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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第57話 私だって、姉様のサポートくらい……悩んでますが、何か

間隔が開いて、大変遅くなりました。


「姉様の体はアスリー様からの借り物で、霊体は男の人? 」

 私はミッシュから聞いた話が信じられないでいた。


『ユニコーンは乙女の味方だからな。

 乙女の印がもたらす”乙女の護香”には、その匂いを嗅いだ男性の性的な意欲や行動力を失う効果がある。

 セイラは女の体の影響をかなり受けているから、乙女の護香はセイラに効果を及ぼさないだろうと踏んでいたんだ。』

 ミッシュは言葉を切ると、私が膝枕をしている姉様の方へと視線を向けたのだが、私が瞼を閉じさせるまで、姉様は意思もなくただ目を開けているだけだった。


『俺は契約者の考えを読むことができるが、セイラは頭の中では一貫して”俺”で考えていた。

 セイラの女性化への抵抗の象徴なんだろうくらいに俺は思っていたんだが、この状況を見るともっと重かったようだ。

 たぶん、セイラは自分が男だという性的な認識を拠り所にしていたんだろう。

 ならば、おそらくセイラは乙女の印が消えるまでの1週間くらいの間は、意識が戻らない。

 そこで── 』

 ミッシュの説明に心配する私に、ミッシュはぴたりと視線を当ててきた。


「詳細は帰ってからケイアナと相談しなくちゃならんが、ティルク、セイラに同化して、今日の昼の謁見を行ってくれないか。」 

(……ちょっと待って。

 礼儀作法も覚束ない私に、群衆の前で注目を浴びながら姉様の振りをしろと?

 ムリムリムリムリムリッ! 絶対にムリだからっ。)

  

 ぶんぶんと首を振る私に、ミッシュは宥めるように言う。

『ケイアナもティルクの行儀作法には太鼓判を押していたし、魔獣との戦闘を見る限り現場度胸もある。大丈夫だ。』

 ミッシュに断言されて、私は困って私の膝枕で意識のない姉様の顔に視線を落とした。


 ミッシュの話が本当だとすると、姉様は女神様からオートモードの加護をもらったとはいっても転移したらレベル1で女の子の体になってて、おまけに魔王妃の称号までもらって大混乱だっただろうに、それでもアスリー様の代わりに魔王妃の儀式を受けたんだよね。

 私も今晩は目覚めたら急に強くなっていたことに始まって、ミッシュと使い魔の契約をしたり、ユニコーンに乙女の印をもらいに来たりして、自分の身に降りかかったことが多すぎて考えをまとめるのがすごく忙しかった。

 でも、姉様のそれに比べたら、全然たいしたことじゃなくて、今日、私が姉様の代わりに町の人たちに謁見をするくらい何でもない。

(でも、やっぱりたくさんの人に見られるのも、その前で他人の振りをするのも、すごく怖いよ。)


 ミッシュは、夜が明けて周りに魔獣が出てくるだろうから見回りをしてくる間に決断してくれと言ってどこかへ行ってしまった。

 ミッシュの私が断ることは前提にしていない物言いに私は唇を尖らて、私は姉様の髪を撫でながらあれこれと考えを巡らせる。


(ああ、もう。私だって大変なんだから。

 大体がミッシュと母様の悪巧みに引っかかってレベルが1,640なんて桁外れに強くなっちゃって、そんな鬼人族なんか私のほかにいないから。

 私、帰ったってお嫁のもらい手があるかどうかも分からないんだからねっ。

 この責任をどう取ってくれるのよっ。)


 ミッシュに何か言ってやろうとそう考えて頬を膨らませたが、母様だったら、すぐに私に見合うレベルの魔人族の男の人を紹介してくれるんだろうと気が付いた。

(私がレベル1,640と言うことは、相手の人は……ええっと、レベル2,340くらいまでの人。

 ああ、テルガにもいそうだし、王都になら結構いるのかもしれない。

 でも、これからも母様に付いて行くんただから、私、もっと強くなるよね。

 私よりも強いのに優しくていつも側にいてくれて、私を大事にしてる人。

 そんな人、いるんだろうか。)

 ふうと吐いた溜め息が姉様の髪を舞い上がらせる。


(……あれ? )

 私はぱちくりと目を瞬かせて改めて姉様を見た。

 たしか、姉様のレベルは2,565。私の結婚対象レベルよりは高いけれど、すごく近い。

 そして、上手く自分の年齢に見合った体が手に入るかという問題はあるけれど、幽体は2つ年上で、性格に関しては少なくとも私が嫌いになるようなことはない、というか、かなり良い。

(……姉様が男の人になったところなんて想像もできないけれど、条件としてはあり、なのかも。)


