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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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閑話:サーフディアにて

「ジャガルくーん、遊ぼーっ! 」

「ハリルちゃんにソフラちゃんにティムシアちゃん。今行くからちょっと待ってて! 」


 執事頭のホーガーデンは、王弟ジャガル様が室内着からお召し替えになるのを微笑ましく見ながら、屋敷の門が閉じられ、ジャガル様が出て行かれることがないよう手配されたことを確認した。

 ジャガル様はエルフ国サーフディアにおいでになられてからお友達が増えて、ケイアナ様やダイカル様と離れ離れになられた寂しさを克服して明るくなられた。


 男性の少ないエルフの種族特性の影響もあって、屋敷に進んで遊びに見えるジャガル様のお友達は同じ年頃の女の子ばかり。

 ジャガル様が端正な風貌と女性への細かい気遣いを兼ね備えておられることで、ジャガル様のお友達はジャガル様に構ってもらおうと競ってジャガル様へと笑顔を向け張り合っている様子は、いずれジャガル様が学校へ上がられた際にどの様なことが起こるかを垣間(かいま)見るようで気になるところですが、ジャガル様はまだ8歳、まあ今はまだ深く考えることではないでしょう、とホーガーデンは考えていた。

 これに対してティムニアは、子どもの頃から女の子たちにちやほやされることに慣れてしまうと、大きくなって悪い女癖がつかないかを気にしていて、魔王の眷属により授かった他者の感情を制御する能力を持ち出して女の子たちの感情の動きを監視している節がある。

 女の子たちも一応は主家の客人であり、従者が主家の交友に干渉しすぎるのも良くないとティムニアも認識しているようなので、女の子たちの感情に制約をかけるなど、過激なことはしないようにホーガーデンから注意だけは促したところだった。


 ホーガーデンたちは今、サーフディアの首都ウッドリーフにあるガルテム王国の大使館に身を寄せている。

 エルフ風に木を植え幹を撚り合わせて成長させる手法で建てられた大使館は、改築は簡単ではないが、年数が経つほどに幹が外へと張り出して頑丈で重厚な造りとなるが、大使館はもう100年を超えて建ち続けていて、立派な風格を(かも)して周囲の景色とも調和している。

 ホーガーデンが魔王の眷属として授かった能力により、敷地内にはホーガーデンの探知の網が張り巡らされて、ジャガル様の安全は常に確認できており、王弟であるジャガル様の居所として申し分ないと、ホーガーデンは満足していた。


 エルフ国との関係では、ホーガーデンが同伴してジャガル様はエルフの女王ルーリアとの謁見を終えていた。

 ガルテム王国の国王ダイカルと王妃アスリーに対する香油を使った襲撃については、何者かが警備網を潜り抜けて国家の転覆を図った点で最高の機密情報であり、それを他国に漏らすことはホーガーデンの権限を越えた高度な政治的判断を要求される問題であったが、エルフ国の協力を得るためにも女王に限定して包み隠さず開示するようケイアナから指示を受けていた。

 ルーリア女王は直接国のトップを狙う大胆な犯行に驚き、アルザの実という特殊な素材を使った調剤がないかを取り急ぎ確認したが、エルフ国でも把握していない情報であったことに衝撃を受け、ホーガーデンとジャガルに対して、至急に研究に取り組むことを約束してくれた。


 この約束の背景には、エルフの国とガルテム王国との間に元々穏やかで好意的な交流があり、ダイカル国王の健康が優れず王家が離散したとの情報を掴んでいたエルフ国にとっても、ダイカル国王の健康の回復に役立つことで現在の良好な関係を維持しつつガルテム王国に恩を売って貸しを作っておくことは望ましいと判断されたものと思われた。


 だが、エルフの国はアルザの実が採れるガズヴァル大陸から見てガルテム王国よりもやや南西に位置していて遠く、植物や魔法に関する知識が豊富なエルフ国にとってもアルザの実とその活用法は未知で、ホーガーデンが持ち込んだ実を分析して特性を研究するところから始めているのが実情だった。


◇◆◇◆


 ところが、しばらくしてライラとサファが大使館へとやって来て、サーフディアの認識と対応は一変した。

 ライラがルーリア女王に手渡したダイカル国王からの親書には、今回の一連の事件に関してダイカルがまとめた驚愕すべき事実の数々が記されていた。


 ガルテム王国への侵略を目論んでいる敵がガズヴァル大陸に住む魔族であること、獣人の国アスモダでは魔獣と魔物を(けしか)けて生じた混乱に乗じてすでに侵略を進めていること、アスモダへ他国からの支援が行われて初期の段階で戦線が膠着(こうちゃく)することを回避するためにアスモダと並行してガルテム王国へも多数の高レベルの魔族を潜入させて同時侵略を狙い、まず自分とアスリーに薬物攻撃を行ってトップが崩壊すると同時に王都内で侵略を始める手はずが整えられていたこと、国王であるダイカルへの薬物攻撃が限定的な効果に留まり同時侵略が失敗したとみるや、ダイカルにアトルガイア王国への戦争指示の強制力を強めながら、開戦までに時間が掛かる情勢にほかの対策を取ろうとしている節があることなどが列挙され、ガルテム王国がアトルガイア王国へ向けて戦争を行う事態になれば大陸中を巻き込んで魔族の侵略がアスモダとガルテム王国だけに留まる目算はないことが記されており、個別の災難としか認識していなかった事実の恐るべき繋がりにルーリア女王は震撼(しんかん)した。


