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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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閑話:ダイカルの思惑

50分の遅刻ですね。

遅くなりました。

「……はい。憎い人間族を滅ぼすために、現在、戦争の準備を進めているところです。

 彼らを滅亡させるために、とびきりの戦力と装備を調えているところですので、今しばらくお待ちください。」

 ダイカルは自室でそう呟くと、しばらくの間、天井に焦点の合わない目を向けていたが、やがて焦点が戻り大きく溜め息を吐いた。


 どこから来ているのか分からない指示はだんだんと強まってきていて、ダイカルはその強制力に(あらが)うために以前よりも寄り強い意志の力と気力を必要とするようになっていた。

(まだ当分の間は対抗できるだろう。その間に王都にいる敵を排除して、母とセイラが事態を解決してくれるのを待つほかはない。)

 ダイカルは呪文のようにまたその台詞を心の中で呟いて、唇を引き絞る。


 最新の情勢については、各所の収集担当者に加えてティムニアとも連絡を取っている。

 ティムニアからは、アスモダで待つという連絡が母からあったと聞いていて、アスモダで母に最新情報を回す手配を終えている。


 王都に潜んでいる敵については、身元がバレないように注意しながら2割を削った。

 戦の準備に託けて実力のある者たちを集めて組織する作業は進んでいて、兵士と協力する意思のある冒険者の両方から実力者を王都へと集めて、残りの勢力を一掃する準備も整いつつある。

 あとは、母とセイラがうまく私を操ろうとしている奴らを排除してくれれば、ガルテム王国は侵略者に対して正面から戦いを挑むことができるようになる。

 それまでは、なんとしてもこの精神支配に抵抗しなければならないのだ。


 そこまでを考えて、ダイカルはアスリーとセイラの面影を記憶から呼び起こした。

 アスリーはアトルガイア王国から受けた洗脳教育を自力で打破して私と共に歩む道を選んでくれた女性だ。

 彼女は常に自分の横に立ち、自分の背中を押して共に人生を進もうとしてくれる掛け替えのない存在だ。

 対して、セイラは強い意志はあるものの、アスリーとは違って愚痴や冗談も言い合いながら側にいてくれる癒やされる存在で……認めたくはないが、アスリーの姿で見せるセイラの隙のある態度や表情には、かなりの克己心と自制を必要とした。


 セイラがメイドとして勤めるために母がセイラに施した変身は、今ではセイラの真の姿としてダイカルにも認識されていて、もうアスリーとセイラの面影が混同することはないが、ダイカルは、以前にセイラに提案した第2婦人の申し出はまだ有効だと思っている。

 というよりも、自分を押し上げてくれるアスリーと、自分を癒やして下支えしてくれるセイラが共に側にいてくれることを自分が願っていることを、ダイカルは自覚していた。

(セイラは幽体が男だから、第2婦人が気持ちとして無理ならば、側にいてくれるだけでも良い。それで私の心は安らぐのだ。)

 そう思っているところへテルガからの情報が届いた。


 母とセイラは地元の冒険者たちと協力して侵略を仕掛けてきた魔族を討伐し、アスモダから移動してきた魔獣とヴァイバーンを退治したという。

(ほう。セイラは単独でヴァイバーンを倒すまでにレベルを上げたのか。)

 セイラがここに転移してきたときには、世界最弱のレベル1であったことを考えると感慨深い。


 また、独立派の最右翼であったサングル子爵が魔族と共謀した罪で自害した旨の報告にはサングル家の取り潰しの裁可を問う文書が添付されていたので認可し、ただし書きに添えられていたサングル家の跡継であった息子ゲイズは母たちに協力して事件に対処したとの記述を読んで、子息にはお(とが)めなしの指示を書き込む。

 その下には、母とセイラたちがテルガを旅立つまでの経緯を記した報告書が添えられていた。


”セイラ様はユニコーンの加護を得て自らが乙女であることを証明し、町民は王太后様から王家の秘術によって魔王妃の加護を得たとの説明に納得して、セイラ様は国王様の新たな婚約者であると信じており、熱烈な歓迎と支持を示している。”

 その(くだり)に行き当たって、ダイカルは相好(そうごう)を崩した。

 為政者として、国民がどう受け止めるかは把握をしておかなければならない。

 恐らく報告書を作った者がダイカルの意向を忖度(そんたく)して意図的にばら撒いた噂なのだろうが、セイラがテルガの町の困難を救い、町民から敬愛され、自分の婚約者と信じているというのは、願ってもない朗報だ。


