第14話 これが舞台裏の話。なんで私、こんなことに巻き込まれてますかっ
気が付いてお礼を言おうと思ったら見る度に数が違うので、言えそうなうちに言っておきます。
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皆様、本当にありがとうございます。
『女神リーアがセイラに魔人族の戦力を増強させて魔族に対抗させようとしているのは間違いないし、彼女はセイラに対してそれ以上のことは考慮していないだろう。
だが、勘違いするなよ、そのこととセイラが強くなれるか、男に戻れるかは別の話だ。』
ミッシュから、女神リーアが俺が強くなることも男に戻ることも一切斟酌していないと言われてがっくりと気落ちした俺に、ミッシュが言葉を繋ぐ。
『良きにつけ悪しきにつけ神の思惑を超えてくる、それが神から見た生き物の特性で、特に人間はそうだ。
神の予定では、人間は未だに掘っ立て小屋に住んで、魔獣や魔物に怯えながら農耕による小さな集落単位でやっと生きながらえている筈の存在だったよ。
それが武器を作り、魔獣や魔物と戦える魔法を開発して、町を作り城を造っている。
女神リーアがセイラに設定したのは最低限の役割だ。
それをどう超えるか、または裏切るかは、セイラ、お前に懸かっているんだ。』
いつになくミッシュの言葉が真剣で、熱が籠もっていたが、俺は食ってかかった。
「どうしてミッシュがそんなことを言えるの。
神が何を考えているかなんて、使い魔であるミッシュに分かる訳がないじゃない。」
俺の言葉に待ち受けていたかのように、ミッシュは地面に伸ばした前足に顎を乗せるとこちらを見て話し始めた。
『ここからは内緒の話だ。
俺は前に神をやっていたんだよ。
男神ガシュミルド、又は男神ガシュド、それが俺の神としての名前だ。
ミッシュというのはガシュミルドのアナグラムであるミシュガルドを縮めたものだよ。』
「は? 」
男神というのは、あの、男のナニに加護がないという話を女神リーアから聞いたときに、口外を禁止された話だ。
「ミッシュ、だったら私を男に戻してよ! 」
ミッシュの言うことは信じられなかったが、一応お願いをしてみる。
(そして、もう二度とナニをなくしたりすることがないように、しっかりとした加護をください。)
『悪いが、それは俺の手に余る。』
(うあ、即答で拒否された! )
ショックを受けている俺に、ミッシュは、グルル、と笑うと説明を始めた。
『俺が神力を捨てるためにこの姿になってから、もう500年くらいが経つ。
今の俺には、セイラを男に戻すほどの力が残っていないのさ。
昨日、セイラに貸した例の人形な、あれは神使というんだが、本来なら神力の剰りで動かすはずのあれを、セイラに半日使わせるためだけに一ヶ月もの間魔力を溜めなければならんのが実情だ。』
「じゃあ、ミシュルのほうは? 」
『ミシュルはリーアの神使だよ。
アスリーが戻ってきたときまでにセイラの体が確保できなかったときに、セイラに使わせるための保険としてリーアから借り受けてきたものだ。
全く、俺はこれを借りるために神を辞めてから初めて、500年振りにリーアのところに顔を出してきたんだぞ。』
(おお、使い魔が俺のためにちゃんと仕事をしてくれていた。)
少し恨みがましい口調でミッシュがミシュルとして使っている人形の本来の用途についての説明を受けて、ミッシュが本当に男神だったとはまだ信じられなかったが、アスリーさんが戻ってきたとしても俺は消えてしまわないですむのだと知って、俺は安堵したし、ミッシュに感謝した。
だが、今の話の流れの中で、どうしてもミッシュに聞いておきたいことが2つあった。
1つは、なぜミッシュは神を辞めたのかということ、そしてもう1つは、女神リーアの意図と俺が強くなることと男に戻ることが、なぜ別の話なのかということだったのだが、ミッシュが俺の考えを読んで先に説明を始めた。
『神はな、大きな力を持っているが、その力が大きい故に世界のバランスを保つための制約も大きいんだ。
その制約を受けながら悠久の時間、物事の可能性、セイラの世界で言う確率を調整しながら、長くて地道な世界の管理を行っている。
