第25話 私だけの眷属、全員集合ーっ! なんでこんなに纏まりがないの
「でも、ズダルグとオンゴール伯爵夫人がテンガル子爵の資金を持ち逃げしたことが分かっているのに、私を犯人に仕立てて何か利益があるんでしょうか。」
セルジュさんの説明を聞いて、俺は抱いた疑問をぶつけてみる。
「時間稼ぎのためだろう。
2人はカエンチャの町から逃げていたんだろう?
カエンチャで盗まれた金塊を使う者が現れたら調べない訳にはいかない。追っ手の手を少しでも余分に取らせて逃げ切ろうとしたんだろうね。」
(ああ、なるほど。
攪乱のために罪をなすりつけようとした相手が逃げ込もうとしている国の国王の婚約者……じゃなくてっ……えっと、そうっ、王太后様一行のメンバーだとは想像もしなかったんだろうなあ。)
危うく自分のことをダイカルの婚約者と認めそうになって慌てて否定する。
ズダルグのことはそれで良いとして、このおじさんやマイナたちにはどの程度を話すべきなのかなあ、と考えていると、横からノーメがツンツンと突いてくる。
「何? 女の子になって時間が経ったらイケオジが気になる? 」
(女の子になってって、みんな、どこまで知ってるの! )
自然な笑顔で掛けてくるノーメの言葉に驚いて口をパクパクとさせていると、セルジュさんから提案があった。
「ほかの宿にライラさんやサファさんが泊まっていますから、この際、全員の宿を引き払ってこちらに移りましょうか。」
(え! ライラとサファも来てるんだ! )
ぱあっと顔が明るくなった俺の様子を見て、セルジュさんが、では私が行ってきますから、セイラさんは威城のメイドの皆さんとここにいてください、と言って出て行ってしまった。
セルジュさん、貴族だったのに腰が軽いなあと感心していると、ユルアが俺の気持ちを代弁してくれた。
「セルジュさん、後を継いでいたらテルガの町の城主なのに、無茶苦茶甲斐甲斐しくって、私たちが修行でへたっている間の食事やテントなんかの面倒を全部見てくれたんだよねえ。」
いつも辛辣なユルアがべた褒めなのに感心していると、シャラが近づいてきてマーモちゃんを指さす。
「ねえ、この子、撫でていい? 」
いいけど丁寧にしてあげてね、と許可を出して、それから俺はようやく聞きたいことを聞いた。
「ねえ、みんな私のこと、どれくらい知っているの? 」
「私たちとライラとサファには国王様が洗いざらい話してくれたからね、余所の世界から来てアスリーさんの体に入った男の子だったってことは知ってるよ。
でもライラは前から知っていたみたい。
ただ、口外を禁止されたから、セルジュさんともうすぐ来るエルフのエグリスは知らないね。」
マイナの返事に、みんな、全部知っててこの態度はありがたいと思った。
認めるのは癪だけど、ダイカル、グッジョブ。
だけど、2人、知らない人がいるのかあ。
俺は2人の人となりを聞いて、話すかどうかは会ってから決めることにした。
◇◆◇◆
やがて、荷物と夜食やら飲み物を抱えて残りのみんながやって来て、俺はライラとサファに抱き付いて歓迎した。
後から来た3人は訓練疲れなんだろう、目の下が少し弛んだ感じで疲れ切って回復していない感じだった。
なので、3人の了解を得て少しだけ同化して体組織の再生をしてあげたら、途端にシャキッとしてすごく感謝されたのだが、それを見たセルジュさんが真剣な表情で確認をしてきた。
「セイラさん、今のは単なる光魔法ではないね。」
「はい。内緒の話ですが、神聖魔法と組み合わせることで体組織の復元をやっています。
今、魔獣小屋にいるリルは会ったときに足が怪我で腐って死にかけていたんですけど、この魔法で治したんですよ。」
セルジュさんは何やら考え込み始めて、みんなに夕食の準備を頼んで、それから俺に聞いてきた。
「怪我で引退した冒険者や兵士などにとって、セイラさんの魔法はその後の人生を左右するすごく重要なものになるが、そのことはもう王太后様が考えておられるだろう。
ひとつ、私的なお願いがあるんだが、私の肘と膝の古傷がかなり拙いことになってきていてね、誰か訓練の補佐を頼める者を探そうとしていたところなんだ。
ひょっとして、治療をお願いできないだろうか。」
