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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第55話 事件の後始末。何ごとも責任者って結構辛い

「それで、町の被害状況はどうですか。」

 母様の質問にドルグさんが調べた結果を教えてくれた。

「野次馬1名が犠牲になりましたが、他に死者はいません。

 商家が2軒、ヴァイバーンに壊されましたので、これらについては仕事を発注するなどして何らかの補填をしたいと考えています。

 それから、冒険者や用心棒に対する報償や賞金はまた後ほど相談致します。」


 母様は頷くと、ゲイズさんに視線をやる。

「ならば、後はトールドに話を聞くまでね。冒険者の方たちとゲイズさんは席を外してもらえるかしら。」

「いえ、僕も同席します。」

 固い声でそう答えるゲイズに母様が首を振る。

「息子として父親の醜い面を見ることになるし、その後の処分のことがあるわ。席を外した方が良くてよ。」

「それでもです。

 僕は独立運動を続ける父に対する反感を持ちながら、それに立ち向かおうとはせずにこれまで逃げてきました。

 ケイアナさんたちと出会ってこの国、いや、世界の情勢を知って、僕は父と剣を交えて戦うことになってもケイアナさんたちと行動を共にしたいと考えたんです。

 父の独立運動がどう決着するのか、僕には確認する義務があります。」


 母様はゲイズさんの言葉に首を振って、辛いわよ、と言い聞かせゲイズが頷くのを確認して、キューダさんたち冒険者が退席した後にトールド子爵を連れ出した。


◇◆◇◆


「ふうむ。息子をこの場に立ち会わせて、私に対する圧力のおつもりですか。」

 トールド子爵は会議に参加している顔ぶれを確認すると苦言を口にする。

「いいえ。私は彼の同席は止めたわ。」

「父上、これは僕の意思です。」

 トールド子爵はゲイズの言葉を聞いて、そうか、と呟いて溜め息を吐いた。


「私たちには、あなたが謀反の意図を持って魔族の力を借りたとの調べが付いています。反論はありますか。」

「言い訳になりますが、私の忠誠は元からテルガにしか向いておりません。テルガの国を再興するために考えたことで、謀反ではありません。

 魔族の干渉も、常に私と同化したままにできるものでないことは分かっていて、機会が訪れ次第に対策を講じるつもりでした。」

 トールド子爵が悪びれもせずに答える言葉に母様は溜め息を吐いた。

「トールド。魔人族が小さな国に別れて争っていた時代と魔人族全体がガルテム王国に統一された今とでは情勢がまるで違うの。

 いつまでも町が国として結束していた過去の思い出に囚われないで、ガルテム王国の中でテルガが確固とした地位を築いて欲しいという私の願いは伝わらなかったかしら。」

 トールド子爵は唇を噛んで目を(またたか)かせながら頭を振る。


「あなたは私を力尽くで妻として、ダイカルを背後から襲って自分が世界の王となろうと考えた。そのどこにテルガへの忠誠があるのかしら。」

「私が世界の王となって保護してやれば、テルガの国は安泰となるではありませんか。私は、ただテルガのためだけに王であろうと願ったのであって、その反対ではありません。」

 トールド子爵の言い分を母様は鼻で笑った。


「目的のためなら手段を問わない変態剣士らしい考え方ね。

 確かにあなたの高レベルの家臣は温存されていて、あなた自身もレベル2,000程度はあるから、早期に上手く処理できれば同化した魔族を排除するというのは、難しくてもまるきり不可能ということではなかったかもしれないわね。

 でも、自身が世界の王になろうというあなたのその計画に、タールモアの誓いは残っているの? 」

 苦しげな表情になるトールド子爵に母様はなおも指摘した。

「世界が滅ぶかもしれない危機に、敵の手下になって火事場泥棒を働いて王を僭称することに何の意味があるの?

 あなたのやったことは人類に対する裏切りだわ。」

「世界の危機に人類への裏切り。……そこまでのものですか? 」

 母様は溜め息を吐くと、俺の方を見て、それから答えた。

「ダゲルアは恐らく現地での使い捨ての駒よ。

 セイラが女神リーアから神託を受けたの。

 森の魔獣の移動に関連する一連の事件は、いずれ人類の存続が懸かるような問題になるらしいわ。

 その侵略者の下っ端の手先となって、テルガの町を占拠しようとしたのが、トールド、あなたよ。」

 トールド子爵は母様の説明に悄然(しょうぜん)項垂(うなだ)れた。


「それで、魔族について、あなたが知っていることを話して。」

 トールド子爵は(うつむ)いたまま考え込み、それから話し始める。

「同化した時間は(わず)かで、私は多くは知らないのです。

 ただ、ダゲルアは指導者を神のように崇めていて、指導者の指示によりテルガを占拠して魔族の拠点とするつもりでした。

 アスモダを侵略して征服するには時間が掛かる。テルガを支配してアスモダとガルテム王国の間を魔獣で満たしてアスモダとの交通を遮断し、テルガをガルテム王国に対する次なる橋頭堡(きょうとうほ)とするのが彼らの計画のようでした。」