ところが、生き物というやつはその確率を超えて生きてくる。
それぞれの個体の生命は短いが、神が考慮しない小さな可能性を数で実現して、あらゆる方面で神が考慮しなかった結果を引き起こすんだよ。
短い生の間に生命力を燃焼させて、神ができないようなことをする個体のなんと多いことかを考えたときに、俺は普通の生き物になりたくて神を辞めて、できれば人間になることを目指してきたんだ。』
ミッシュはそう語ると、少し語調を変えて説明を続けた。
『ところが、1年ほど前に気が付いたんだが、俺が影響が出ないように各地に慎重に拡散させて捨ててきた神力をわざわざ抽出して集めて回って、自分の力にしている奴がいる。
それで、今回の事態な、たぶんそいつの仕業で間違いがない。
そいつは今や俺よりも大きな神力を持っているから、俺だけでは太刀打ちできずにどうしようかと考えているところで、俺が頼みとしていた駒とリーアが使えると目を付けた駒がたまたま一致した。
そしてリーアが目を付けた駒が失われる瞬間に逆転を狙って打った布石がセイラ、お前だよ。』
(え? 俺が関係しているの、そんな大きな話? )
俺は、女神から自分がどういう扱いを受けているのか、その立ち位置の大きさを知らされて驚いた。
『本来ならば、アスリーの幽体が掠われたあの晩に、アスリーの体には別の幽体が入り、ダイカルは意識を支配されてその操り人形になって、大陸全土への侵略の指揮を執るはずだった。
俺はアスリーが掠われてから事態を知ったが、どうすることもできなかったよ。
まあ、知ったところで神の制約はまだ部分的に俺に利いているから、直接的に俺が介入できないんだがな。』
ミッシュの言葉が自嘲の色を帯びた。
『それをリーアは神力の違いで陰謀を事前に察知して、ライラに微かなプレッシャーを余分に掛けることで香油の処理時間を長引かせて、香油の揮発成分を飛ばすことで確率を操作して今の状況を作った。
アスリーの体に入ろうとした奴は、アスリーを掠うタイミングの遅れと香油の効きの弱さでタイミングを外してアスリーに入れず、タイミングを取り直している間にセイラの幽体に先んじられたし、ダイカルは香油の影響力が引き下げられてまだ頑張って抵抗しているというわけだ。』
なんて狡猾な。
深謀遠慮と言うが、本当は最初の一文字は”神”の字が正しいんじゃないか。
「ねえ、その敵も神力を持っているのなら、同じように制約を受けるんじゃないの? 」
俺の質問に、ミッシュは、だと良かったんだがな、と言って苦笑した。
『俺は以前に神だったからまだ部分的に神の制約に縛られているし、リーアは現役の神だがらがんじがらめに縛られているが、敵はまだ神に至っていないから制約がない。
何でもありという意味で、あっちの方が有利なんだ。
俺が事情を開示しないのは、制約もあるが、限定的とはいえ神の力を持った敵を前に、人間たちに逃げ腰になって欲しくないからでもある。』
「──私は? 」
『セイラは俺との契約に縛られているし、肝が太いのは確認済みだ。』
(酷い。)
またとんでもない秘密を背負わされて軽いショックを受けている俺に、ミッシュが話題を変えてきた。
『それで、セイラが強くなれるかと男に戻れるかなんだが──
強くなる件については、すでにケイアナがヒントを出しているようだ。
冒険者たちをよく観察しろ。』
「はい。」
『男に戻れるかについては、努力と運だな。
確率で言うと、やや低いがない訳ではない。
生き物の底力で確率を超えて見せろとしか言い様がない。』
「……はい。」
気落ち半分、安堵半分で返事をする。
『それから、セイラが強くなることについては、問題がもう一つある。
冒険者たちには眷属の加護によるレベルアップのブーストがあるが、セイラにはそれがない。
もし、冒険者と互してレベルを上げていきたいと思うなら、セイラは率先して大物狩りに挑み続ける必要がある。
できるだけの支援はしてやるが、リスクの選択を間違えるなよ。』
「はいっ。」
ミッシュの話で、俺が強くなれるかどうかは最後は意思の問題と確信した。
俺は意志の強さで選ばれて召喚されたんだ。
行けると分かった以上、ここで引き下がったりするもんか。




