第15話 私にチアガールをやれと? 声援しますので勘弁してください
「きゃー、とーばるさん、がんばってー(棒読み)。
ゔぁるすさん、がんばれー(棒読み)。
リーラさん、もうちょっと溜めて、そう、今よっ。
まらいさん、よくやったー(棒読み)。」
何をやっているのかというと、冒険者たちの戦闘の声援である。
母様から、冒険者に注意をしたり、詰ったりするんじゃないわ、あくまで褒めるのよ、と噛んで含めて言われた結果がこれである。
だって、皆まだまだ戦闘技術が甘いところへ持ってきて、魔王の眷属で覚えた特技を自分が把握しきっていないから、使いこなせないでちぐはぐな戦闘が目立つのに、粗に突っ込まないで褒めるだけしてろって、無理なんだもん。
母様だって余計なことを言わないように唇を噛んで黙りこくっているくせに、士気高揚とか言って俺に応援だけをさせようとするから、こういうことになる。
リーラさんは女性で彼氏持ちだし、俺が義理で応援している状況が見えてるから深刻に取らないだろうとアドバイス程度なら言ってもいいって言ってくれたのが救いだ。
「セイラさーん、応援ありがとうございまーす! 」
でも、こいつらはお気楽で、その棒読みが分からない。
ご機嫌で、一区切り付いたところでバラバラとお礼を言われる。
あっ、戦いの最中に愛想なんか言ってるから、キューダさんが転んで眷属で得た魔王の特技で何とか凌いだ。
「きゅーださん、ないすー(棒読み)。」
また午後も意味のない応援をしなければならないと思うと気分が重い。
◇◆◇◆
午前中いっぱい、冒険者たちの動きを観察していて、何とはなしの違和感はある。
あいつら、根本的なところで何か変なんだよね。
でも、それが何なのか、喉元まで来ているのに出てこないのがもどかしい。
昼食後もやっぱり冒険者たちの応援をしながら、彼らの戦い方を観察していて、さすがにドレスは動きにくいし暑いので昼からはワンピースを着ているのだけど、こういう格好をするとちょくちょくと纏わり付く視線を感じるのが、ああ、もう、鬱陶しい。
戦い方がまだ固まっていないのにこっちへ気を散らすから、あー、前、前!
藪の向こうからのそりと出てきた熊型の魔獣はにゲイズさんが気が付いたときには、もう魔獣が立ち上がって前足を振り下ろろうとしているところだった。
ゲイズさんは何とか掌をスライドさせて防御結界を作って攻撃を防いだが、一撃で結界ごと体が傾いで至近距離から繰り出される連打の前に防戦一方になっていて、口から飛んでくる風弾に牽制されてほかのパーティメンバーが入り込む余地がない。
(ゲイズさんの魔力、そんなに多くないし、これは保たないんじゃ…… )
俺は助けなきゃ、と母様の様子を窺うが、母様は首を振って視線で黙って見ていろと指示をしてくる。
え、危ないよ、と心配しながらゲイズさんを見ていると、ゲイズさんは魔力が尽きるどころか二重三重と結界を重ね掛けして、結界と結界を繋いで魔獣を囲い始めて、前面を結界で塞がれた魔獣が窮屈なスペースで方向転換をしようとしているところを、他のメンバーが横から挟み撃ちで攻撃を仕掛けて、難なく魔獣を倒した。
(え? なんで魔力切れしてないの? )
普通ならば、どう考えても魔力切れしている筈なのに、全然そんな様子がない。
それに、ゲイズさんが結界の重ね掛けを始めたとき、ゲイズさんに何かあったよね?
俺はパーティ分のコップに氷入りの冷水を作ってゲイズさんたちのところへ行って、何かなかったか聞いてみることにした。
「ゲイズさんにパーティのみんな、お疲れ様です。」
もう秋めいた気配が漂っているとはいえ、日中はまだ暑い。
ゲイズさんたちは、おお、と喜んでコップを受け取って喉の渇きを潤しながら、にこにことこちらを見ている。
「セイラさん、見ててください。すぐに私たちも追いつきますからね。」
それはいいから、とは言えずに適当に受け流して、ゲイズさんに防御結界を重ね張りする直前に何か感じたのだけど、と疑問を投げかける。
「ええ。新しい特技を覚えたり発展させるたぴに、バチバチって感じで、何というか、新しい道ができたような感覚があるんです。」
新しい道?、と首を捻る俺に、魔法使いのゼガルさんが補足してくれる。
「新しい魔法を覚えたときに、セイラさんは感じなかったですか?
それの何倍も強い刺激が走るんですよ。」
ああ、なんだかちょっと分かる。
ということは、本来できないことを強引に可能にしてるってことなのかな。
それ、どこからどこに働きかけてるの?
