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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第11話 セイラついに経験する……って、ちーがーいーまーすーっ!

 午前中一杯掛かって、冒険者たちやティルクの全員になんとか魔王の眷属の称号が付いたのだが、冒険者たちは徹夜で誓いを練り上げていて体が疲れているだけでなく、すぐに称号が付かなくて精神的にも疲れ果てた人がかなりいるため、怪我や事故予防の観点から今日の移動は見合わせとなった。


 そうなると、俺は先ほどヴァルスさんに感じさせられた女性化をどう押し戻すかの問題に向き合う時間ができたことになる。

 俺が女になっていくのを引き戻すとなれば、やはりこの間ミッシュが出してくれた男の人形を使うのが間違いないと思い、ティルクにはちょっと用ができたからと分かれて自分の部屋に戻り、ミッシュに頼み込んでみたのだが……

『あれな、この間限界まで魔力を使っちまったから、あと2週間は使えないと思ってくれ。

 俺が持っていったときは、セイラがすぐに寝たから魔力の消費に少し余裕があったんだが、すぐその後にも使っただろう?

 魔力が満タンでもないのに戦闘までやったからな、決着が付くのがあとちょっと遅れたら、魔力枯渇で倒れるところだったんだ。』

「……決着が遅れたら、私はどうなっていたの? 」

『動けなくなって、斬られるかどうかして死んでいただろうな。』

(そんな危ない橋を渡らされてたの! )

 絶句したまま頭の中で突っ込む俺の心の声はもちろんミッシュに届いているはずなのだが、相変わらずミッシュは鉄の神経で知らん振りをする。


「うーん。でもちょっと思いついたことがあるから、一応出してみてもらえる? 」

 ミッシュに部屋の絨毯(じゅうたん)の上へと男の人形を出してもらって見ると、服に付いた血はなくなっていたが相変わらず女物の寝間着を着ていて、邪魔なので脱がしていく。

 お、男の裸に興味が出たか、とミッシュに冗談交じりに揶揄(からか)われながら、人形を裸にして、地球にいた頃の自分を思い出して変形魔法で人形を変化させていった。

 思い出せる限り昔の俺を正確にイメージをして、できるだけ忠実に自分の体を再現するように集中することしばらくして、俺は半年ぶりに男の自分に再会した。

 もうちょっとこうだったらとか以前は思うところもあったけれど、見慣れた自分の顔を見て、ああ、やっぱりこれが俺だよな、これがいいやと思ってほっとしたら、不意に涙が(こぼ)れた。


 うぅ、と一度声が漏れたらもう止まらなくなって、うぁああ、と情けない泣き声を上げながら、ぐにゃりとして扱いづらい男の自分の体の肩口を持ち上げて足をその下に押し込んで、お腹の上まで男の自分を引っ張り上げると、その上に覆い被さるようにして頭を抱きしめながら泣きじゃくる。


 一頻(ひとしき)り泣いて、ちくしょ、女って涙もろいんだから、と愚痴を呟いていたら、側でミッシュが黙って座って待っていてくれたのに気付いた。

 そっと視線をやると、グル、とミッシュが鳴いて、収納空間から男物の服を取りだしてくれる。

『乙女が泣きながら裸の男を抱きしめているところを誰かに見られると(まず)い。せめてこれを着せておけ。』

 ミッシュの言い方に思わずべそを掻いたまま笑うと、ミッシュは、しばらく外すから、と言って部屋から出て行った。


 男の俺の体と俺だけが残されて、さて、と男の自分へと向き直りながら顔についた自分の涙の痕を拭うと、男の自分の顔や胸に落ちた涙を男物の服で拭っていく。

 元の俺の顔の輪郭を指でなぞりながら視線を上げると、剥き出しの男の局部が目に入って、ああ、これは確かに問題だと思った。

 こんなところを誰かに見られたら、ホント、言い訳もできやしない。


 もう気分は落ち着いてきていて、俺は男の自分の体をそっと床に戻して、膝を付いて四つん這いで近寄って男の自分に服を着せようとしたのだけれど、自分より大きな力の抜けた体に服を着せるのは思いのほか難しかった。