 セイラも女性の体に転移して半年が経ち、随分と女性の体にも慣れてきて意識にも変化があるようだ。

 アスリーの存在を前提に考えなければならないが、もしセイラが受け容れてくれるならば、国民は好意的に受け容れ、結婚の障害とはならないことが今回の事件を通して確認された。


 ダイカルはここ最近にはなかった爽快感を覚えながら、セイラに関する指示を出す。

「私にセイラという婚約者がいることを公表せよ。」


 貴族で婚約破棄はままあること、今はセイラの立場を補強した方が都合が良い。

 セイラが嫌がれば婚約は解消して、成果に見合ったほかの身分を与えれば良いし、側に置ける身分を工夫すれば最低限のダイカルの幸せは確保できる。

 もしセイラが男に戻ってしまったときには、適当な事情と経緯を作って公表してしまえばそれで済む話だし、何より今のセイラに対して、国王の婚約者であると国が公表することは、セイラにとって外堀を埋める心理的な効果があるはずだ。

 本当に嫌でなければ、外堀が埋められればセイラも諦めがつくかもしれない、そう考えるほどにダイカルはセイラを必要としていた。


 ダイカルは自分の出した指示に満足して、魔族に対する今後の対策に取り組むことにした。


◇◆◇◆


 王都でガルテム王国の転覆を指揮するギズモルは、テルガの情報に驚いていた。

 王都から逃亡した王太后ともう1人の女が、テルガを攻めた魔族を壊滅させたというのは衝撃だった。

 王太后はともかく、もう1人の女はそんなに戦闘力があるようには見えなかったが、アスリーの体に入っている幽体が勇者候補だったという指導者からの情報は本当だったようだ。

 鍛錬の鬼で知られる王太后と勇者候補が揃ってしまったがために起きた椿事(ちんじ)と言うべきか。

 本当はこうなることを避けるためにセイラという女の殺害命令が出ていたのだが、起きてしまったことは仕方がない。


 それよりも、とギズモルは考える。

 王都でぽつりぽりと殺された魔族の数が累計で3割に近くなっている。

 魔族の国ゾルグールには王都のような都会はなく、素朴な田舎町で育ったがために行動が粗野な者が多い。

 悪気はなくとも直情径行な言葉遣いと行動がトラブルの原因となっていざこざが絶えなかったので、喧嘩などによるある程度の損失は見込んでいたつもりだったし、個々の事件を調べると喧嘩や事故が発展して怒ったことが見て取れるのだが、いくら何でも多すぎる。

 王都に、魔族が侵略目的で潜入していることに気付いている者達がいて、勝てる状況になるまで時機を窺って魔族を排除している者たちがいると考えるのが自然だろう。


 ギズモルは、ガルテム王国の国王が魔族の排除に関与しているとは考えなかった。

 眠る間も精神干渉を受けて耐えられる者などいる筈もないし、耐えたとして、国王が精神攻撃を受けていることが判明すればもうちょっと何かの反応が国の側からあるだろうと思うのだが、何も見当たらないからだ。


(だとすれば、高位冒険者の中の、政府との繋がりのない一匹狼のような者が、魔族のやっていることに気付いて狩っているのだろうか。)

 考えてみると、あるかもしれない話だった。

 この国に来て気が付いたのは、自分に匹敵するようなレベルの高位冒険者がときおりいるということと、ギズモルが気付くということは向こうもこちらのレベルに気付いているということ、高位冒険者は押しつけられる様々なしがらみを排除するために独自のルールで動く変わり者が多いということだった。

 いきなり増えた高レベルの者達が何者かを調べて独自のルールと正義感で行動する──

 報酬は、侵入者である魔族が持っている多額の現金や高額装備など。

 その推測を裏付けるかのように、現実に殺された魔族たちは、金目の物は全て盗られていた。


 ギズモルは、何人かの仲間を呼んで罠を張れないかを相談し、目立つ行動をして、それと思しき高位冒険者を誘き寄せることに成功した。

 事実、ギズモルが誘き寄せたのは、単独で行動していた、彼の想定どおりの存在であったのだが、予定していなかったのは、彼を追い詰める前に何者かの手助けでその高位冒険者を取り逃がしてしまったことだった。

 このため、ダイカルの呼びかけに応じなかった高位冒険者たちが国とは別に組織されて本格的に魔族狩りを行うようになり、ギズモルは泥沼のような戦いに引き摺り込まれることになっていった。



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