 敵は極めて戦略的に侵略戦争を仕掛けてきており、その戦略も多種多様で緻密に計算されている。

 もしアスモダとガルテム王国が落ちれば、次かその次にはサーフディアも攻撃の対象となることは確実と思われ、敵の用意周到さを考えると、ひょっとするとガルテム王国のように先行してすでに攻撃の準備が行われているのかもしれなかった。


 特に要人への攻撃については、使われた薬物の使用方法と効果の確認と対応策を確立しなければ、例えば今夜にでも自分の霊体が掠われてしまえば、エルフの国は頭を失って、その組織力と戦力を半減させるだろうし、そうならなくてもどこから薬物攻撃を受けるか分からないとなれば、身内をも信じられなくなって組織が崩壊してしまう危険がある。

 考えられるあらゆる対応策を早急に検討して、敵に気取られることなく、内密に講じておかなければならない。


 悩みを押し殺しながら、分かりました、ご苦労でした、とライラたちとの謁見(えっけん)を終えようとして、ライラから、それでアルザの実を使った香油の成分構成ですが、と話を続けられて、ルーリアは儀仗官(ぎじょうかん)が話を(さえぎ)ろうとするのを止めて聞き入った。


 ルーリアが驚いたことに、ライラたちは問題の香油の成分を把握していた。

 5種類の成分のうち2種類は使われた材料を特定できていなかったが、揮発による成分の変化を把握していて、揮発性の違いから原材料の対象を絞り込めれば、研究は劇的に進むことが可能となる。

 だが、そもそもガルテム王国に情報がないからサーフディアに助けを求めてきたのだ。

 彼女たちがそれをどうやって知ったのか、それが問題だとルーリアは思った。


 侵略者のスパイだったのかという警戒心を込めて、ルーリアが2人を改めて見て検分しようとして、ライラがルーリアの視線に気付いて説明を始めた。

「ルーリア女王様。私たちは2人とも魔王の眷属(けんぞく)の称号を得ていまして、今回の成分の分析は、私とこちらのサファの2人が新たに得た能力を活用して行ったものでございます。」

「……ほう。お二人は噂に聞く魔王の眷属の称号をお持ちなのですか。」

 ルーリアはそう返して、ダイカルからの親書によりアスリーが幽体を掠われたのは魔王妃の称号を得る前だったことと考え合わせて、王太后ケイアナの隠然たる影響力が今も王家内にあるのだと考えた。

 ライラたちもセイラの存在について敢えて明かすことはしなかったので、マイナたち威城(いじょう)のメイドの4人が魔王の眷属の称号を持っていることルーリアが知らないままとなった。


「香油がどの様なものであったかは、研究者の方にいらしてもらえれば私の記憶をそのまま研究者の方に記憶として伝えることができますので、臭いや感触がどの様なものであったかを体験として知ることができます。

 また、単に成分が同じであっても処理の仕方により何らかの差異が発生していないかは、こちらにいるサファが比較・分析してお伝えすることができます。」

 ライラの申し出にルーリアは何度目かの驚きを感じながら、2人に研究チームと引き合わせて合同で研究することを依頼し、二人の快諾を得て、研究は急ピッチで取り組みが進められることとなった。


◇◆◇◆


「ティムニア様。初めまして。」

 一方で、大使館ではマイナたちがティムニアに挨拶をしていた。

 冒険者として”威城のメイド”のパーティ名を持つマイナたちには自分たちはメイドだとの帰属意識が強く、お揃いの灰色のメイド服を着ているのもその現れだった。 


 元が城勤めのメイドであった彼女たちにしてみれば、王家のメイド頭であるティムニアは自分たちの最高峰、雲の上の存在であり、国王への謁見に匹敵するような気持ちでこの上なく緊張していたのだが、ティムニアは屈託なく迎え入れた。

「まあ、ライラたちと一緒にダイカル様から勅命を受けられた方たちね。

 私はメイド長のティムニアです。

 あなたたちがセイラ様によくしてくださったことも、城勤めのメイドとしてメイドの尊厳を護ってくださったことも聞いていて、大変感謝しております。

 マイナさん、シャラさん、ノーメさん、ユルアさん。

 私に”様”は不要です、仲間として、これからよろしくお願いしますね。」 

 自分たちを部下扱いせずに仲間扱いをするとのティムニアの言葉にマイナたちは恐縮しながらも、その温かい言葉を嬉しく思った。


 ティムニアはライラ、サファの続き部屋をそれぞれに与えて4人が大使館住まいとなることを提案し、マイナたちは何度か固辞しながらも、ライラたちの薦めと懐事情からティムニアの提案を受け容れて大使館に住まうこととなった。


 

先のテルガの町での戦いで、カウスと落雷の轟きの扱いにかなり大きなミスがあります。

書いたときに存在をほぼ忘れておりまして、誠に申し訳ありません。

(希望的観測として)次話の更新時までに修正して、修正箇所について、修正時に改めてお知らせしたいと思います。


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