなのに」


 だから、こんなことになる。

 まだ先があると信じている。


「……いいよ、もう。白けちゃった。この話はまた今度にしよう。今日はもう、なんだか疲れたから」


 美織は僕に背を向けた。

 そのまま自分の家へと、ふらふらとした足取りで歩いていく。


「でも忘れないで。君には幸せになる権利なんてないの。美織以外の子を選ぶなんて、私が許さないから」


「……僕は」


「これからの高校生活、楽しみだね。紅夜くん」


 そう言うと、美織は今度こそ去っていった。

 痛烈な置き土産を残していったその背中に、声をかけることはしない。

 なにも言えることなんてないからだ。


「わかってるよ…」


 そんなことは、もうとっくにわかってる。

 これはきっと美織がかけた呪いのようなものなんだろう。

 取り返しのつかないことを、僕はしたんだ。


「僕なんかが、幸せになれるはずがないんだ」


 やるせなさからそう呟くと、家に向かい踵をかえす。

 とにもかくにも、今回は切り抜けることはできた。

 安心感したからだろうか。

 疲労がどっと押し寄せてくる。


「疲れた、な…」


 元々プレッシャーに弱いのもあるんだろう。

 今はもう、早く眠りたい。

 とにかく、疲れた。


「とんだ入学初日になっちゃったな…」


 最初からこんなことで、やっていけるんだろうか。

 わからない。僕はいつも悩んでばっかりだ。


 ゆっくりと玄関のドアを開けると、どこからか小さく、ごめんねと呟く声が聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まぁ確かに主人公も屑だけど美織もそれに匹敵するんじゃない? 主人公がそういう人間って知ってて付き合っていながら自分が浮気行為をしてそれを弁明せず隠したまま全て主人公が悪い(実際主人公が悪いと…
[一言] このモヤモヤが解消されることがあれば良いな
[一言] 表美織が言ってた元の姿に戻って〜云々も実行してないし 裏美織の言ってた可愛い姿でチヤホヤされて満更でも無いってのは実際本心だったぽいな 今の主人公とこの時点で合ってないし、元の地味な姿に戻ら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