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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第51話 戦士の心得。はい、ありがとうございました

遅くなりました。

 兵士の詰め所では、キューダがゲイズを訪ねてきていたが、ゲイズはそわそわと落ち着かない様子でに理由を聞いても答えずに幾つかある応接室の一室の前で立ったまま動こうとしなかった。

「ゲイズ、もうすぐ敵襲があるはずなんだが。」

「あ、ああ、分かっている。だから僕はここから動くことが出来ないんだ。」

 どうも要領を得ない。キューダの訝しげな視線に気付いたゲイズが仕方なくこっそりと耳打ちをしてきた。


「ケイアナさんから頼まれて舞姫さんの体を預かっているんだ。」

 言葉の意味がよく分からずに首を捻ったキューダへゲイズが説明を補足する。

「なんでも闘姫さんが用意した代わりの体とかいうものがあるようでね、舞姫さんがその体を使っている間、本体を管理しててくれって頼まれたんだよ。」

(なら、意識もない舞姫さんの体をこいつが好きにできたってことか! )

 セイラの胸を揉んだ前科者が意識のないセイラを預かっている事態の危うさに気付いてキューダがゲイズをものすごい目付きで睨み付けると、ゲイズが慌てて弁解した。

「誓って言う、僕は何もしてない!

 あれは父への反発で町で遊んでる振りをしてる時の出来事だからっ。

 丁寧に舞姫さんを抱いて運んでベッドに寝かせた以外、舞姫さんには指一本触れてないからっ。」

「何だそれ。充分羨ましいじゃねえかっ。」

 キューダがゲイズの頭をスパンッといい音をさせて叩いて、近くに居た兵士たちがこちらへと身構える反応を見て、あ、こいつ、お貴族様だったわ、と気が付いたときに、ドンッという音が響いて、すぐに表から敵襲だ、という警告の声が聞こえた。


 キューダたち冒険者が表に出たときには、門が壊され20人ほどの敵か進入して戦闘が始まっているのが見えた。

 兵士たちのうち、強い者はドルグと一緒に森へと出掛けたために、ここにいる兵士たちはキューダと大差がないレベル300前後のものたちばかりで、3人、あるいは5人のレベルを足してようやく相手のレベルと数字が釣り合う。戦いならばそれ以上の人数が必要だった。


「ゲイズ、お前は姫さんを護れ! 」

 キューダはそう言い残すと戦闘に参加する。

 キューダたち冒険者は、ミシュルから貰った物理と魔法の衝撃を半減させる指輪と速さを倍にする指輪のお陰でなんとか兵士たちより有利に動けているが、手数が多いだけで、深い傷を与えられてはいない。

 戦いはもみ合いの様相を呈し。当然、戦えば怪我をする者も増える。

 魔法使いのセムルが忙しく駆け回って回復をして回り戦線を維持する。

 キューダたちの目標は、今の状況を出来るだけ持ちこたえさせて、ドルグたちが帰るなりケイアナたちがボス討伐を終えるなりして援軍に来てくれるまでを持ち堪えることだ。

 その意味で、一番難しい持ち場だった。

(誰かが死なないうちに、早く誰か来てくれ。)

 キューダたちはそう願いながら、一太刀でも多く敵を削り、味方の怪我を回復して戦線を維持していた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


「セイラ! 兵舎で戦闘が起きてる。ほら、行くわよ! 」

 ケイアナの督促を遠くの出来事のように聞きながら、俺は手を震わせて立ち竦んでいた。

 ダゲルア、とかいった敵が襲ってきて夢中で反撃して、最後の数瞬に見せた、ダゲルアの瞳が鮮明に焼き付いて離れない。

 この戦いで人を殺すことになるのを意識しなかった訳ではないが、これまで魔獣を何百と倒してきて、その延長戦にある出来事として、多少動揺しても、これまでと同じように乗り越えられると思っていた。

 でも、あの瞳──カメラレンズを思わせる(きら)めきで俺を観察していた視線と、俺に斬られた後、去り際に見せた温かみのある眼差しが俺に強烈な印象として残り、その瞳の持ち主を殺したという事実にパニックになっていた。


「セイラッ! 」

 ぱん、と母様に頬を叩かれて、俺は我に返った。

「いい? あなたは敵と真っ向から勝負をして勝った。

 負けた相手が立派な立ち居振る舞いだったなら、それは正に尋常な勝負だったの。

 相手に勝ったことを誇りなさい。」

 言われている意味が分からずに俺が母様を見ていると、母様が噛み砕いてくれた。


「あの男は最初の一合(いちごう)で自分が致命傷を負った後に、セイラが人を殺すことが初めてなのを悟ったの。

 最後の攻撃はセイラが戦いの意思を示せば対処できる程度のものだったでしょう?

