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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第49話 ミッシュ、恨むから。好き放題してくれて、絶対に許さないから

 ドルグはミシュルが戦闘に加わっていることを知ると、すぐに連絡を取ってレベル1,000以上の兵士へミシュルの指示に従って防衛線を維持するように命令し、自分は他の2人のレベル3,000以上の兵士と共に打って出ることを決断した。


「タギル、ジャス、正面から右手に掛けて殲滅していく。突撃! 」

 ドルグが魔獣に突撃して、これまでの隙を見ての反撃ではなく攻めに撤したことで形勢は転じた。

 2時間後には魔獣の130匹ほどを討伐したところで魔獣の包囲にも隙ができはじめ、ミシュルも攻撃に参加して辺りが暗くなり、これで終わりと思った頃に、3頭のサンダータイガーが現れた。

「サンダータイガーは、ボス級の魔獣よ。レベルは1,200くらいあるわ。

 ドルグさんたち高レベル者なら問題はないけれど、瞬間的に発動してくる雷魔法は厄介だから気を付けて。」

 ミシュルは兵士たちに注意を呼びかけながら、森のボス級の魔獣が集団になるほど追われてきてるなんて、アスモダの森で起こっていることが気に懸かった。


◇◆◇◆


 トールドは、ベッドの脇に立ってセイラの寝顔を覗き込んだ。

 記憶しているよりも僅かに頬が痩せているように感じるのは、自分のイメージがセイラを実際よりも美化してしまっていたせいだろうか。

 ふふ、俺は相当にこの女に参っていたらしいな、と苦笑しながらタオルケットを捲り、セイラの反応を見る。

 セイラが反応しないで寝ているのを見て、さらに頬に触って目を覚まさないのを確認し、寝間着の胸を(はだ)けていく。

 白い豊かな胸が現れると、トールドは堪らずにズボンと下穿きを脱いでベッドの上へと上がり込んでセイラに覆い(かぶ)さった。

 やわやわと胸を揉みながら、セイラに口づけしようと体を前へと移動させたところで、体にかかるトールドの重さで肋骨を押し潰されて咳き込んで、セイラが目覚めた。


「えふえふっ。ん、あ……ふっ、うあ? な、なに……」

 よく分からない不快な重さに私が目を覚ますと、誰かが体の上に覆い被さって上半身を近づけてきていた。

 どこかで体験したことのある光景に、私は、あれは確か……、と思い出そうとしたけれど、頭がぼんやりとしてうまく思い出すことができずにいると、顎のすぐ下に男の人の顔が見えて、含み笑いで答えてきた。

「セイラ、お楽しみの時間だ。お前はこれから俺の女になるんだ。」

(俺の女? 私は女じゃなくて、男になりたいの。

 誰かの女なんて、そんなの、いや。)

「んあ、やっ……」

 誰だか分からない男に抗議しようとして、私はその男に体を押さえ込まれていることに気が付いた。

(いやだ、女になるのはいやだ。俺は男になるんだ。)

 無意識に出てきた”俺”という言葉の違和感にびっくりして少し頭が働くようになって、俺は自分がトールドに乱暴されようとしていることにようやく気が付いた。

(くっそ! こんなオヤジになんか、とんでもねえ!

 あ、頭をすっきりさせないと、体が上手く動かねえ! )

 俺はまだはっきりしない頭で体が動かないでうまく抵抗もできない自分の状態をようやく理解して、薬か魔法か、何かの影響で頭がはっきりしないのだと気が付いた。

 俺は迫ってくるトールドの両肩に両手を押し当てて腕を突っ張って引き離そうとしながら、魔法、状態異常を治す魔法、とのろのろと一生懸命に考えて、光魔法の存在に行き当たった。

 ぱしり、という音とともに俺の体が光り、意識が一瞬で明瞭になって思考の速度が戻ってくる。


 俺は思考と体の自由を取り戻すと、両肘に力を込めて、トールドの両肩に押し当てた手を突っ張ってトールドの上半身を上向かせる。

「誰があんたの女になんかなるもんか! 」

 目の前にあるトールドの耳に向けて俺はそう怒鳴ると、俺は片腕でトールドの肩を支えてもう片方の手で拳骨を作ってトールドの顔を殴ろうとしたのだが、トールドは頭を下げてセイラの拳骨を防ぎ、そのまま力任せに体を押し上げて全体重を俺の胸に預けてきた。

