その14
「今日はちょっと寒いね。冬も近いし、そろそろ雪が降るのかな。今日は冬用の服を見に行くのもいいかもね」
固まる僕に、美織が話しかけてくる。
「でもその前に、暖かいものでも飲みに行こっか?一度ゆっくりしてから色々回って…」
「美織、今日は少し違うね」
矢継ぎ早にこれからの予定を口にする彼女に、僕は思わず口を挟んだ。
「え、そ、そうかな…」
「うん。その、なんていうか…」
―――学校で見る姿と一緒だね
そう言いかけて、口をつぐむ。
「すごく、可愛いと思う」
「ほんと?良かった…」
結局出てきたのは無難すぎる褒め言葉。
だけど、美織は僕の拙い言葉に、安心したように胸をなで下ろしている。
「今日はちょっと頑張ってみたんだ。たまにはこういうのもいいかなって。そう言って貰えて、すごく嬉しいな」
さらに嬉しそうに笑うものだから、これ以上なにも言えなくなってしまう。
なんで?とか、どうして?とか。
本当は言いたいこと、聞きたいことが色々あるのに、二の句が継げそうになかった。
「……うん。いつもの服とも、違うもんね。普段はもう少し、落ち着いた色合いのものを着てたし」
改めて今の美織も服装を見てみると、いつもと全然違うことがハッキリわかる。
白のセーターにピンクのカーディガンを羽織り、ブラウンのスカートに黒タイツという、秋の装いだけど、明らかに他人の目を意識した組み合わせだ。
それも、自分のことを可愛いと自覚しているような子がする着こなしだろう。
僕の知っている美織ならまずしないし、買うこともないだろう服だ。
美織はもっと落ち着いた、悪い言い方をすれば地味な色合いを好んでいたはずなのに…。
「あはは、実はこの前ね。木嶋さんたちと一緒に買いに行ったの。私はこういう服も似合うんだから、もっと派手にしたほうがいいって言われちゃって。最初は戸惑ったんだけど、意外と悪くないかもって思えてきたっていうか…ちょっと心境の変化みたいなものはあったかも。コウくんにみせるの結構勇気いったんだけど、成功したのは嬉しいな」
イタズラが成功したことを喜ぶように、ペロリと舌を出す美織。
これも、以前の美織なら決してすることはなかっただろう仕草だ。
「……うん。大成功だよ。本当にびっくりした」
そう、本当に。
悪い意味で、びっくりした。
「サプライズ成功、だね」
僕がそれに喜ぶと思っていたことに、正直戸惑いを隠せない。
美織がどれだけ嬉しかろうと、僕が見たかったのは、以前の美織だったことに、彼女は気付いていないのだから。
「そろそろ行こっか。ベンチに座りっぱなしじゃ、冷えちゃうだろ」
気持ちを押し殺しながら、僕は美織に手を差し出す。
「あ、そうだね。ありがとう、コウくん」
美織はお礼を言いながら、僕の手を取り立ち上がった。
その手は寒さのせいか、少し冷たい。
「どういたしまして」
だけどそれ以上に、何度も握り合ってきた彼女であるはずの美織の手が、どこか他人のもののように思えてならなかった。
そろそろ幼馴染視点書いたほうがいいかなぁ