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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第22話 衝撃の事実……なんで自分の情報でこんなにショックを受けなきゃならないの

以前に、火曜日と水曜日は更新の可能性は薄いと書きましたね?

事実なんですが、残り3割だったんで今回は頑張りました。



 私たちはしばらく先でカエンチャの男たちが予定していた宿営地に着き、結局夕食をそれぞれで作ることになったのだが、一悶着があった。

 私たちが収納空間から食材を出したところで、盗みだと絡んできた護衛がいたのだ。


「この地の作物は全てカエンチャの住民を養うためのものだ。

 カエンチャで足りない野菜類を補うために我々がこうして食べられるものを集めて回って住民に与えていて、お前たちが手を付けて良い物じゃあない。

 この地から盗んだ物を全て返してもらおうか。」

 私たち全員がムッとしたのを抑えて、血相を変えて詰め寄ろうとする護衛の男へと母様が進み出た。

「住民へ食料を供給して事態を打開しようという立派な対応と心意気に免じて今の侮辱は見逃してあげましょう。

 これらは私たちがテルガの町で準備して収納空間で運んできたものです。」


 母様が毅然とした声で応えてミシュルに合図をすると、ミシュルが収納空間から男たちが運んでいる物資に数倍する食料が積み上がる。

「これは運んでいる物資の一部です。

 品質を見ればこの地の物でないことはお分かりですね? 」

 難癖を付けてきた護衛は黙ったが、今度は責任者が出てきた。

「なるほど、この地で採れた作物でないことは分かったが、現在この地にある作物であることには変わりがない。

 これらはカエンチャに着いたら我々が没収させてもらおう。」


「ほう、力尽くで奪うというなら相手になりますよ。」

 この言い分にはさすがに母様も苛立(いらだ)ったようで、語調を変えたところへ、ゲイズさんが割り込んできた。

「隊長さん、何があったかは存じませんが、それは都市の交易を否定する言葉だ。

 都市を維持すべき者がその態度ではカエンチャの町が成り立たなくなるでしょう。

 まして、お国の苦境のお力になりたいと来た私たちを頭から侵略者扱い、犯罪者扱いしたのでは、問題の解決は遠のくばかりではありませんか。」


(おお、さすが元城主代行の息子。もっと言ってやって。)

 俺がゲイズさんの鮮やかな弁舌に感心していると、責任者の男も少し反省したらしい、姿勢を正して、すまなかった、そのとおりだ、と頭を下げた。


「国の恥を(さら)すようだが、カエンチャの町に着けば分かることだから説明しよう。

 カエンチャは支配権を持つオンゴール伯爵の依頼によりテンガル子爵が統治を代行しているんだが、そのオンゴール伯爵の夫人は政府の高官ズダルグと前々から不義の関係にあったようだ。

 それで、魔獣対策で困窮したカエンチャの支援をするとの名目でこの2人が連れ立ってカエンチャへやって来て、町へ防衛や魔獣対策のための数々の指示をしてきた。

 指示自体は至って妥当な内容だったんだが、いずれもこれまで費用がかさむためにできなかった対策で、オンゴール伯爵夫人から支払資金は後ほど伯爵家が負担するから当面の立て替えをして欲しいと要請があって、テンガル子爵は喜んで資金を用立てたんだが、2人はその金を持って頓走(とんそう)した。

 テンガル子爵は支払資金を持ち逃げされて費用の支払いに窮しているところへ、オンゴール伯爵からなぜ2人に金を与えて逃がしたのかと非難されて伯爵家の被った被害名目で巨額の賠償を命じられたばかりか、カエンチャで今回実施された魔獣対策をサボっていたと治安責任まで問われて、テンガル子爵家は取り潰しの危機に直面しているんだ。」


(ひっどーい。それ、元々が全部伯爵の監督責任じゃない。

 自分の奥さんに浮気されて駆け落ちされた八つ当たりを一番被害を受けた部下にするって、みっともないなんてもんじゃないでしょうよっ。)

