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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第26話 激甘フェミニスト発見……なんです! 私が厳しい訳では断じてない

「私、お酒を飲んだのは昨日が初めてでっ、昨夜は本当に申し訳ありませんでしたっ! 」

 顔を真っ赤にして最敬礼で謝罪して、セルジュさんはやっぱり、気にしていません、の一言で水に流してくれた。

 本当に大人だし、昨日同化したときにちょっとだけ思念が漏れてきたけれど、母様が妹だったせいかな、女性に対してすごく優しいんだ。

 つまりは俺も女性と認識されている訳なのね。


 複雑な気分を抑えて、今日、セルジュさんがエグリスさんを送っていった後のマイナたちやライラたちの訓練の仕方について打ち合わせ、往復5日から1週間を頼むと言われたときに、エグリスさんをリルに乗せられないかと思いついた。


「リルの了承が得られれば、エグリスさんをリルに乗せられます。

 それならリル自身は最速だと片道が1日で行けると思いますので、後はセルジュさんが走る速さ次第になりますよ。」

 そう提案したところセルジュさんは不敵に笑った。


「セイラさんに治療してもらって古傷を庇う必要がなくなった私が、フェンリルに追いつけないとでも?

 良いでしょう、怪我の回復具合を確認するのにちょうど良い、その挑発に乗りましょう。」

 あ、いえ、別に挑発したつもりはなかったんですが、と思ったが、セルジュさんの気持ちはもうリルと競争することに決まったようだ、

 フェンを訓練の補助に置いていってもらうつもりでいたからリルは全力で走るだろうし、これはひょっとすると日が高いうちに辿り着くかもしれない。


 部屋に戻ってエグリスさんに声を掛けて、セルジュさんと3人で魔獣小屋へと行ってリルとフェンに事情を話してお願いをしたら、リルは、やる、と二つ返事をしてくれた。

 フェンも本来ならもう子離れの時期を過ぎていて、ジューダ君に同化されている間に実質的に子離れは済んでいて、今、リルと一緒なのは親子というよりも群れの一員としての意識が強いためなんだけど、群れる習性を止めてしまったフェンリルでは珍しい行動になってしまっていて、(たま)にはリルから離れて過ごせることが嬉しいようだ。

 

 そうと決まれば、と全員で宿の食堂に降りて朝食を摂って朝の準備をする。

 俺は思いだして、セルジュさんにズダルグからもらった書状と報酬を渡して、母様に説明をして渡してもらうように頼んで、町の門で見送った。

 エグリスさんがぎこちなくリルに乗るとリルとセルジュさんが走り出し、同時にエグリスさんはガクンと後に体を吹き飛ばされそうになって、キャーッという悲鳴が糸を引いて見る間に遠ざかりやがて見えなくなった。


 俺は残されたみんなを振り返ると、にっこりと笑って宣言した。

「さて、セルジュさんの訓練と母様の訓練のどちらが厳しいか、比べてみましょうか。」

 俺が監督役と言うことで何となく甘く見ていたみんなの顔色が一気に青ざめたのは言うまでもない。


◇◆◇◆


 残ったみんなのレベルを聞いたら、全員が1,000以上でC級の冒険者だった。

 ライラとサファは別メニューと言うことだったけれど、C級なら大丈夫でしょ。

 セルジュさんはフェミニストだなあと思いながら全員を森に連れて行き、ライラとサファは初めてなのでフェンをサポートに付けてまずは戦わせてみた。


 ちょうど狐系の魔獣がいたのでライラとサファに嗾けたのだけど、ライラとサファは戦うのが初めてで、訓練でやったということが何もできないのは、まあ仕方ないかな。

 パニックになって内股でお嬢様よろしく剣を振り回しているだけだし、これは弱い魔獣を送って少しずつ慣らしていく必要があるね。

 フェンが心得ていて、強い攻撃はインターセプトしつつ大した攻撃もしないでライラとサファの方へと追い返す。

 狐は多少の風魔法を使うようだけれど、切り傷以上の怪我にはならないみたいだし、ちょうど良いからそのまま戦ってもらった。


 威城のメイドだっけ、4人の方へは探知範囲にちょうど入って来た猪の(つがい)がいたので、みんなにはちょっと呼び込んでくると告げて誘き寄せに行った。

 猪のところまで行くと小さい方にちょっかいを掛けて、大きい方が突っかかってくるのを(かわ)しながら誘導してみんなのところまで引っ張ってくる。


「行ったよーっ! 」

 4人に声を掛けると、怒った猪2頭がヒュンヒュンと風弾を周囲に决散らしながら4人に突っ込んでいく。


「何だこのバケモノー! 」

 叫んで素早く移動ながらマイナが白い靄を展開して大きい方の猪の突進を受け流し、重くってムリー!、とシャラが悲鳴をあげながら何やら掴む仕草で引っ張ろうとして引っ張りきれず、こんのぉーっ!、と叫んで突っ込んできた猪の軌道を僅かにずらすと頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 猪はしゃがんだすぐ側を駆け抜けて素早く方向転換をして、(うずくま)っているシャラに駆け寄ってきたマイナがバチバチッと魔法を拡張したかと思うと白い靄を盾のように大きくしてシャラの前で構えて踏ん張って猪の突進を受け止めて、ほら、早く、とシャラに次の対応の指示をする。