 胸郭が押し潰されて俺が苦しさに顔を背けたのを嬉しそうに笑いながら、トールドが顔を近づけてくると、舌で俺の頬をぬめりと舐めあげた。

 ぞぞ、と悪寒が走るのを我慢して、俺はトールドの顔を目掛けて風弾を打ち込もうとしたのだが、いきなり下半身をむんずと(つか)まれて、うぁっ、という呻きが漏れて魔力が収束できずに散った。


「な、何だ、これは? 」

 トールドが掴んだものに戸惑いの声を漏らすのと、俺が、ミッシュー!、とくぐもった叫びを漏らしながら覚えのある痛みに身を縮めたのは同時だった。

(ミッシュのバカヤロー! これ、男の体じゃないかーっ! )

 一体、いつ体を入れ替えられたんだ、と思いながらも、トールドにのし掛かられているために掴まれた股間を(かば)うことも出来ずに、今の自分の身に起きている状況への怒りの全てをトールドへぶつけて、渾身(こんしん)の力で頭突きをしたら、驚いて体を起こし気味だったトールドの鼻先をかすめて顔面へと俺の額がきれいに入った。

 ぎゃっと叫んでトールドが横に転げて、俺はようやく身を起こした。

 おそらく、俺が今朝やったのを見てミッシュが作り直したのだろう、胸にはいつもと同じ豊かな乳房があるが、股間で鈍い痛みを訴えているのは男の急所の痛みだ。


(泣くぞ、もう。)

 倒すべき敵の前だとはいえ、豊かな胸を(さら)して下履きだけなのに加えて、大事なものが女物の下履きからはみ出している姿は相当に恥ずかしい。

 少し痛む股間を押さえながら、せめてもと下履きを整えてトールドに向き直ると、トールドの雰囲気が変わった。

「隠された魔王妃と聞いてなぜそんな存在がいるのかと思ったが、なるほど、国王には衆道(しゅどう)(たしな)みがあったか。」

 尊大な態度から好戦的なそれへと雰囲気を変えたトールドから(あざけ)るような笑いを向けられて、俺はカッとなった。

「だ、だれがっ! 私はっ…… 」

 女だ、と言いかけて、あれ?、と俺は思い留まった。

 本当は男だ、と言いたいところなのだが、それでは相手の言うことを丸々認めることになる。


 他人に性的な嗜好(しこう)をどうこう指図されるつもりもないが、自分の心に刺さって反論しようとした論点は、自分が男か女かという問題とは何かが違っている。

 ちょっと考えてみて、問題点が分かった。

 相手が男か女かじゃない、多分、自分は常に異性に()かれているのだ。

 心が男のままならば女性に惹かれ、心が女性化しつつある今は、女性へのこだわりが消えてきて、(はなは)だ不本意だが男性に魅力を感じ始めている。

 英語で言うheterosexual、異性愛というヤツだ。だから、自分の嗜好と違うことを言われるとムキになる。

 自分のことが理解できて、場違いだがすっきりとして、枕元に置いた剣を取ってトールドに向かい合う。

 思わず笑みが(こぼ)れた。

「あなたには、きっと理解できないわ。」


 トールドは、そんな俺の様子をニヤニヤと見ながら腰の剣を手に取って戦闘態勢を取った。

「俺はダゲルアという。

 お前が男ならばトールドに気兼ねなく殺せると思ったのだが、人間というのは理解しがたいな。

 トールドはさらにお前に執着しているようだ。」

(うえっ、トールドはそっちもいけるヤツかよ。)

 俺はちょっと腰が引けた。


「知っているか。お前は寝ている間に、力と魔力は司祭の魔法で俺と分け合って同等になっている。

 そうなれば、後は純粋に筋力の差だけだ。お前のその細い腕や腰で、俺の攻撃を受けられるか…なっ! 」

 俺が素早くダゲルアの剣を(かわ)して肉薄すると、ダゲルアはぎょっとして身を投げて剣を躱し、ゴロゴロと転がって膝立ちになる。


「ちょっと待って!