「この大変な状況で必死に治安維持をしている人に火事場泥棒を働く(やから)も、自分の責任を顧みずに人に尻拭いをさせようとする輩も、ちょっと許せないわね。」

 話を聞いて俺も頭に来たが、母様も同じ意見のようだ。


 母様は剣に刻まれたガルテム王国の紋章を責任者の人(ガルダンさんと言うそうだ。)に見せると、今後の指示をし始めた。

「現在、カエンチャは私たちガルテム王国にとって、魔獣対策の最後の防波堤と言うべき役割を果たしてもらっています。

 カエンチャには私の国の領事館があるはずですから、私たちで支援できることを相談しましょう。

 カエンチャに着いたらテンガル子爵との会談の場を設けるようにしてください。」

 ガルダンさんは母様の話にこれまでの態度を改めて、は、承知しました、と応じてくれた。


 カエンチャに着くまで、私たちの身元は一応伏せておいて欲しいとの母様の意向で、ガルダンさんは部下たちに私たちは心配ないことだけが説明されて、それからは食事作りも宿営も見張りも共同で円滑に進むことができた。


 ガルダンさんは先ほど自分を(たしな)めたゲイズさんが私たちの中でどんな立場にあるのかに関心を持ったようだったが、テルガの町の先の騒動で取り潰しになったサングル子爵の後嗣(こうし)だったと聞いて驚き、国に反乱を企てた貴族家の息子が王家の作戦に参加している国の対応の柔軟性にいたく感銘を受けて、その夜はゲイズさんと色々と話し込んでいたようだった。


◇◆◇◆


 翌朝、起きて朝食の準備をしていると、ガルダンさんが俺のところへとやって来て、何ごとかと思っていると、ガルダンさんが興奮した様子で俺に語り始めた。


「あなたがガルテム王の婚約者のセイラ様ですか!

 お目にかかれて光栄です、ご活躍の噂の数々はかねがね伺っています! 」

 ちょっと待って!

 ガルテム王の婚約者の噂はやっぱり広がってたか、とは思ったけれど、噂の数々って、テルガの町の出来事だけじゃないの?


「あの、噂って何でしょうか。」

 何ごとかと料理の手を止めて母様とティルクとリーラが注目している中、恐る恐る聞いてみる。


「カエンチャにあるガルテム王国の領事館から、ガルテム王家がセイラ様を婚約者として公式に発表したとの話を聞いたときには単なる隣国の情報だったんですが、その後、テルガの町でヴァイバーンを討伐なさったとの話が聞こえてきまして、詳しく確認してみると、町を乗っ取ろうとした侵略者とも直接対決で殲滅なさった事実が分かりましたので、私たちは近隣の出来事として関心を持って情報を収集していました。

 そうしたら、セイラ様が善獣テュールを従魔として遣わして、テルモの町からテルガへ避難した2千人の住民を護衛させたという話が伝わってきたんです。

 私たちは獣人ですからね、善獣テュール正確には魔物ですが、私たちに取っては憧れの存在として認知しています。

 それを使役して民を護らせるセイラ様のお力と慈愛とに我ら獣人は感嘆しました。

 それに、善獣テュールはセイラ様が歌を歌われているお姿を再現できるとかで、それを助けた旅人たちにことのほか嬉しそうに見せて旅人たちを和ませているそうです。

 今、その歌は”セイラの恋歌”と呼ばれて、セイラ様が国王様を慕う真心を歌った唄として、誰もが一度は聞いてみたい歌にあげられているんですよ。」


 いや、あの……。

 王家の公式発表って何?

 私がテュールを遣わせてテルモの民を保護した?

 あの歌がダイカルを慕う歌で、誰でも一度は聞いてみたい?


 へたりと(うずくま)って顔を覆った私には、ガルダンさんが心配そうな声を掛けていてくれていたらしいことなんか届いていなかった。

 一人称は”俺”の筈じゃないかって、今そんな余裕ないわよっ!!


「ああ、帰りたい…… 」

 しばらく蹲った後に呆然と顔を上げて、この世界に来て初めてショックのあまりにぽつりと(つぶや)いた言葉だったのだが……

「国王様もお帰りを待っておられますとも。」

 側から優しい語調で掛けられた言葉に引き()った。


 ボロボロッと涙が(こぼ)れて、見るとガルダンさんが優しそうに微笑む顔が見えて、ああ、これはダメだ、何を言っても通じない、と思った私は、衝動的に風魔法を(まと)って空へと飛んで逃げ出した。

 風魔法を発動した瞬間にマーモちゃんが飛んでしがみ付いてきて、私はマーモちゃんを胸に抱いて東へと飛ぶ。

 どこに行くかは自分でも分からないけれど、このままカエンチャの町に入って、町の人やテンガル子爵たちから今の話を確認したり歓呼されたりするのは耐えられなかったのだ。


 母様にはまた家出したと言われるかもしれないけれど、いっそ本当に家出でもいいと私は思っていた。



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