 そっと指先で姉様の艶やかな唇を撫でてみて、ふと思い出した。

(そういえば、姉様が男の人だったら良かったのにって、姉様に言ったことがあるよね。)

 思わず顔が少し火照る。

 あのとき、姉様はどんな返事をしたんだっけと思い返すが、残念ながら覚えていない。


(うん。こんなのは仮定の話。考えるにしても、まだお嫁に行くのは先のことだし、当面は保留だよね。)

 だけど、不思議とやる気は湧いてきた。

 姉様が男の人なら良い条件の人だということは分かったけれど、正直、実感なんか湧かなくて、今はまだ考えられない。

 でも、今までは姉様に助けてもらう庇護対象に甘えていたところがあったけれど、仮定の話でもパートナーとして考えるのなら、姉様とは対等の立場に立っておきなきゃ。

(姉様、私、頑張るからね。)

 私が視線を上げると、ミッシュはもうとっくに帰ってきていて、両前足に顎を乗せた姿勢で満足げに喉を鳴らした。



◇◆◇◆◇◆◇◆


「ユニコーンは乙女を保護するために、乙女の胸に守護の印を与えることは皆も知ってのとおりだ。

 セイラ様の胸に現れている乙女の印を見よ!

 セイラ様は王太后ケイアナ様と行動を共にされるにあたり、賢くも気高きダイカル王のご配慮により、まだ乙女の身でありながらこれまで門外不出とされてきた秘術により仮に魔王妃の力を与えられたものである!

 ダイカル王の王妃はアスリー様ただお1人であり、本日、王太后様の後ろにおられるセイラ様は王太后様をお守りする側近であることをこの機会に申し伝えるものである! 」

 ダンッ、と錫杖をバルコニーの床に突いて、よく通る声でドルグさんが観衆に伝える。


 姉様に同化した私は、いつもと違う体のバランスと視界にちらちらと入るあり得ない胸の膨らみが動作の邪魔にならないように注意しながら腕を上げ、優しげな笑みを浮かべるように表情を取り繕う。

 観衆が口々に上げる、セイラ様ーっ、という歓声は、だんだんと1つに纏まり始めて、セイラ様、セイラ様、という大合唱になっている。

 引き攣ってくる顔に私が一生懸命に笑顔を作っていると、ついと横に母様がお立ちになって、母様を見た観衆の合唱の対象は母様に移ったのだが、語調を合わせる難しさから、”王太后様”、”ケイアナ様”などの呼び声が揃いきらずにまばらに上がっていたのが、誰かが投げ入れた、”戦姫様”という呼び名が口にしやすさから統一されると、一気に声が揃って観衆のボルテージが上がった。


 何? このまま反乱でも起こるんじゃ、とビビった私の側で、母様が両手を伸ばして歓呼を制止する。

「懐かしくも私の愛するテルガの町の人たちよ、よく聞いて欲しい。」

 しんと静まりかえった町民の人たちに母様の抑えた静かな声が徹っていく。


「昨夜、テルガの町を襲った者達は町の人たちの協力もあって、討伐することができました。

 また、ここにいるドルグ スタージクの率いる精鋭たちによって町に嗾けられた魔獣も殲滅することができましたが、空を飛んできた魔物ヴァイバーンについては、皆様たちのご協力を得て退治したところです。

 私とセイラはこの町で協力してくれる者たちを仲間に加えて、獣人の国アスモダへと向かい、敵を打倒するつもりでいます。」

 母様は湧き上がる拍手や歓声を抑えるために話を切って視線を巡らせると、聴衆はそれに気付いて静寂が戻った。


「私たちは、全力でガルテムの平和のために尽くします。

 私たちが戻ってくるまでの間、困難でしょうが、魔獣や敵への対処を、お願いしますね。」

 母様の念押しに聴衆が拍手で応え、それに母様が機嫌が良さそうな笑顔を向けると、聴衆は再び観衆へと変わって母様へ向かって、戦姫様!、と合唱を始め、頃合いを見て私は母様に横へと並ばされて、母様と私が演じる姉様とが並ぶ姿を見た観衆は、わあっ!、と歓声を上げながら拍手をして、私は熱狂する人たちの中心で失神しそうになりながらも何とか役割を果たし続けた。


 バルコニーでの謁見が終わり、母様へ面会を求めて、貴族の人たちが大勢やって来たが、私は徹夜で疲れているだろうと対応を免除されて、私は意識のない姉様が心配だからと理由を付けて同じベッドに潜り込んだ。

 今日はもうメイドさんたちも来ないはず。

 なので、いつもと同じように姉様の胸を枕にして姉様の心音を聞きながら眠りに落ち、たっぷりと睡眠を取ることができた。


 

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