セルジュさんが上着を脱いで見せてくれた肘は上膊部と二の腕が紐で十字にきつく縛られて肘の周りが腫れ上がっていて、セルジュさんに視線をやると、十字靱帯のどこかが切れていて、こうした上で気をつけていないとたまに変な方向に腕が曲がるんだ、とのことだった。
俺はセルジュさんに、フルに同化しますので抵抗しないでください、と告げて同化をし始めて、セルジュさんの体の悪いところを探った。
体は酷使しながら年齢を重ねてきたためにあちこちが大なり小なり痛んでいて、俺はまずは大きなところから、それからは洗い流すようにして全身を治療した。
やがて治療が終わって同化を解いたら、全員が動きを止めたまま俺とセルジュさんを注視していて、姿が消えた俺が再び現れたからだろうか、わっと歓声が上がって、みんなが集まってきた。
「「「「「「「セルジュさんが若返った! 」」」」」」」
見ると、確かにセルジュさんが10歳は若返った感じになっていて、下手をすれば20歳台でも通りそうだ。
セルジュさんは肘と膝の調子の確認に没頭していて周りのことには気付いていなかったようだが、マイナから鏡を差し出されて、え、これは私か?、と言ったまま絶句していた。
俺は、ああ、これは帰ったら母様に絶対にやらされるな、と覚悟したのだが、目の前のみんなはまだ大丈夫だよね、と思ったところへライラとエグリスさんが、そっと手を上げた。
何でも20歳を超えると行き遅れ感が出てくるこの世界、独身女性にとって、肌の張りが10歳台の感じじゃなくなってくると辛いらしくて、この世界のシビアさに思わず生唾を飲んだ。
でも、2人はもう先ほどやった以上にはならないからね。
◇◆◇◆
一騒動も終わって食事の準備もできて、俺たちは情報交換をしながら食事をし始めた。
まずは俺の秘密から始まって、ビアルヌに来るまでの経緯を話すことにした。
セルジュさんは謹厳実直と言っていい誠意の人だということはよく分かったし、エグリスさんにはアスリーの秘密を話さなければならないのだから、まずは俺の秘密を話して試金石にするのが良いだろうという判断だったのだが……
「……尊いです。」
カエンチャでダイカルとの婚約発表やなんかの話を聞いて逃げ出してきたところまでの流れを話したところで、エグリスさんはそう言ったまま目をキラキラと輝かせて、じっとこちらを見ながら頬を染めて顔の前で両手を合わせているの、これ、どう判断すれば良いの。
困って周りに援助を求めて視線を彷徨わせたら、ライラが頷いて、大丈夫です、と言ってくれた。本当だよね?
それから俺の話はアスリーさんのことに移った。
アスリーさんの幽体が掠われて幾つかに分割されて何かに利用されていると考えられること、分割された幽体の1つがここにいるマーモちゃんの中に入っていることを話すと、エグリスさんの表情は緊張したものに代わって、ビアルヌは小さな町で幽体分離の秘密を解明に繋がりそうな情報はなかったこと、一度カエンチャに戻ってテンガル子爵や領事館の協力が得られるのならそちらで情報収集がしたいことを告げられた。
家出してきたばかりの俺の心情を配慮してくれて、セルジュさんから明日セルジュさんがエグリスさんを送っていくことにして、帰るまでのみんなの訓練を俺が見ることで話が付いた。
それからは気を楽にして、みんなの話を順番に聞いていったのだが、誰かが出してきた飲み物がお酒だったことを俺は知らなかった。
この世界に来て初めてお酒を飲んで、しかもお酒が女の子向きの果実酒だったことから気が付いたときにはぐいと一気に飲んでいて、急に目が回り出したところまでしか俺は覚えていない。
翌朝。
重い気分で目が覚めて、あれ、昨日、どうしたんだっけ、と考えていたら、急にある台詞が思い浮かんだ。
”あのねえ、あるひひゅうに、おひんひんがなふなったったおろこのつらさが、わかりますかあーっ。”
なんだ、これ。
嫌な予感に脂汗を流し始めていると、ノーメがやって来て俺に声を掛けてきた。
「おはよー。
セイラ、昨日は飛ばしてたじゃん。
”おひんひんが”って、しつこくセルジュさんに絡んでて、大変だったんだからね。」
(うわーっ、やっぱりかぁっ。)
取りあえず、お酒厳禁を誓ってセルジュさんに謝りに行くことにした。
前話で、ズダルグからもらった報酬が予定していた金貨では流通途中でのチェックが難しいかな、と金塊に変えたところ、第16話の表現と微妙に齟齬が生じました。
(たぶん)今日のうちに直しておきます。