 小さい方の猪はノーメに向かっていって、ノーメは構えたまま素早く足を使って狙いを躱そうとしたが猪が小刻みに方向転換をしてくるのを見てくるりと後ろを向いて逃げ出した。

 そうして真正面にあった木へと飛び上がると猪を見ながら木を蹴って跳ね返るようにして猪へと蹴りを入れた。

 ごろごろっと転がりながら猪が倒れているのを確認して、ユルア、全員にバフを掛けて、と指示をする。


 うん、こっちのみんなは少し経験が足りないながらも何とか戦えている。

 俺は周囲の気配に探りながら、拙いことになったら介入できるように3組の戦いに注意を払った。


 そして、午前中を全員が夢中になって過ごし、一区切りが着いて魔獣も来る様子がないことを確認して休憩を告げると、全員が(くずお)れた。

「セ、セイラ、飛ばしすぎ。

 セルジュさんは1日のペースを考えて魔獣を調整してくれたわよ。」

 そう抗議するマイナたちに触れながら順番に少しだけ同化して回復を掛けていく。


「うん、これで午後も大丈夫でしょ。

 ちゃんと1日保つように何度か回復はしてあげるわ。

 疲労感はセルジュさんのときより全然軽いはずよ。」

「ああ、私たち、セイラがお城に来たときにあんなに親切にしてあげたのに、この子、そんなことも忘れて酷い。」

「んふふふっ。ノーメ、母様の特訓を受けてみる?

 毎日3回は意識が飛ぶわよ。」

 マイナたちの顔に絶望が走ったが、俺はそれくらいじゃ動じないもんね。

 母様の特訓に比べたら、軽い、軽い。


 それで、みんなで食事の準備をしようと伝えたら、ライラとサファは別にして、残りのみんなからセルジュさんカムバックの大合唱が起きた。

 なので、思いついて、ちょっとしたカンフル剤を投入する。


「皆さん。お城のメイドたる者、殿方に気を遣われるようではそもそもの心構えが「「「「あー、分かった、分かった! もう言わないでーっ!! 」」」」」

 俺が始めたのはお城付きメイド長のアイシアさんの口真似で、マイナたちは敏感に反応して悲鳴を上げた。

 ちぇ、”いつも心に王城のメイドである誇りを持ってご奉仕なさい。”まで言ってみたかったのに、俺も耳タコだったけどみんなもやっぱり相当骨身に染みてるみたい。

 さてはセルジュさん、相当女の人に甘いね。

(ああ、その結果が母様か。

 性格が、最強だもんねえ…… )

 想わぬところで変な納得をしながら食事作りを進める。


 ああ、そういえば、と思い出して、

「最近は王太后様も料理を作っててね、冒険者たちはそれを食べてるの。」

と雑談をしたら、全員が驚愕の表情をしていて、特にライラとサファの2人は不可能が可能になってこの世の終わりを見るような表情だった。

 分かる。料理は魔法を使えばできると想ってた人だし、火に掛けたお鍋が熱いことも知らないで直に掴んだしね。

 そう考えると今回のアスモダ行きで一番変わったの、母様なのかもしれないな。


◇◆◇◆


 午後も同様にして訓練を続けたのだが、狼系の魔獣は威城のメイドのみんなはどちらかというと得意みたいだった。

 まだ戦いの練度は低いけれど午前中と全然動きが違う。

 ライラとサファもフェンのサポートを受けながら何とか一頭ずつ倒していく。

 俺はミッシュの伝で勝ちそうな幻覚を狼に見せることに専念して、結構な成果が出せたみたいで、途切れることなく群れが続いてみんなに襲いかかっていく。


 その狼も夕方が近づく頃には一段落付いて、はーい、お疲れ様ー、と声を掛けたら、みんなその場にひっくり返った。

 俺は順番に回復をしていって、さ、帰ろ、このままいると、もうすぐほかの狼がくるよ、と声を掛けると慌ててみんな起き上がった。

 うん、本当に探知範囲のギリギリにいるんだよね。

 幸い、こちらが風下なので土魔法で手早く大きな穴をいくつか掘って手伝ってもらってみんな放り込んで埋めておく。


「あの、素朴な疑問なんだけど、セイラ、確か魔法属性を持ってなかったよね。

 何で回復とか、土魔法とかが使えるのよ。」

 あー、気付いちゃったか。

「秘密だよ。何とか覚えた。」

「「「「………… 」」」」」

 あー、絶句してるね。

「えっとね、ライラとサファとユルアとシャラなら魔力量があるから教えてあげられるよ。」

「「え、覚えられる? やる、やるやる! 」」

「「ぜひお願いしたいです! 」」

 4人からは即答があったが、対象にならなかったノーメが回復が1回だけでも使えるといざというときの生存に関わると言って粘りだして、結局のところ、翌日、全員に回復魔法を教えることになった。



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