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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第9話 魔王といい仲!? うくっ、お答えできません

「セイラ様、(かまど)の扱いはご存じないようですが、包丁は割と使い慣れていますね。何かやっておられましたか。」

 俺は首を横に振る。夕食後に厨房で料理人のターラグさんから料理器具のいろはと使い方の講習を受けているところだ。

 地球にいたとき、俺は母親がいないときや小腹が減ったときなどにはちょこちょこと自分で作って食べていたので、少しは心得がある。

 ただ、この世界にはスイッチを入れて火が付くコンロはないし、ポイと入れるだけですむ便利な調味料もないので、現状、多少包丁が使えるくらいしか取り柄がない。野菜も知らないものが多いし、ターラグさんの料理教室で毎日教わることが決定した。


 料理教室が終わって、またお母様とジョギングに出かける。

 お母様は6キロあるお城周りを一周しようと走らされて苦しんだが、レベル7まで上がったせいか昼のときほど酷くはなかった。

 お母様、ずっと隣で聞き耳を立ててるけど無駄ですよ?

 もう悪態なんて吐きませんから。

 レベルって不思議だ。昼間にあれだけ苦しんだのに筋肉痛も起きてない。だけど回復してまた走ったときには前よりも能力が上がっている。

 帰ってきて、息が整ってからステータス表を出してお母様と一緒に見る。


 名前 セイラ ガルテム

 種族 人間

 称号 魔王妃

 職業 剣士

 Lv   10

 経験値  12/620

 HP   35

 MP  314

 体力   42

 魔力  106

 強さ    6

 早さ   14

 器用さ  36

 特技 オートモード 魔王の加護 魔王の眷属

 魔法属性  -



「レベル10になったわね。少しでも余裕が稼げるのは後のことを考えたら良いことよ。

 あ、体力が意外と上がってるじゃない。よかった、この調子で伸びてくれるなら、お産自体は何とかなるかもしれないね。

 でも、難産に備えて強さも上がって欲しいのに、やっぱり上がらないか。」

 お母様の言葉がお産はまあOK、自活は無理って聞こえるから、どうしても眉間に皺が寄る。それをお母様が励ましてくれる。

「ほらほら、そんなに深刻な顔をしないの。力がダメでも早さと器用さが上がりやすいみたいだし、アスリーさんの体が柔らかいから、ある程度のことは力が無くともテクニックで補えるかもしれないよ。」

「非力なら技で補うのも限度があるんじゃないですか。」

「質が違うのよ。そうねえ、戦いでいうと、剃刀の切れ味ってところかな。

 一撃は地味だけど、急所に嵌まればいきなり首が飛ぶ、そんな感じよ。」

 うーん、難しいな、と考え込む。

 ふと思ったけれど、アスリーさんって魔法オンリーの人だったのかな。

 もしかしたら強さを補うような方法があったんじゃないだろうか。


 いずれにしても今日はもういい時間だ。

 お母様にお礼を言って居室へ戻ると魔王はいなかったが、ライラがもう1人のメイドさんとお風呂の準備をして待っていてくれた。昨日ティムニアさんが来たのは、メイド長として最初に顔つなぎをしてくれただけだったようだ。

 今度はライラに焦点を合わせてお風呂に入り、風呂上がりで休んでいるとホーガーデンが来て、今夜も遅くなるので先に寝てくださいとの魔王の伝言をもらった。

 うーん、避けられてるかな。少し顔つなぎもしておきたかったが、仕方が無いので先に寝た。


 夜中に、人の気配で目が覚めた。間仕切りの向こうの寝室に人がいる。

 魔王が帰ってきてるんだろうけれど、どうしようかな、と考えて、様子を探ってみる。

 ん? あー、これは。うん、気付かなかったことにする。

 アスリーさんに操を立てて、俺にそれを向けないように気遣っての結果だろうことが男の俺には察しが付くし、本当なら、今頃は楽しい新婚生活のまっただ中のはずだったんだもんな。

 ごめんと心の中で呟いて寝直した。


 ……そんなことがあったので、明け方近くに布団の上からのしりと重さが加わった時には本当にびっくりした。

 反射的に魔王が暴走したかと身構えたが、左肩の下、脇と腕の間に黒猫の輪郭がうっすらと見えて脱力した。

 寝たまま右手を布団の上から回すと、かろうじて猫の頭に手が届く。

 猫の頭を撫でて、手に触れる毛並みを楽しんでいるうちにいつの間にか寝てしまっていた。


◇◆◇◆


 ザリザリと頬に当たる痛い感触で目が覚めると、ミッシュが頬を舐めていた。

「おはよう、ミッシュ。初めましてだね、私はセイラ、よろしくね。

 それから魔王妃の儀式の時はありがとう。」

 そう言ってミッシュを撫でると、ナー、と鳴いてこちらを見て、しばらくすると出て行った。


 ガウンを羽織って居室の応接間へ出ると、魔王がいた。

「おはようございます。」

 魔王がおはよう、と答えるのを聞いて向かいの椅子に座ると、視線を逸らされた。

 あからさまな動作だったので、ちょっとムッときて、この姿を見るのが辛いですか、と聞くと、気まずそうな顔で返事があった。

「すまない。だが、あなたの姿を見ると、アスリーはここにいる、何も問題はないと錯覚しそうな自分と、錯覚したままでも良いんじゃないかと思いたがっている自分がいて恐いんです。