 あんな真っ正直な攻撃、熟達の戦士はまずしない、セイラが人を殺す恐怖を克服して生き抜くように指導してくれたんだわ。

 戦場で、負けた戦士が自分を倒した相手の戦士にアドバイスや補助を残していくのは、たまにあることなの。

 自分を乗り越えた者に自分の生き様を見せたいとか、(なにがし)かを託したいとか、そういう衝動が湧くんだと思うわ。

 あの男、最期にセイラを巻き込まないように、必死で城から身を投げたのは、セイラも気が付いたでしょう? 

 あの男はセイラに戦い抜く心を伝えて残していった。

 その伝えてくれたものだけは、忘れちゃダメよ。」

 俺はダゲルアの最期に見せた瞳の意味を知って、ただ頷いた。

(そうだ。あいつは最後、体が2つに裂けているのに、魔法まで使って、死に物狂いで窓から身を投げて爆発した。

 俺は初めての戦いで、敵に目を掛けてもらわなければ、生き残れなかったんだ。)

 俺はダゲルアが窓へ体を投げ出すために使った風魔法で部屋の壁中に飛び散った血の跡を眺めて、それからダゲルアさんに感謝の黙祷(もくとう)を捧げた。


「さあ、セイラ。改めて言うわ。

 今、この城では兵舎が襲われているの。

 それから町では商業区と冒険者ギルドが襲われてる。

 まず兵舎から加勢に行くわよ! 」

 俺は母様に促され、戦いの途中から目覚めていたティルクに声を掛けて兵舎へ向かおうとして、母様に止められた。

「実は、兵舎にはもうセイラの体が運んであるの。

 ミッシュから体への戻し方を教わっているから、一足先に行って戦線を支えていてちょうだい。お願いね! 」

(だから、母様もミシュルも、なんで俺に内緒でそういうことをするのーっ! )

 俺の抗議は今回も当事者には届かない。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺が目覚めたのは、城のどこかのベッドの上だった。

 起き上がろうとして、手にカードを持たされているのに気付いて読む。

”神に誓って、変なことはしていません。 ゲイズ”

(俺をここへ寝かせたのは、あいつか。)

 たぶん、後で色々と気を回されないように先手を打って来たのだと思うが、寝顔を見られたのだろうことは間違いのない事実で……やっぱりギルティ。


 ゲイズに有罪判決を下しながらベッドから降りてドアへと向かう。

 服装はいつもの動きやすい膝丈ワンピースで、持っている剣はいつもの剣とは違うが手に馴染んだ。

 ドアを開けると、外にいたゲイズに戦闘の場所を聞き、表へと駆け出て、キューダが斬り結んでいた敵に駆け寄ると一刀の下に切り捨てて次へと向かう。

 敵を殺すことに気持ちの整理なんかまだ着かない。

 でも、生き残るために必要ならば、ひとまず悩みを脇に置いて、やるべきことをやる程度の割り切りはできるようになった。


 襲撃してきた男たちは、新たな敵が戦闘に参加して仲間の1人が斬り伏せられたのに気付き、これまでの兵士とは実力が桁外れの敵に対する迎撃態勢を整えるために集まり始めた。

 俺は敵をさらにもう1人切り伏せたが、敵が集まる情勢を見て回りの見方の配置を確認し、襲撃者の3分の1程度が纏まったところで魔法を起動して火炎放射を浴びせた。

 襲撃者のうちの数名は、服を燃やしながら散り散りに分散したところを兵士や冒険者に取り囲まれ、鎧を着ていた襲撃者の中には熱せられた鎧の中でやけどをして転げ回っている者もいる。

 一気に形勢が傾き、ケイアナとティルクが兵舎前に辿り着いて戦闘に加わり、兵舎前での戦いの大勢が決したと思われたとき、上空から”キェーッ”という声が加速度的に大きくなって近づいてきた。


「姉様! 上!! 」

 俺は敵と戦っていて上を見る余裕がなかったが、ティルクの叫び声に反射的に身を投げると、先ほどまでいたところに大きな(あご)が降りてきて頭の高さでがしりと閉じられると、ゆらりと向きを変えて少し顎が開き、俺が戦っていた相手の銜えたまま浮き上がっていく。

 仰向けに転がったまま見ると、羽の生えた大きなトカゲのような生き物だと分かった。


(でけえ。恐竜かよ。)

 極細のティラノサウルスのような風貌に翼竜のような羽。

 まるで有名なパニック映画のワンシーンでも見るような迫力に仰天(ぎょうてん)していると、母様が来て状況を教えてくれた。

「空にまだ2頭いて、こちらの様子を(うかが)っている。

 今の一頭が町の方へ飛んで、あ、合流したわ。

 大変! 3頭とも町に向かってる! 」


 俺は飛び起きて周囲を見回した。

 まだ襲撃者は10人ほどが戦っている。

 手分けをしなければならない。

 一番強い人が行くのが、間違いがない。

「母様! ここを片付けてすぐに行きますから、それまで恐竜の相手をお願いします! 」

 あ、つい恐竜って……でも意味は通じたようだ。

「待ってるわ、急いでね。」

 そう言うと母様は門へ向かって駆けていった。



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