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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第60話 恨みは流す方ですが、看過できないこともあります

「ジューダ君。君はこれからどうしたい? 」

 俺がジューダ君に尋ねると、ジューダ君は、俺を殺す、とまた繰り返すので、殺した後にどうするつもりかを聞く。

「そうしたら、僕が一番強いんだから、この町を征服して、魔族を呼ぶんだ。当然だろ。」

 俺は首を振って、一番強いのはこの人だから、と母様を紹介する。


「え? だって、おじちゃんは強かったんだぞ。

 それより強い人なんて、そんなに沢山いる訳が…… 」

 俺は、母様が世界で数本の指に入る強さであることや、ダゲルアさんが男女レベル平均化の法を使って俺たちの強さを吸収しようとしたのを俺たちに読まれて、逆に弱くなってしまった経緯を話して聞かせた。

「……おじちゃん、賢そうじゃなかったもんな。」

 ジューダ君は溜め息とともに小さく(つぶや)いた。


「でも、ならなんでセイラ姉ちゃんがそんなに間抜けだったおじちゃんのことを認めてるんだよ。」

(あ、セイラ姉ちゃんに呼び方が変わった。)

 ジューダ君が少し気を許してくれたことを嬉しく思いながら、戦いでダゲルアさんが指南してくれたことを刺激が強い部分は少しだけぼかして話し、それから力を振り絞って部屋から飛び出して自爆から俺を護ってくれたことを話した。


「おじちゃんなら、それくらい、やる。すごい人だったもん。」

 ジューダ君は、俺が感謝を込めてした話を聞いて、少し得意そうにそう言ってくれて、俺が相槌(あいづち)を打つのを見詰めると、にか、と笑って減らず口を叩く。

「おじちゃん、美人に弱くて惚れっぽいって、いつも仲間の人たちに揶揄(からか)われてたんだ。だいたいそれで自滅するんだって。

 なんだか分かる気がする、セイラ姉ちゃん、美人だもんな。

 きっとおじちゃん、セイラ姉ちゃんに惚れて、道連れにできなかったんだよ。」

 え、と口に出したまま、急に眉根と頬の辺りが(うず)くように突っ張るのは何だと困惑していたら、ティルクに、わあ、姉様、顔が真っ赤、と面白がられた。


(あ、あれ。なんで?

 生意気な子どもにちょっと揶揄われただけじゃん。)

 火照る顔を手で押さえて冷やしながら考える。

 ジューダ君はまだ小さいから、ダゲルアさんの侵略行為に関して思想的に思うところはない様子だし、ダゲルアさんが堂々と戦って俺に心配りをして亡くなっていった経緯を聞いて、彼なりに()に落ちたんだろう。

 俺に対する当たりがなくなっている。

 ならば、これからのことを相談する余地があるのかもしれない。


「ジューダ君。君はこれからどうしたいかなあ。」

 ジューダ君に慎重にそう訊くと、ジューダ君は(うつむ)いて何も答えなかった。

「ジューダ君がどうしたいか、また改めて相談しようか。」

 頷くジューダ君を見ながら、夕食のときにでも母様とドルグさんと相談しようかと視線を上げると、母様も頷いていた。


◇◆◇◆


 ジューダ君への対処が取りあえず終わって、俺とティルクはまた町へ戻って用事の続きがある。

 今は夏の盛りだが、間もなく峠を越えて来るだろう秋に備えて衣類を揃えることと、冒険者ギルドで俺とティルクの認識票の変更をしなければならないのだが、出掛けようとするとジューダ君も付いてきたがった。


 ジューダ君の服は焦げてしまっているし、彼も着替えや秋に向けての服は必要だろう。

 俺は少し考えて、ジューダ君の首に紐を通して紐の先に指輪に加工された魔石をぶら下げ、そこにジューダ君の目を誤魔化す幻覚魔法を付加した。

「ジューダ君。これからティルクと町へ服を買いに行くんだけど、すぐに着られる服だと古着になるけれど、それでいい? 

 それからほかの用事もあるんだけど。」

「うん、行く行く。セイラ姉とティルク姉、僕も連れて行って。」

 子どもって、立ち直りが早い。

 そして、俺たちの呼び方から”ちゃん”が取れて、セイラ姉とティルク姉になっていて、ジューダ君は順応も早いようだ。

 お父さんも亡くしていて、ジューダ君は相当なショックを受けているはずなのに、この子心が強いな、そう感じて、お父さんに関してはまた追々聞くことにしようと決めた。


 町では俺とティルクの衣類のほかに、ジューダ君の衣類も大量に買い込んだ。

 そして、買った全てを収納空間へとしまい込んでいると、ジューダ君が興味深げにそれを見ていた。

「セイラ姉、僕もそれ、できるかな。」

「空間魔法の属性を持っているならできるようになるわよ。」

 ジューダ君ががっかりとした顔をしているところを見ると持っていないようだ。

 まあ、魔法属性がないとできないし、仕方ないよ、と慰めておいた。


◇◆◇◆


 冒険者ギルドの建物に入ると、キューダさんたちが何人かいて、俺たちを見て嬉しげに近寄って来たが、俺は、こんにちは、と言ったきりそっぽを向いた。

 この間の王妃発言、お陰で10日も昏睡するハメになったし、町の人たちにはダイカルの婚約者と思われたままだし、まだ許してないからね。


「あ、あの、セイラさん? 」

 つーん。

「ご回復、おめでとうございます。」

「……ありがとう。()()()でね。」

 つーん。

 困惑したキューダさんたちの視線が俺の胸の辺りを彷徨(さまよ)っているが、さすがのこの空気で聞く気にはなれまい。

 と思ったら、こいつら、頭を下げて声を揃えて言いやがった。

「セイラさん。たとえ胸がなくなっても、俺たちの最高はセイラさんですから。」

(声がでかいよっ! )

