表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
60/233

第58話 目が覚めたら10日も経ってた事件の顛末

 俺が意識を取り戻したのは、自分の部屋でスープを飲んでいる最中だった。

(??? )

 対応できずに口の端から(こぼ)れるスープを拭きながら自分の格好と部屋の状況を確認する。


(俺はミッシュに恥ずかしい格好をさせられて、ユニコーンに抱き付いていたはずなんだけど…… )

 なぜいきなり状況が変わったのかが理解できないで考え込んでいると、頭の中でティルクの声が響いた。

(姉様、気が付いた? )

(う、うん。)

 戸惑いながら返事をすると、同化が解かれて体からティルクが出ていく感覚がある。


「姉様、よかったあ! 」

 横に現れたティルクが抱き付いてきて、何か拙いことがあったのだと分かった。

「姉様、乙女の印の匂いを嗅ぐなり意識がなくなって、10日も目を覚まさないから心配したんだから。

 あのね、…… 」

 ティルクが俺が意識を失った原因とその後のことについて、掻い摘まんで説明をしてくれる。

 そうか、ティルクが俺に同化して謁見をしてくれて、その後も同化して食事やトイレなどの日常生活を熟してくれていたのか。


(ん? トイレ? )

 ギギ、と首を回してティルクを見る。

 ティルクに自分が用を足すときの感覚を知られてしまったことが、なぜか分からないけれど、すごくショックで恥ずかしい。

 抗議しようとして、このことにはもっと大きな地雷が潜んでいるのに気が付いた。

(俺がティルクに体を使われるだけでこんなにショックを受けるんだから、アスリーさんが戻ってきて,知らない男に体を使われたことが分かったら、俺を許さないよね。)

 俺ならそんなヤツは絶対に存在自体を許さない。

 アスリーさんはレベルが8,000に近い。襲われたら抵抗すらできないだろう。

(これは、後で母様に相談しなきゃ。)


 トイレのことはひとまず置いて、話を本題に戻す。

「ティルク、私の秘密を知ったのよね。」

「うん。ちょっとびっくりしたけど、姉様がどんなに頑張ってるのか理解ができて、すごく嬉しかった。」

(ああ、男のくせに気持ち悪いとか言われなくて良かった。)

 ティルクから返ってきた返事にほっとする。


「それで、町の人たちの反応はどんな感じ? 」

 10日も意識が飛ぶことになった王妃認定取消計画の結果を聞くと、ティルクの顔がなぜか浮かない。

「あのね、王妃じゃないというのは分かってくれたみたい。」

 やった、と喜びかけた俺にティルクが言葉を継ぐ。

「姉様は国王様の新たな婚約者、そういう認識になってるの。」

「は? 何でどこから婚約者が出てくるの。」


 ティルクが言うには、謁見の時に俺が乙女であることはすんなりと受け容れてくれたそうだ。

 だが、母様が俺を横に並ばせて謁見をしたこと、国王様が門外不出に違いない秘術を使ってまで俺を護ろうとしたことなどから、町の人たちは俺が王家にとって大事な女性であるとも受け止めたらしい。

 そして、ヴァイバーンとの戦いの時に俺がケイアナさんを”母様”と呼んでいるのを聞いたとの証言が多数現れて、俺は国王様の想い人であると同時に王太后様も2人の仲を認めているのに違いないということになっているそうだ。


「…………。」

 見事な観察力と推理だ。間違ってるけど。

 絶句している俺に、ティルクが追い打ちを掛ける。

「町の人たちはそんな認識なんだけど、顔馴染みの冒険者さんたちやゲイズさんは正しく理解してくれて、”舞姫さんはフリーだ”って、明るい顔の人が多いの。」

「……ええっと。」

(理解して欲しい人たちは理解してなくて、知らなくてもいい奴らがなんでちゃんと理解するかな。)

 徒労感にがっくりと項垂れる俺にティルクが気の毒そうに頷く。


『ちなみに、冒険者たちとゲイズの21人の中で、ケイアナとミシュルを諦めきれないのが2人ずつ、ティルク推しが5人、残り12人は全部セイラ推しだ。』

 いつの間にか部屋に入ってきていたミッシュが話に割り込んできて、聞きもしないのに余計なことを教えてくれて、自分を慕う冒険者たちが5人もいると聞いたティルクは耳まで真っ赤になった。


「ミッシュ、折角だからお嫁に行ったら? 」

『相手のレベルが釣り合っていることを確認してから言うんだな。

 国王のダイカルでも俺には釣り合わないわけだが。』

 ミッシュがしれっと人類最強でも敵わないと答えるのを聞いて、この間感じた疑問のあれこれを思い出した。


『セイラとティルクの契約者2人に、この間セイラとティルクが感じた疑問を答えに来たんだ。

 ただし、今から話すことは絶対に口外しないで欲しい。』

 ミッシュが例によって俺の思考を読んだのだろう、先に口を開いて俺たちに確認を求めてきて、俺とティルクは顔を見合わせて頷いた。

『俺は人類よりも強い代わりに、理由は話せないが行動にいくつかの制限がある。

 覚えておいて欲しいのは、人間のする行為に対して直接介入したり、扇動するといった人に影響を与える行為ができず、契約した人間のためになるサポートしか許されていないということだ。

