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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第17話 歌はサービス。もっとと言うなら入場料……嘘です、お金はいらないから歌わせないで

(止めてください、(いじ)めないでください。

 俺に昨夜の話をしないでください。)


 もう朝から何十回思ったことだろう。

「セイラさーん、昨日の踊りながら歌うの、最高でしたよー。

 次からもぜひお願いしまーす。」

(だーかーらぁ、もうそのことには触れないでーっ! )


 昨夜、テンションが戻ってからやっちゃったことに気が付いた。

 (あご)に肩を寄せて小首を傾げて唇の前に指を立てて、可愛い子ぶってウィンクしたシーンや、腰に手を当てて胸を反らして流し目でいい女ぶったシーンとかが気を抜くと(よみがえ)ってきて、そのたびに、はう、とか、うあ、とかいった奇声が漏れる。

 特に、思いついてドレスの両裾を(つま)んで少したくし上げて、(ふく)(はぎ)まで露出させた脚でステップを踏んで、冒険者たちの視線を釘付けにしたことがすごく嬉しいと思っちゃったことが頭を(よぎ)る度に、心にずしんと後悔がのし掛かって、うあーあ、と女の子が出すべきじゃない(うめ)き声が漏れる。

 あれ、ドレスだったから良かったが、ワンピースだったらどこまでたくし上げてたかと思うと恐ろしい。

(ああ、もういっそこのまま家出してしまいたい。)


 そういえば俺、そもそもサッカーでゴールが決まってゴール下でポーズを取っていて死んだんじゃなかったか。

 失った命はこうして戻ってきたが、大事な大事な男のナニは、あれ以来失ったままだ。

 テンションが上がると軽くなる俺の性格、直さないといずれそのうち、大変な間違いを起こしそうだ……


 うじうじと考え込んでいると、母様にパン、と背中を叩かれた。

「過ぎたことでくよくよしてないで、切り替えていくわよ。」

 俺のテンションをあそこまで上げさせた元凶が明るく笑っている。

(この人、最強だな。)

 俺は諦めて、はい、と母様に返事してミッシュの宿題に取りかかった。


◇◆◇◆


 今日も冒険者たちへと声援を送りながら、彼らが眷属の特技を使う様子をじっと観察する。

 俺は風属性の魔法を直に体に作用させて飛んでいるほかに、筋肉やほかの魔法に応用して加速や土柱を弾として打ち出すのに使っているが、魔王の眷属にそんな汎用性があるような感じはなく、例えばゲイズさんは一定強度の防御強化しかできなくて、防御を強くするために能力を発展させて防御を重ね張りする必要があって、応用範囲がかなり狭い。


『セイラは本来の手順で自分の能力が整ってから次の段階へ進んでいるから、制御方法を覚えなきゃならない代わりに応用が利く。

 反面、冒険者たちは祖先の記憶で特技として身につけるから、覚えた特技を拡張するには、自分に十分な実力が備わるまで新たな技術の拡張ができない。

 実力がなくともすぐに使えるという点で魔王の眷属の方が手っ取り早いが、使いこなすという観点からはセイラが圧倒している。

 どちらも一長一短なんだよ。』

 俺を監視しているミッシュがそう教えてくれる。


 ふうん、と頷きながらゲイズさんを見ていると、あ、特技を発動する瞬間にゲイズさんが息を止めた。

 もう一度、あ、やっぱり。

 で、息を止めた直後に魔力が(てのひら)からほとばしるのが分かる。

 その前は?、と観察すると、心臓のすぐ右下、胸の中央で魔力がうねって、そこから魔力が流れ出しているのが感じられる。

(あれ? そこ、魔獣の魔石がある場所だよね。人にも魔石があるんだ? )

『人にも魔石はあるぞ。

 人の魔石を採取して使うことは通常忌み嫌われるが、たまに討ち死にした英雄などの魔石が宝物として保管されていることがある。』


 ミッシュの解説に少し引きながら、ゲイズさんが魔力を練って伝達する過程を可能な限り感じ取るようにする。

 うん、胸から掌を通じてその先へと一直線に回路ができていて、ああ、魔力供給を打ちきるタイミングで息を止めて調節しているんだ。


 他の人はとゲイズさんと同じパーティの魔法使いのゼガルさんを見ると、うーん、人差し指と中指をくっつけて指を差し出すとき?

