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痛い女

 なんて痛い女なんだ。

 僕はそれを見て不覚にもそう思ってしまった。

「で、ね。今日は体育でこけちゃって……」

 会話は普通の世間話しなのだろう。今日起こったことを友達に話しているかのようなそんな気軽さを感じさせる。

「すっごく痛かったんだ」

 何でもない普通の会話。会話? これは、会話なのだろうか。

「うん、次から気を付けるね」

 一人で喋っていることを会話と定義していいのだろうか。会話とは相手がいて初めて成立するものだと思っているからこそ目の前で起きている状況が僕にはどうしても会話だと認めることが出来なかった。

「そ、それでね……うん? 何? あっ」

「……葉花(ようか)さん。僕は、何も見ていなかった事にするよ……」

「ち、違うの!」

 僕はきっと、悲しい目をしているのだろう。なんせ、仲間だと思っていた人物が実は一人何もいない場所に向かって喋っているなんて光景を見たせいだろう。

「残念だよ。同じボッチ仲間だと思っていたいのに君はそんなに友達が欲しかったんだね」

「欲しいよ! 当たり前だよ!」

「僕も欲しい!」

「だよね!」

「けど、流石に自分の妄想とは友達にはなりたくないよ……」

「……妄想?」

「エア友達ってやつかい? 教室で一人そんなことをして寂しくないかい?」

「えあ、ともだち?」

「エア、つもり空気。いもしない友達を作って一人で喋るなんて、とてもじゃないけど僕には真似できない」

「えっ、ちがっ」

「違わない。だって君は一人、教室で、一人、何もない場所に、一人、喋っていたじゃないか。それを見た僕の気持ちがわかるかい?」

「ひ、一人って何度も言わないでよ……」

「なんて痛い女なんだ! って思ったんだ……」

「そんな悲痛な顔をされても……だって……」

「やめてくれ! 言い訳なんて聞きたくない!」

「え、えっと」

「もう、終わりだ」

「……げ、元気出して……そんな世界の終わりみたい表情されても困るから……」

「君に何がわかる!」

「わからないよ! 今日君と初めて話したんだよ!」

「くっ、折角友達になりたかったのに……っ!」

「えっ!」

「手紙まで出して、仲良くしたいって……思ってたのに!」

「えっと、この手紙、君が?」

「ああ、けど……もういいんだ。返してくれその手紙」

「や、やだ……」

「いやじゃない! 君みたいな痛い女と友達になれる気がしないんだ。エア友達なんてものまでしている君に付き合え切れる自信がない……」

「だ、大丈夫! エア、空気に話してたわけじゃないから!」

「そ、そうなのか……。よかった。君がそこまで痛くなくて……」

「幽霊と話してただけだから!」

「……」

 なんて痛い女なんだ。

「HEY! YOUのANSWER TO SAY!」

「無理にテンションを上げているだけに見えるけど……」

「そう、あなたには私がただ芝居をしているだけに見えるのね」

「うん……そうだけど、テンションの落差がひどいから着いていけない」

「大丈夫! ついてこれてるよ! 君のそのツッコミが証拠だよ!」

「ごめん、葉花さん。やめてくれる? 正直気持ち悪い」

「ぇっと、ご、ごめんね?」

「うん、その方がいいから。『霊降ろし』とか言って無理に芝居をしなくていいんだよ?」

「む、無理とか……してないから。そ、それにこれは本当、だから……」

「うん安心して、良い精神病院を調べておくから」

「ち、ちがう、から!」

「うんうん」

「ちが、うから!」

 世界には不思議な事が幾つかある。

 宇宙はどこまであるのか、人はなぜ生まれたのかなんて言う疑問。人によっては他にもあるのだろうが、僕にはこれくらいが限界だ。

 世界には不思議な事はあるものだ。

 だとしても科学的に証明できる。それがこの世界の理で何故、どうして、どうやって、その辺りを突き詰めていけば誰もが納得する答えに行き着くものだ。世界は、そうできている。

 それが、僕の常識であり世界の常識だ。

 だから──やっぱり僕の結論は変わらない。

「やっぱり、手紙を返してくださいお願いします」

「敬語! 君とすごく距離を感じる!」

「何を言っているんだい? 君と僕の距離はきっと君が思っているよりも開いているよ?」

「引かないでよ! ほ、本当だもん。幽霊はいるんだもん!」

「やめてくれよ。それが本当だったら僕はもう布団に包まって現実逃避するしかないじゃないか……」

「だ、大丈夫。すぐに仲良くなれるよ!」

「誰と?」

「わ、私達と!」

「……無理だ」

「な、なんで?」

「だって、友達がいないのに『達』って言っている妄想のプロである君に平凡な僕がついていけるわけないじゃないか……」

「も、妄想のプロ……。そ、そんなのじゃない!」

「君が証拠を見せてくれると言うのなら別だけど、僕には君が妄想しているようにしか感じない」

「そ、そ、そこまで言うのなら見せてあげる!」

「え?」

「私の友達が妄想じゃないって証明して見せる! ~~~~~~っ! 汝、何を欲する?」

「えっ、中二病?」

 訳の分からない言葉を言い出した目の前の少女に僕はそんな感想を覚えた。

「ちゅうにびょう?」

「……不思議な力を宿していると思っている人達のことだけど……」

「わかった。与えよう」

「え?」

「汝にちゅうにびょうを与えん。感謝しろ」

「えっと? 葉花さん?」

「っ!」

「葉花さん!」

 急に脂汗を掻き始め彼女は教室の床にいきなり倒れた。思いっきり頭をぶつけ、鈍い音を立てながら。

「葉花さん! 大丈夫!」

「あら、大変」

「君、手伝ってくれ!」

「え? え、ええ、わかったわ」

「僕は右を君は左を頼む!」

「ええ……」

 彼はこの時気付かなかった。確かに先程まで彼女と彼しかいなかった教室に女子生徒が一人増えていると言うことに……。

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