 ぺしぺしとキューダさんたちの頭を叩いて、そのままカウンターへ向かう。

(見ろ、周りにいた冒険者たちが皆俺の胸を注視してるじゃないかっ。あいつらとは当分口を利いてやらん。)


 カウンターの中では、俺とティルクの姿を見て慌ててウォーガルさんと見たことのない人が2人、対応に出てきた。

「セイラ様、ようこそおいでくださいました。

 ご挨拶が遅れ、大変失礼致しましたが、ギルド長のザルカと申します。

 ここで立ち話何でございますので、奥の部屋へどうぞ。」

 むー、何か、2人とも顔色が青い?

 あ、そうか。

 国王様の婚約者と知らずに、新人冒険者たちに乱暴をされると予想しながら引率を依頼したり、セクハラするだろうと予想される人たちとペアで依頼を組ませたりしたと思ってるもんね。

 こちらから何も言ってこなければ、藪蛇(やぶへび)になるから黙っているつもりだったんだろうけれど、来ちゃった、と。

 そりゃ顔色が悪くもなるね。


 でも、今日の用件はそれとは違ってる。

「今日はランク付けの更新をお願いしたくてお邪魔しました。」

 ウォーガルさんたちから、ほーっと息が漏れて、承知しました、と言ってウォーガルさんが鑑定器や書類を取りに行くと、ザルカさんが、あ、しまった、という(てい)で周りへキョロキョロと視線が泳ぐ。

 うん。初対面なのに弱みのある立場で1人取り残されるとか、困るよね。


「あの、先般の事件の折りは、ご協力ありがとうございました。」

 なので、助け船を出してあげる。

 ただ、ティルクの隣にジューダ君が座っているから、詳しい話が出ると(まず)いので、すぐに話題は逸らす。

「ヴァイバーンの討伐では、冒険者と用心棒の方たちが活躍されましたけれど、報酬はどの様な形になったのでしょう。」

「ああ、それは領主臨時代行のドルグ様から過分な資金をご提供頂きまして、普段よりも良い相場で報酬を支払うことができました。」

 (にこ)やかにザルカさんが答えてくれたので、今後も魔獣や魔物が来ることはあるかもしれませんから、よろしくお願いします、とお願いをしたところでウォーガルさんが戻ってきた。


 今回は俺とティルクのステータスは偽装しないままザルカさんとウォーガルさんに見せる。

「え? このステータス、記載内容が前回と少し違いますよね。幻覚でステータスを偽ると鑑定器が反応しますが、前回は反応しませんでした。

 どういう裏技があるのか、今後のために教えて頂けませんか。」

 まあ、ギルドとしては気になるよね。

「前回はトリックフォックスの事実の改竄(かいざん)能力を使っています。

 私固有の能力が関与していて他人には真似ができませんから、対策等を気にされる必要はないと思います。」


 そう説明すると、ウォーガルさんはぽかんとして俺を見た。

「へえ、セイラ様だけの固有能力をお持ちとは、セイラ様は魔王様級の特別なお方なのですね。」

 あ、そういう認識になるのか。

「私の能力のことは、今後の任務にも関わってきますので、ぜひ内密にお願いします。」

 なので、2人には口止めをお願いしておいた。


 母様とミシュルに関しては本来はS級になるが、アスモダでの今後の活動もあるので、母様の意向であることも話して原則を曲げて2人のランクを俺とティルクに揃えてもらうようにお願いをして、母様と俺がA級、ティルクとミシュルがB級に登録をしてもらうことにした。


「ところで、王太后様が探しておられるS級の実力者というのは、どなたのことなのでしょう。」

 4人分の認識票を回収して魔力鑑定を行い、新しい認識票ができあがってくるまでの間にウォーガルさんが聞いてきたが、前国王が生きているかどうかの話は影響力が大きい、申し訳ないがお答えできませんと答えて了解をしてもらった。


 帰ろうと会議室を出たら、キューダさんたち冒険者と落雷の轟きの4人、それにゲイズさんまでが通路に土下座していて、何ごとかと冒険者たちが集まってきていた。


「セイラさん、すみませんでした! この通りです!! 」

 野次馬の全員の視線が俺に集まって、視線の圧力に俺はたじろいだ。

 25個の頭が地面に擦りつけられていて、その上を素通りして100組以上の好奇の視線が俺に向けられる。

「……っ。分かりましたっ。謝罪を受け容れます!! 」


 ことの原因を作ったヴァルスさんが先頭で土下座していて、通路を通行止めにしているので跨がないと通れない。

 端の方を跨ごうとしたら、器用に、というか気配を感じて上げたのだろう頭がスカートの中にモロに入って、頭でスカートを捲り上げようとする。

 俺はとっさにスカートの上から頭を殴りつけて、前屈みになった顔面へ膝蹴りを入れる。

「ただし、ヴァルスさんは対象外ですっ! 」

 周囲から笑いが上がって、血が流れだした鼻を押さえてヴァルスさんが後ろで(くずお)れた。



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