 午前中いっぱい掛かって何人かを見て、微かな動作で魔力を流すタイミングを取っているのが分かった。

 そして昼前になって、ヴァルスさんが特技を拡張する場面に遭遇した。


 ヴァルスさんは、魔力で敵の動きを鈍くする魔法を使っていたが、右手だけで剣を握り、左手で魔法を操っていたために動きがぎこちなかった。

 それが視線を右拳から剣へと走らせた瞬間に魔力の流れる回路ができあがるのが感知されて、手首をわずかに返したタイミングで魔力供給が途切れて剣尖(けんせん)から魔獣に魔力が飛ぶ。

 次からはもう手首の返しだけで魔力を調節していた。

 最初にどうやって制御するかを決めて動作を登録して回路を開き、次からはその手順に従って実行する、みたいな流れ。

 だから、人それぞれなんだな。


 俺が動作で制御するとしたら、何が良いだろう。

 ミッシュに断りを入れて、しばらくの間魔獣と普通に戦って、邪魔にならなそうで自分の意識の制御に役立ちそうな動作を探す。

 そして、左小指を握り込む動作をトリガーにイメージして、指を握り込むのと同時に風魔法へと魔力を流し込み、空へと飛ぶ。

 バチバチッと何かが弾け飛ぶような感触とともに、体の周囲に回路が張り巡らされるのが分かって、ふわりとした初動から急速に空へと飛び上がる。

 意識に何かの衝動を感じることもなく、周りの景色を見渡して、見渡す限りと思われた森が遙か先で途切れて草原と畑に変わってるのが遠目に分かり、城らしい建物も微かに見える。


 うん、大丈夫、意識が暴走はしていない、と思う。

 魔法を使う間中、小指で操作する必要があるのかと思ったが、それも要らないみたいだ。

 ひょっとすると次に起動するときにはまたアクションが必要なのかもしれないが、それくらいならまあ仕方がないだろう。

 一度地上に戻って試してみたら、実際にはそれも必要はなかった。

 加速のための風魔法や土柱を撃つための風魔法も同様に小指で調整して起動して回路を開いて、ミッシュに向けて勝利の微笑みを向ける。


『まあ、よくできたほうだと褒めておいてやる。

 テルガの町では有名な話のようだが、ケイアナは2年もの間、レベル4,000の壁で足踏みしていたらしいからな。』

「え? 母様ならするりと超えられそうだけど。」

 驚く俺に、ミッシュが首を振る。

『ケイアナには教師役も仲間もいなかったからな、試してみて暴走したときの止め役が必要だった。

 そのために、ケイアナは兄弟が暴走した自分を止められるだけの実力を付けるまで、レベル4,000の壁に挑もうとはしなかった。

 そして、間違いなくレベルの壁を超えられると確信が持てる方法を見つけるまで、3か月掛かったそうだよ。』


 そうか、教師と仲間に囲まれている俺は恵まれているんだな。

 少しじんときて、皆に優しくして上げようと思った俺だったのだが……

「「「「セイラさん、次はいつ歌ってくれますか? 」」」」

 この一言で台無しになった。

 もう踊らないんです!


 しかも、俺が苦労して覚えた技をさっと盗んで、ティルクは見たらもう空を飛んでいるし。

 ティルク、魔王の特技は持っているし、実力は俺と変わらないくらいになって基礎がもうできているから、すぐに対応できるんだよね。

 ずるい。


◇◆◇◆


 昼に母様に風魔法の拡張が使いこなせるようになった報告して、午後からは本格的に魔獣狩りを始めた俺だったが、ティルクと組むとすごくスムーズに討伐が進むことが分かった。

 ティルクの方が魔法力が弱いせいで、獲得経験値が俺のほうに傾斜配分されて、ティルクはそれに魔王の眷属でブーストが掛かって結果的に同じくらいの経験値になる。

 経験値稼ぎの点から見ても問題がない。


「ティルク、そっちの半分任せたっ。」

「了解っ。……姉様、こっちの奥、何か大きいのが来てるっ。 」

「じゃ、そいつ倒したら交代するよ、いち、にぃ、さんっ、今! 」

 ティルクと俺が風魔法で加速して場所を入れ替えて、襲って来た魔獣に引き続き斬りつける。

 魔獣は目の前の敵がいきなり別人に変わったことにびっくりしている間に斬られて(くずお)れた。


 俺は姿を見せた3メートルはありそうな猿の魔獣へ向けて土柱を撃ち込んでみて、瞬時に移動して避けた魔獣の前へと飛んで斬りつける。

 魔獣の口が開けたのを見て嫌な予感がして、猿の腕に斬りつけた直後に空へと飛ぶと、俺が駆け抜けて行くはずだった先に土の槍が突き立った。

 俺が空から風弾を連発して注意を頭上に引くと、剥き出しになった猿の喉をティルクが切り裂く。

 驚き苦しんで傾いだ魔獣のこめかみに俺が止めを突き入れて、猿の魔獣、ビッグエイプを討伐した。


 毎日、いつも一緒にいるからか、こんな風に連携の面でもほとんどお互いの心を読み取るように意思の疎通ができている。

 だが、その才能は思わぬところで発揮した。


「「「「「セイラさーん!、ティルクちゃーん! ヒュー、ヒュー!! 」」」」」

 昨夜のステージを見たティルクが私も踊ってみたいと言い出した。

 俺は一生懸命に説得したのだがティルクに逆に願い倒され説得されて、2人でデュエットと振り付けの練習を内緒で2日間やって、お披露目となってしまった。

 少し裾の短めのお揃いのツーピースを着て、ゲイズさんのイントロでポーズを付けて踊り始めて、それから向かい合って動きを揃えて踊りながらデュエットで歌う。


 ──なんでこうなった!? 



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