じっと自分のステータス表を睨む。
その日はステータス表を睨みながら、彼らが魔王の特技を使う様子を観察して、ときおり冷水を運んで冒険者たちの意見を聞いて、どうすれば彼らのような能力が発揮できるかを考えて過ごした。
◇◆◇◆
翌日の午前中のことだった。
改めて冒険者たちを観察していると、魔力使用の頻度や強度の割に疲れた感じの人がいた。
「チュアルさーん。疲れた様子で、どうしました? 」
「いや、それがさ、俺、覚えた魔王の特技は攻撃支援なんだけれど、みんな新しい力を使いこなせていないだろ?
魔王の特技なら魔力の減りはそうでもないのに、朝から使ってるのは光魔法ばっかりでさ、魔力量が減って動けなくなっちゃった。」
「ああ、覚えた魔王の特技って、魔力の減りが少ないらしいですね。」
俺の感心したような発言に、チュアルさんが不思議そうに返してくる。
「え、セイラさんも知ってるでしょ?
ほら、テルガでヴァイバーンと戦ってたときに風魔法で自由自在に飛んでたの、今思うとレベルの壁を超える技だったんだなあって、魔王の特技を覚えてから改めて感心してたんだ。」
(えーっ、そういうことは早く言ってよーっ。)
がっくりとしながら改めて思い出してみる。
(ああ、ミッシュから落ちたときに慌てて飛んで、それからヴァイバーンと戦うために飛び回って、最後はヴァイバーンの首に逆さに張り付いて気管を切断したんだっけ。)
「俺もさ、あんな風に飛びたいと思って、風魔法を教わった後にやってみたんだけど、全魔力を使って、宙に浮くこともできなかったんだよ。
セイラさんのあれ、そうなんだろ? 」
(そういえば、他の人が飛んでるの、見たことがないね。)
俺はもう一度やってみようと風魔法で宙に浮かび上がって……1メートル上がらないうちに止めた。
だって、チュアルさんの視線が、なびきながら高度を上げるスカートに釘付けになってるんだもん。
スカートで飛ぶのはヤバい……って、あのとき、俺、スカートで戦ってなかったっけ?
「チュアルさん、あのとき、見ましたね? 」
俺がスカートを押さえながら決めつけるように詰問すると、チュアルさんが視線を逸らした。
あ、くそ。
ヴァルスさんとソルグさんのパーティ、全員に見られてたか、むー。
◇◆◇◆
「母様、私、ちょっと着替えてきます。」
母様を見つけて許可を求めると、母様は俺の顔の様子を見てきっと何か掴んだと分かったのだろう、すぐに許可をしてくれて、剣も返してくれた。
レギンスと短パンのいつもの格好に戻ると、ステータスを表示しながらまずは空を飛んで、それから高度を上げて、宙返りをしようとしたら髪がバサリと被さってきたので、髪をポニーテールに縛りながら、加速したり急停止してみたりして飛行テストを続けてみる。
魔法が減っていかない。
元々の魔力量が多いから、気が付きもしなかったのか。
(なんだ、俺、あのときにもう切っ掛けができてるんじゃないか。)
あれ以降、大立ち回りをするような機会がなくて風魔法を使わないでいたので、気が付いていなかっただけだったのか。
あのとき、母様は路地で戦っていたから、俺の風魔法を見てなくて知らなかったんだな。
知っていたら、こんな謎かけみたいなことをさせるはずがない。
ミッシュは、知ってたはずなんだけど、また何かの制約が、とか言うんだろう。
脱力の後から歓喜とミッシュへの少しの怒りが押し寄せてきて、何か感情をぶつけるものがないかと上空から辺りを見回す。
少し離れたところで森が開けて道の手前に広場があり、広場から道に向けて四つ足の魔獣が何頭か群がっていて、その真ん中で馬車を背に何人かで戦っているのが見えて、倒れている人もいる。
俺は加速を掛けてそこへ急行すると、周りに土魔法で円柱の弾を4つ作って、人から少し離れたところにいる虎型の魔獣たちへと照準を合わせて風魔法で撃ち出した。
ドドドドン!
地響きを立てて砲弾が魔獣を爆散させ、残った2頭の魔獣の側へと着地する。
魔獣がこちらへ向き直ろうとするのを待って、風魔法で加速を掛けてこちらへ向き直ろうとする一頭の顎下から入って首を撥ねて人の側に立つ。
振り返るともう一頭の背後には誰もいない。
安心して数センチの土柱を10ほど作ると風魔法で魔獣へと打ち込んで退治した。
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火曜が1番、水曜2番の順で執筆時間が取れないときが多く、更新の可能性は薄いです。
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