 だから、ダゲルアがセイラに男女レベル平均化の法が使用しようとしていた件では、セイラをサポートをするために俺はケイアナに相談したんだ。

 セイラとティルクに黙って男女レベル平均化の法を受けさせようというのは、ケイアナの提案した計画だよ。』


 はあ、と俺とティルクが顔を見合わせて溜め息を吐く。

(母様、よかれと思ってなのは分かるけど、ちょくちょく腹黒いんだよね。)

 ティルクと2人で顔を見合わせて、仕方がないねと諦めたのを見計らって、ミッシュが付け加えた。

『そういう意味では、以前、魔王妃の儀でセイラが危なかったとき、ダイカルが魔王の加護としてセイラへ供給した魔力を操作して、風魔法の割合を強化して攻撃をいなしたんだが、アスリーの体を護るためにダイカルの魔法を変質させていて、あれは許された範囲のギリギリの介入だった。

 もしあの対応が許容範囲を超えていたら、セイラはあそこで死んでいたな。』

 ミッシュからさらりと怖いことを告白されて、ちょっと胃が痛くなった。


 ついでなので、ダゲルアさんが俺とティルクに男女レベル平均化の法を使ったことで、俺たちのステータスがどんな風に変化したのかをティルクと比較して確認することにした。

 2人でステータスを見せ合うと、俺がヴァイバーンを倒した影響でレベル3,142になっているのに気付いたティルクが少し傷ついた顔をする。

「倒したヴァイバーンが大きかったんだから仕方がないわよ。」

「ふん。姉様が寝てる間に私も冒険者の人たちと森でレベル上げをして2,033になったし、すぐに追いついてみせるもん。」

 俺の説明にティルクは舌を突き出しながら強がる。


 ステータスを比較してみた結論として、俺に関しては強さと魔力の比率が変わったことと魔法属性に拘束と神聖が増えているだけ、ティルクに関しては、強さと魔力の比率が俺より少し魔法よりなのと、魔法属性に魔王妃の称号とオートモードがない以外は俺と大差ない内容のステータスになったということだった。


 ただ、魔王妃の称号とオートモードの魔法属性がティルクは付いていない。その理由をミッシュに聞くと、ミッシュは訳知り顔で教えてくれた。

『魔王妃の称号もオートモードの魔法属性も、セイラという幽体を指定して与えられている。

 幽体を指定して付与された能力は男女レベル平均化の法でも譲渡できないんだ。』

 どんどん魔王妃がコピーできたら、もう王妃だとか婚約者だとか言われないで済むと思った俺の考えを読んで、ミッシュが馬鹿にしたように言う。

『そんなに簡単に魔王妃の称号がコピーできたら、何か事件かあったときにダイカルが魔力枯渇で何もできなくなるからな。』

 ああ、そういうことなんだね、と俺は納得せざるを得なかった。


◇◆◇◆


 ティルクとミッシュとの相談が終わって、一緒に広間へと降りていくと、母様、ドルグさんにゲイズさんが話していた。

「あ、セイラ、気が付いたのね。」

 母様が声を掛けてくれてほかの人たちも気付いて話を中断してこちらへと来るので、どうもご迷惑をおかけしました、と謝っておく。


「いいのよ。どちらかというとミッシュのミスだしね。」

 そう言って母様がミッシュを見ると、ミッシュが軽く視線を逸らす。

 ミッシュのこの反応の軽さは、たぶんもう何度も言われているのだろう。


「セイラに今の状況を軽く説明するわね。

 テルガの町の状況は伝書鷹を20羽も送ってサステル伯爵へ状況を報告して、ドルグが臨時代行に任命されたわ。

 それから、残念だけど、町の人たちの反応は、聞いた? 」

 俺が不承不承に頷くと、母様は笑って俺の膨れ面を突く。

「そんな顔をしないのよ。婚約者ならば婚約を解消して事態の打開ができるわ。」

 あ、と思った俺に母様は、ただし、と付け加える。

「功績のあった婚約者との婚約を破棄するのは苦労するでしょうね。」

 ダメじゃん、と俺がさらに膨れるのを母様がくすくすと笑う。

 こうしていると、まるで平和がやって来たみたいだった。

 側にいるゲイズさんを見なければだか。


 ゲイズさんは目が窪み目の下に幾重もの隈を作って静かに座っていた。

 俺が視線を向けると立ち上がって、微かに笑みを作る。

「父トールドは自害しました。家も取り潰しとなりましたので、いつでも同行できます。」

 そうこともなげに言うが、その様子がいかにも儚げで構ってやりたくなる。


「そう。ならこれからは一緒に行けるわね。魔法の訓練もしてあげるから、覚悟しておいてね。」

 予定もなかったのだが思わずそう言ってしまってから、あれ?、と自分の言葉に首を傾げたが、ゲイズさんが少し元気が出たような顔をしてるし、まあいいか、と拘らないことにした。


「目覚めたばかりで悪いけれど、セイラ、明後日出発するから、準備をしておいてね。」

 母様の言葉に、はい、と答えて、俺はティルクと町へと出掛ける相談を始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