 お互いに命の遣り取りをするのに、この格好は(ひど)いんじゃないかしら。

 せめて服を着る時間をくれない? 」

 俺がダメ元で聞きながらダゲルアの下半身に目を遣ると、ダゲルアも自分の体がシャツの裾で隠れてはいるものの、下半身丸出しなことに気付いたようだった。

「……いいだろう。俺もどうせならばトールドの姿ではなく自分の姿で戦いたい。お互いの準備が整うまで待とうじゃないか。」

 ダゲルアの提案に了承して準備が整って向かい合うと、ダゲルアは気絶して横たわっているトールドから分離して、身長2メートルはあろうかという引き締まった体の巨漢に変わっていた。

(うわ。やっちゃったかな。)

 ”力と魔力が同等にならば、後は純粋に筋力の差だけ。”

 さっきまで水平だった視線を上方に修正しながら、俺はダゲルアがさっき言っていた言葉を思い出して少し後悔していた。


 ダゲルアが素早い動きで突進してくる。

 長い右腕で大きく振りかぶった剣をこともなげに軽々と横薙ぎにしてきて、俺の立っている一帯を潰しに来る。

 俺はダゲルアの左前に出ると水魔法を纏わせた剣をダゲルアの腹に叩き込んだが、バシッと音がして結界魔法に弾かれた。

「それはさっき見たっ! 」

 ダゲルアは膝を曲げ腰を落とし、肘を畳んで弾かれた剣の反発力を殺して軌道を力任せに前へと変えて、素早く小刻みに向き直りながら振った剣の軌道に俺を収めようとしてくる。

 今度は俺が結界魔法を展開すると、バシンッ、とダゲルアの剣が当たると同時に地面から石の槍(ぶすま)が突き出してきて、結界魔法の展開と同時に前へと駆け抜けていた俺のスカートを切り裂いた。


(こいつ、戦い慣れてる。)

 俺の居場所を潰すように仕掛けてくるダゲルアの戦いの隙のなさに驚嘆しながら、自分が上回るとしたらその分野は何だろうと考えた。

 ひょっとして十分ではないかもしれないが、ここはミッシュに鍛えられた魔法に頼るしかない。

 風と火を混ぜ合わせた火炎放射の起動を準備しながら踵を返して、上段から剣を突き入れてくるのを左に躱して前に出てダゲルアの注意を引き、反対側から火炎放射を発動する。


 反射的にダゲルアが攻撃を避け、予想しない軌道の変化によって俺とダゲルアの腕が交差して絡まった。

「捕まえたっ。これで終わりだ。」

 ダゲルアがにやりと笑って、俺の腕を握り潰そうと力を込める。

 だが、俺の腕が痛むことはなかった。


 平然としている俺の様子に、うお?、とダゲルアが懸命に力を込めている横合いから、唐突に制止する声が響いた。

「無駄よ。幾ら力を込めても、あなたが力でセイラを圧倒することはできないわ。」

 声のした方を見ると、3メートルほど先の壁がスライドして母様がもう1人の母様を抱き抱えて現れた。


 隠し通路なのだろう、いきなり部屋に現れた母様を驚いてダゲルアが見ていたが、もう1人の母様を抱いて両手が塞がっているのを確認すると、俺から手を離して母様に斬りかかった。

 だが、ダゲルアの攻撃は母様が無造作に放った回し蹴りで粉砕されて、ダゲルアが吹き飛んだ。


「セイラ。幾ら相手が百戦錬磨の経験がある相手と言っても、レベルが数百も劣る相手に苦戦するのは(たる)みすぎです。もう一度再訓練が必要ね。」

 母様の嫌な宣言に俺が顔を(しか)めていると、抱かれていた方の母様がティルクへと姿を変えた。


 驚くダゲルアに母様が(とろ)けるような笑顔で告げる。

「セイラのレベルは1,000と少し、そしてティルクのレベルは700と少し。

 あなたはセイラとティルクに強さを分け与えて、そうね、多分今はレベル1,600くらいまで弱くなっているのよ。

 セイラとティルクのために強さを分けてくれて、感謝するわ。

 ありがとう。」



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