 特に、足を持ち上げて下着を履かせようとして、自分では見ることのない下からのアングルで丸見えの局部を間近で見詰めるのはちょっと勘弁してくれという気持ちになって、視線を逸らしながら機械的に作業をしようとしたら、ぐにょりとモロに掴んでしまった。

 ひぇっ、とか細い声を思わず上げて、目の前にあるのは人形で、男のときの自分の体をなぞっているのだと分かっていても、掴んでしまったものが神経に堪えて、変な臭いが付いたりしていないかと自分の手をくんくんと嗅いでから床に両手をつく。


 男の自分の頭を膝から下ろしてしばらく経って、圧迫されていた足に血が通うようになって、ようやく神経が戻ってきていたのだ。

 うあ、と声を漏らしながら足に負担を掛けないようにすると、男の自分の顔を覗き込む体勢になる。

 少し楽な体勢のままじっと男の俺を観察すると、少し長めの髪型が多いこちらの男と違って短髪で、栄養の違いなのかこちらの男たちよりも少し背が高いようだ。

 贔屓(ひいき)目かもしれないが、普通よりはちょっとだけイケメン寄りだと思いたい見慣れた顔が、至近距離で目を閉じて横たわっている。

 少し躊躇(ためらい)いながら、顔を近づけてキスをした。


(俺のキスの初めてはダイカルだったけど、これで男の俺の初めてのキスの相手は間違いなく女の子だからね。……自分だけど。)

 体を傾けたせいでバランスをとるために足先を床に着いて、神経を剥き出しにしたような痛みが走っていたが、自分のやったことが可笑しくて少しだけ笑って、それから裸の男に覆い被さっている自分に改めて気が付いて急いで離れて、這って周りに散らばっている服を集めて男の俺の体の上に服を被せて、せめて体を覆っておいた。


 そして、まだ当分は痺れているだろう足をそうっと動かして体を徐々に横にして、男の俺の側に横になる。

 楽な姿勢を探して横向きになって、足のしびれが治るまでと思って体を休ませているうちに、知らず知らず眠っていた。


◇◆◇◆


 揺さぶられる感覚で目覚めると、ティルクが側に座り込んで呆然と俺を見下ろしていた。

「姉様、その殿方はどなたですか? 」

 ティルクの声がすごく固くて、微かに震えている?

 何だろうと身を起こすために当てた手が男の剥き出しの胸に当たる。

 あ、と頭を上げると、男物の服が散乱している真ん中で裸の男に俺が抱き付いたまま寝ているのが分かって、捲れ上がったスカートの下からにょきりと突き出た足が男の足に絡められているのが見えた。

(あ。拙い。)

 思う間もなくティルクから硬い口調で(なじ)られた。


「姉様!

 姉様は、国王様のプロポーズすら固辞してご自分の意思を貫いて、純潔を護ってこられたのでしょう?

 それが、どこから現れたのか、こんな見たこともない変な男に…… 」

 ティルクは目からみるみる涙が(あふ)れて頬を伝うと、憤懣(ふんまん)やるかたないという表情で男の俺を見ていたが、その視線は汚物を見るようだった。


「姉様が幸せそうなお顔でこの男に抱き付いてお休みになっていたことは、この際置いておきましょう!