 それで、とトールド子爵は言葉を切ると俺の方を見た。

(──何かな? )

 俺が首を(かし)げていると、トールド子爵は周りの顔ぶれを確認して何食わぬ顔で話し始めた。

「私もレベルは2,300ほどあり、テルガではしかるべき地位で町の防衛に努めてきた経験もあります。

 セイラ様と国王様の秘密は守りますし、今後は心を入れ替えて魔族からの防衛に努めたいと思いますが、いかがでしょうか。」

(何でここで俺とダイカルが出てくる。あ、ひょっとしてダイカルに衆道の嗜みがあるとか言ってた話をネタに脅迫してるのか。)


 俺がトールド子爵の発言の意味に思い至ったときにミシュルが横から割り込んできた。

「あなたの言う秘密とはこれのことかしら。」

 ミシュルが収納空間から俺の姿をした血まみれの寝間着を着た人形を取り出すと、周囲がざわついた。

「あなたがセイラに不埒(ふらち)を働こうとしていたことは分かっていましたからね、万が一がないように、セイラにはこの体に入ってもらっていたの。

 もっとも、あなたにはそれが逆に働いたようだけれど。」

 ミシュルが指摘するとトールド子爵は真っ赤になって顔を背けた。

(こいつ……。あのときダゲルアさんが言ってたのはマジだったのか。)

 俺は思わぬ貞操の危機にぞっとしたが、ふと訝しげな表情のゲイズさんが目に入り、うん、この件は深く立ち入らない方が良いな、と口を挟まないことにしたのだが、それはトールド子爵も同じだったようだ。


「そうでしたか。それで、私に対する沙汰はどうなりますか。」

 諦めた表情で淡々と話すトールド子爵に母様は告げた。

「正式には騒動が収まって王都に報告が行ってからになるわ。でも、名誉ある措置を望むなら、そうしてあげる。」

 トールド子爵は、ぜひ、と(こうべ)を垂れると退室の許可を待ち、母様が頷くとゲイズに向かって、これからはお前の時代だ、好きに生きろ、と声を掛けて部屋を辞した。


◇◆◇◆


「王太后様、ありがとうございました。」

 ゲイズさんが頭を下げるのを母様が押しとどめて首を振った。

「ゲイズさん、もうお父様に話しておくことはない? これが最後の機会になるわよ。」

(え。名誉ある措置って…… )

 俺が先ほどの母様の言葉の意味をようやく理解して愕然としている一方で、ゲイズさんは首を横に振った。


「それで、父の後には、ドルグを充てるよう取り計らって頂けますか。」

「それで良いの? 」

「謀反人の息子が後を継いでは悪例を残すでしょう。僕は王太后様と共に行きます。

 それで、十分な働きができれば新たな家が興せるでしょう? 」

 にっこりと笑うゲイズさんに、俺の胸がキュンと……

(いやいやいや、しない、しないぞ。絶対にしてやるもんかっ。)

 危うく反応しそうになった感情を抑え込みながら、むふーっ、と息を漏らしたところへ、ミシュルが話を振ってきた。


「ところで、明日の謁見のことだけれど、セイラは王妃と言われるのはどうしても嫌なのでしょう? 」

 何を今さら、と俺が頷く。

「それなら、打つ手があるかもしれないわ。今夜のうちに対策を講じないといけないので忙しいですが、今から出掛けても大丈夫ですか。」

 俺は意外な提案に頷きながら詳しい説明を求めると、ミシュルはゲイズとドルグに退室を求め、2人が女性の機微に触れる話と受け止めて(いとま)を告げ退室してから話し始めた。


「近くの森にユニコーンという魔物が住んでいますが、この魔物はなぜか人の生娘が大好きで、生娘がいると近くに寄ってきて体を擦りつけてマーキングしていく習性があります。

 マーキングされると、その部分が淡く光って独特の香りがするので生娘の証明になるんです。」

「いや、でも、その…… 」

(そもそもが、不本意ながら生娘でないから魔王妃の称号が付いてるんだし……。)


 俺の考えを読んだのだろう、ミシュルがこう話を切り出した。

「私の推測では、セイラはまだ生娘の可能性があると考えています。

 セイラはこの世界に来たときに、いきなりレベル1になったでしょう?

 レベル1の人をレベル8,000の人が押さえ込んだら、力が掛けられた箇所が千切れて体は固定できません。

 たぶん、魔王妃の称号を得た理由は、破裂した体が集まって再生されたときに、その、魔王の汗だか体液が体に付着していて、再生された体に混じってしまったからじゃないかと思うんです。」

{あー。あるかも。)


「セイラが生娘であることがユニコーンのマーキングで証明できれば、魔王妃の称号の方は、ケイアナが一時的に魔王妃の称号を付与する特別な方法があるとでも説明すれば、民衆は納得するのではないでしょうか。」

 母様が考えながら頷くのを見て、俺は新たな可能性に胸をときめかせた。



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