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その2

 その日、僕は家にいた。

 美織が出たというクイズ番組、今日がその番組の放送日だったからだ。


「ふぅ…」


 放送まであと5分まで差し掛かったところで、一度大きく息をつく。

 今の自分は緊張しているのがよくわかった。

 とはいえ、この緊張に意味はない。番組の収録はとっくに終わっていて、今日流されるのは編集された動画に過ぎないんだ。

 当日、彼氏といえど生で応援することも許されなかった僕には、ただ既に終わった結果を見守ることしか許されていなかった。


 美織がどこまで勝ち進んだとか、どんな問題が出たのかについても、僕は一切知らないし話されてもいない。

 スタッフの人に放送までは話さないでいて欲しいと念押しされているらしく、それを美織は律儀に守っているからだ。


 良くも悪くも素直なところが、美織にはある。

 そんなところが僕は嫌いじゃなかったし、彼女の意思を尊重したいと素直に思えた。


「あ、時間だ」


 だから深く聞くこともしなかった。

 その日のことも。なにがあったかも。


 ―――どんな姿で、テレビに映ることになったのかも。


 19時を迎え、番組が始まった。




「あれ…?」


 始まってすぐに、僕はある違和感を覚えた。

 カメラに映し出された同年代の男女達。

 彼らがこのクイズ番組の出場者なんだろう。それはいい。番組の趣旨は、高校生を中心としたものであることは事前に把握していたから。


「美織がいない…」


 問題はその中に、僕の恋人の姿を確認することが出来なかったことだ。

 切り替えるカメラの視線の先をくまなく探すも、美織の姿が見つけられない。


 体調不良か?もしくは、当日でいきなり怖くなって逃げ出した?

 そんな考えが脳裏によぎる。ありえるかも、と思ってしまったからだ。

 美織は人前に出るのが苦手な子だし、大勢に囲まれて体調を崩すことだって十分考えられる。


 それなら僕に言えなかったのも納得だ。

 気付けばそんなふうに、自分を納得させようとしているもうひとりの僕がいた。


(良かった…)


 本当は良くなんてない。

 恋人が倒れたかもしれないのに、安心してしまうなんて、人として最悪の考えだ。


 だけど、僕は美織が人目に触れることを恐れていた。

 彼女のことを理解しているのは自分だけでいいと思っていたんだ。

 僕だけの美織でいて欲しかった。


 だから、このまま番組が終わればいいと、そう思っていた。


(それにしても…)


 安心感からか、改めて参加者を見ていて、ふと気付いたことがある。


「この子、すごい綺麗だな…」


 参加者のひとり。とある女の子が、すごい美少女であることに。

 画面越しにもわかるほど艶やかな黒髪を綺麗に背中まで伸ばし、前髪も綺麗に切りそろえられた姫カットの、所謂お嬢様スタイル。

 顔立ちも整っており、芸能人にも引けを取っていないんじゃないだろうか。

 姿勢もよく、凛とした態度を崩さない彼女に周囲の男子もチラホラと視線を送っており、明日はきっと学校でからかわれるんじゃないかっていう露骨さだ。

 それくらい他の参加者とは明らかに違う空気を纏った彼女から、何故か僕は目を離すことができなかった。


「…いや、ダメだろそれは」


 ブンブンと頭を振って邪念を払う。

 僕には美織という彼女がいるのに、なにやってんだ。

 ただ見とれていただけだから浮気ではないけれど、それでも他の子が気になってしまった自分が少しショックだ。

 別に自分は浮気性でもないし、ましてモテるわけでもないというのに…美織を裏切ってしまったようで、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


(明日は美織に優しくしよう…)


 そう反省し、改めてテレビに目を向けると、インタビューが始まっていた。

 どうやら出場者の名前を聞いて回っているらしい。

 他の人に特に興味もなかったが、それでもさっきの子がどんな名前をしているのか気になってしまうのは、悲しい男のサガというやつだろうか。


 ひとり、ふたりと、短い自己紹介が次々に終わっていく。

 それらを聞き流して待っていると、ついに彼女の番が訪れた。

 周りも期待していたのか、固唾を飲んで話すのを見守っているように思えたのは、きっと僕の勘違いではないだろう。

 早くもこの番組の主役は、彼女になりつつあったのだ。

 マイクを向けられ、綺麗なピンク色の唇がゆっくりと開かれていく。


(本当なら、ここに美織もいたのかな…)


 その瞬間、ふと思い浮かんだのは彼女の姿。

 寂しさとも喜びともとれない感傷に囚われた、その時だった。



 ―――中学。美坂美織です。よろしくお願いします



 信じられない言葉が、僕の耳に飛び込んできたのは。


「え…………?」


 咄嗟にテレビに飛びついていた。

 普段の僕からは考えられない反射神経だったが、もはやそんなことを気にする余裕もない。

 穴があくほど、その名前を発した彼女を凝視して、確認して。


 そこでようやく。



「みお、り…?」



 画面の向こうにいる美少女が、僕の恋人であることに気付いた。

ブックマークや、↓から★★★★★の評価を入れてもらえるとやる気上がってとても嬉しかったりしまする(・ω・)ノ

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