 姉様、教えてください。

 この男に乱暴をされたのですか? 」

「あ、いや、そういう訳じゃなくて…… 」

「ご自分から身を任されたのですか。」

「そうでもなくて…… 」

「どっちですか! 」

 しどろもどろに答える俺に、額に青筋を立てたティルクの詰問(きつもん)が厳しい。

(男の俺は”変な男”ですか、そうですか。)

 俺は男の俺へのティルクの評価に少しショックを受けながら、ティルクに落ち着くように言って人形のことを説明した。


「え? この男の体はこの間姉様が使ったという代わりの体で、こちらの…どことなく気品のある方が姉様の本当のお姿? 」 

(”変な男”はどこに行った! )

 まあ、正直なところ、素っ裸で寝ている男に気品などありはしない。


 考え込むような様子のティルクの視線の向く先を追って、ティルクがじっと何を見詰めているのかに気が付いて、俺は慌ててティルクの視線を遮ったのだが、そんな俺の様子を見てティルクがにんまりと笑った。

「姉様、今さら隠さなくても。それに先ほどもじっくりと観察させてもらいましたよ。」

「嘘ですっ! さっきまで愕然として私の方ばかり見てたくせにっ! 」

「当然です。姉様は大事な私の姉様なんですから。

 ね? だから姉様、ちょっとだけ…… 」

「嫁入り前の娘がまじまじと見るものじゃありませんーっ! 」


 何やってんだかの話になって、結局しっかり見られた後にティルクに手伝ってもらって、ようやく男の俺に服を着せることができたのだった。

 んー。ちょこっと触られもしたかな。

 乙女に触ってもらうなんて、この果報者。


◇◆◇◆


 今朝の魔王の眷属の称号を得る儀式が終わって、私は王太后様と姉様から眷属にしてもらった。

 お父さんはどう言うだろう。

 私の血のことがあるから、きっと何も言わないと思う。


 それで、私が眷属になって得た力について姉様と確認しようと思ったのだけれど、姉様からこれからちょっと用事があると言われて、残念だけど諦めた。

 姉様は私のことをいつも優先してくれるから、用事があると言うときにはきっと本当に大事な用事がある。


 姉様に相談するのは後回しにして午後はジューダ君と一緒にフェンやリルの相手をして過ごして、少し早いけれどお夕飯の準備をしようかと姉様を誘いに行った。


 姉様の部屋をノックして返事がなくて、いつものようにドアを開けて、私は目の前の光景に息が止まりそうになった。

 床の絨毯の真ん中で服を脱ぎ散らかした全裸の男が仰向けに寝ていて、姉様が服を着たままその男に抱き付いている。

 姉様は服を着ていたけれど、手は男の首に回されて捲れ上がったスカートの下から飛び出した足はしっかりと男の足に絡まっていて、それはどう見ても愛を交わした男女の姿で、近づいて姉様が幸せそうな顔をしているのを見てしまってはもう疑う余地はなかった。


 姉様は本当は男の人で、国王様のプロポーズもお断りして男に戻るのを目指していたはずなのに、どうして……

 それよりも問題は、私の心の中に、姉様を取られてしまったという嫉妬の心が渦巻いていることだ。

(姉様は私の大事な人なのに。)

 その言葉が浮かんだ途端に、ぺたんと姉様の隣に座り込んでしまった。

(え? 姉様は今は女の人で、男に戻れたとしてもどんな人になるのか分からないんだよ? )

 自問しながら震える指で姉様を揺り起こした。


「姉様、その殿方はどなたですか? 」

 姉様を揺り起こして、バレたという姉様の表情を見て、私は腰が砕けそうだった。

(姉様はずっと私を裏切っていたの? )

 思わず声を荒げた私の詰問に、姉様は、実は、と事情を説明してくれた。


(え? これが姉様の本当のお姿? )

 まだ今は動かせないらしいけれど、あと半月もすれば姉様がこの体を使って男の人として半日くらいを過ごせるらしい。

 姉様がどんな男の人なのか、半月すれば知ることができる──


 私はつい上機嫌になって、そして姉様の男の人の部分がついつい気になって、姉様とふざけながらもじっくりと堪能したし、えへへ、ちょっと触っちゃった。


 今度、姉様が男の人になったときが、本当に楽しみ。



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