 あなたと距離を置く生活になるのを許してください。」

 ああ、それは問題だな。俺をアスリーさんの代替として見るのは安易な逃げでもあるし、俺にとっては不幸でもある。それに自制が聞かなくなって暴走されるのも恐い。


 魔王の踏ん切りを付ける意味でも、打ち明けるならいまだと思った。

 魔王にも分かるように、オートモードオフを宣言して、男っぽく少し股を開き気味に腰に手を当て背筋を伸ばして、魔王に打ち明ける。


「ダイカルさん、そこを迷ってもらっては困ります。俺は男なんで、あなたの妻にはなれません。」

 魔王は最初何を言われているのか分からないようだったが、だんだんと顔が険しくなって俺を睨んでくる。

「アスリーさんが結婚して魔王妃の称号を得たら勇者の称号は消えてしまう。次の勇者は剣士系の能力の男です。俺はその男に転移させられるためにこの世界へと呼びつけられました。

 俺には勇者になる気はない。俺の目的は、出来るだけ早く代わりの男の体を得てアスリーさんの体から出ていって自活することです。

 どうです、ダイカルさんの目的と一致しませんか。」 

「お前は男のくせにアスリーの体を……」

 俺は溜め息を吐いた。

 やっぱりそこに(こだわ)るよな。

「俺はアスリーさんの体に興味はありません。というか、正直言って、興味を持ってしまったら男に戻りたくなくなるかもしれない、それがすごく恐いんです。

 ダイカルさんが心配しているようなことにならないうちに、俺を男に戻してもらえませんか。」

 正直に話した。

 魔王は黙って考えている。だが俺を見る視線に面白がるような色が見え始めている。

「なるほど、事情は分かった。このことは私の家族達には? 」

「言えません。特にお母様は俺を娘と言って可愛がってくれています。できるなら彼女がショックを受けることなく良いお別れがしたい。」

「分かった。考えておく。

 セイラさんが男ならば、私もあなたを避ける理由はない。むしろアスリーの体に不埒(ふらち)なことをしないように監視をしなければね。」

 迫力のある睨み付けに俺も頷いたが、俺は勇者召喚されたことでも、間違ってアスリーさんの体に入ったことでも、魔王に魔王妃の称号を付けられたことでも、あらゆる意味で被害者なのに、いいように言われるのは腹が立つ。

 反発心が湧いて、魔王に声を掛けた。

「ああ、それでダイカルさん。俺に付けられた魔王妃の称号の件で、お母様は俺が妊娠していないか心配してくれています。

 もしものときは子どもの養育の必要もありますから、改めて相談が必要になりますので、お忘れなく。」

 俺の称号のことを忘れていたのだろう。魔王は顔面が蒼白になって黙り込んだ。

「……そうだ、万が一の場合でも、子どもが生まれる前にアスリーを取り戻せば問題ない。子どもは俺とアスリーの子だ。

 魔王妃の称号を消すために、あなたにはどうあっても男の体に入ってもらう。」

 やがて晴れ晴れとして顔を上げた魔王に、俺は是非ともそれでお願いしますと頭を下げた。

 これで俺が男に戻る道筋はできた。当面は淡々とレベルを上げるだけだ。


◇◆◇◆


 だが、俺の読みは甘かった。

 毎日、朝昼晩と欠かさず俺に付き添って食堂へ姿を現すようになった魔王を見て、お母様は違う解釈をしたらしい。

「ねえ、セイラ。ダイカルとは随分と親密になったみたいじゃない。

 どこまで行ったの。キスくらいはした?

 レベル差の問題があるから、めったなことをするとまた死んでしまう危険があるし、どんなことをどんなふうにするなら安全か、お母様が相談に乗るわよ。」

 にこにこと根掘り葉掘り聞いてくる。

 この質問に対する否定は、回答を拒否したとしかみなされない。

 魔王が俺との距離をなぜ縮めているのか、その理由にならないからだ。

 延々と繰り返される「そんな意地悪を言わないで教えてよ」の台詞と向けられるキラキラの瞳。

 お母様、ガールズトークの赤裸々版は願い下げです。俺は何度心の中でそう叫んで、真実を話そうとしたか。

苦慮した結果、こう答えることになった。

「ダイカルさんから、息子である私との間の出来事はお母様に話すなと禁止されています。お答えできません。」

 結局、魔王と俺が恋愛関係にあることを否定できていない訳で、恥ずかしさと悔しさで何だか目から汗が出る。

 お母様、だからお答えできませんってば。



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