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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第48話 これから酷い目に遭わされることを皆で黙っている、それはイジメと言わないでしょうか

遅くなりました。

今後はもう少し投稿間隔を短くするように心がけます。

 ミッシュは出会った魔獣のみを退治しながらドルグの元へと急いでいた。

 敵は恐らく彼らの指導者と何らかの方法で精神的に繋がっていて、自分が出て行けば即座に察知されるだろうというのが、サングル子爵を襲った敵から感じたミッシュの見立てだった。

 彼らの指導者と自分とはいずれ戦わなければならないが、神力の落ちた今の自分では勝ち目はない、自分に有利な環境が整うまで敵の注意を引かないために、今日の事件ではケイアナやセイラに前面に出てもらい、自分はドルグたちを町に戻らせるために魔獣討伐に参加するなどの脇役に徹するつもりだった。


 その方法はケイアナに伝えてある。心配なのはセイラの精神が男と女の間で揺れていて不安定なことだ。

(昨夜は男の人形を使わせて自分で処理するなりティルクを抱くなりして男としての自覚を取り戻してくれると思ったんだが、セイラは生真面目すぎるな。

ティルクに手を出さずに我慢したまま一緒に寝て、(かえ)って自分の首を絞めてしまったようなものだ。

 かと言って、今の段階ではサングルに手籠めにでもされれば精神崩壊でも起こしそうな危うさがある。

 ケイアナ、サングルへの対応は予定どおりに頼んだぞ。)


 ドルグが魔獣たちと戦っている付近まで行くと、ミッシュはミシュルを取り出してミシュルとして戦い、自身は黒猫へと変化してミシュルに付き従った。

 ミシュルが手を翳した先で石製の矢がずらりと数百本が並び、魔獣へ向けて一斉掃射するとミシュルはドルグの駐留地へと走る。

 駐留地の兵士の数は40人ほどに過ぎず、攻めている魔獣のレベルが800ほどなのに対して、兵士はレベル3,000台が3人のほかにレベル1,000台が8人いるが、後はレベル500以上が20人とそれ以下が10人ほどと単独では魔獣に太刀打ちができない。

 レベルの低い者をレベル1,000台がサポートして戦線を持ちこたえている間にレベル3,000台の者が魔獣を撃破する体勢を取っているだろうが、戦況が改善するかは持ちこたえる者たちの体力勝負になる。

 ミシュルとしては自分が参加することで魔獣を早期に討伐し、町の治安維持に兵士たちを送り込みたかった。


 駐留地に到着してみると、居留地を取り囲んでいる魔獣は100匹ほどもいた。

 まだ死者はいないようだが、奥に横たわっている者が何人か見えるところから、戦線はすでに押されている。

 ミシュルは兵士たちに当たらないよう石矢の数を減らして数頭の魔獣を倒して進入路を確保しながら兵士たちのところへと辿り着いた。

「被害の状況はどれくらいですかっ。」

 ミシュルの言葉に、加勢と見た近く兵士が、新人が数人手傷を負った程度です、と答えながら魔獣の攻撃を防ぐ。

 ミシュルは振り返りざまに矢の斉射を行って魔獣を仕留めながら報告をする。

「この後ろにまだ集まってきているわ。恐らく今の倍ほどを相手にする必要がある。私も手伝うから、頑張って! 」

 兵士たちは目を()き歯を噛み締めて顎に皺を寄せて棒を飲んだような表情をした後で、分かりました!、と答えて戦いを継続した。


◇◆◇◆


 魔法の訓練を終えて、俺はティータイムを取って服を着替えると、収納空間から剣を取り出して剣の練習に移行していた。

 この頃になるとティルクも礼儀作法の特訓を終えて合流してくる。

 部屋の中は剣を振り回すのにはいささか狭いのだが、トールド子爵の監視がある中で練習場などを借りて手の内を(さら)す訳にもいかない。


「ねえ、今日にも敵が攻めてくるはずなんですよね。こんないつもどおりにまったりしてて良いんでしょうか。」

 一汗掻いて、水分補給を兼ねてお茶にしていると、ティルクが首を(かし)げながらそう聞いてきたが、俺もそう思う。

 今日、変わったことといえばゲイズが食事に参加してこないこととミシュルがいないことだけ。後はいつもどおりの日常だった。

 この後は夕食を摂ってお風呂に入ると、就寝する流れになる。

(何かが動いている気配はあるんだけれど、タイミング待ちってことなのかな。)

「ティルク、夜中に何かあるのかもしれないわ。念のためにすぐに着替えられる用意をしておいてね。」

 ティルクは頷いた後で、おずおずと話を切り出してきた。


「あの、それで姉様。今日も、一緒に寝ても良いですか。」

 うん、すごく良い提案だけれど、何かあった場合に、人目に(さら)される可能性もある訳だし、さすがに2人でベッドから出てきましたは(まず)いんじゃないかな。

「ティルク、何かあってメイドさんたちに呼ばれたときに、2人でベッドで寝ていたら、変な噂が立つかもしれないわよ。何かあるかもしれないし、今日は止めておきましょう。」

 ティルクは一瞬きょとんとしたが、すぐに俺が何を言ってるかを理解して顔が真っ赤になった。

「ね、姉様! わわ私、そんなつもりは全然なくてですね、ただ好きな人と一緒に、ってそれはラブじゃなくて愛情、は違くて、えっとえっと……」

 早口で反論しようとして思考が追いつかなくて説明が迷路に入って、手をバタバタしながら左右に体を揺すってあわあわしているティルクに、分かってるわよ、と微笑むと、ティルクがほっと息を吐いたのだが……。

「姉様。もし変な噂が立って嫁の貰い手がなくなっちゃったら、王宮で側仕えのメイドとしてでも、置いて貰えます? 」

「ティールーク? 馬鹿なことを言ってないの。娘の花嫁姿が見られなくなったら、ご両親が悲しむわよ。」

 一連の事件が終わったら、俺は王宮にいるかも分からないのだ。ティルクを(たしな)めると、ティルクはペロリと舌を出して笑った。


 お茶の後にまたティルクと訓練をして、夕食を終えてティルクとお休みの挨拶をしてお風呂に入って湯上がりのお茶を頂いて……その後、俺は(あらが)いがたい急な眠気に襲われて、ふらふらとベッドまで辿り着くと(くずお)れるように眠った。



◇◆◇◆◇◆◇◆


「司祭様。どうぞ、こちらです。」

 トールドは司祭を案内してセイラの部屋までやって来ていた。

 腹心のメイド頭から、ケイアナとセイラとティルクの3人は睡眠導入剤入りのお茶を飲んで眠り、次女のミシュルはゲイズが昼頃に伴って出掛けたまままだ帰ってきていないと連絡を受けている。

 ゲイズはこれまで町で適当に女と遊んでいるようには見えても、決して一線を越えようとはしなかったのだが、夜になってもミシュルを連れ出したまま帰らないというのはトールドにとって意外だった。

 だが、ミシュルは所詮はケイアナの取り巻きの1人、城にいなければ今夜の対策の手間も省けるし、息子が本気ならばケイアナを取り込んだ後ならばどうにでもなる問題だと放っておくことにした。


 トールドは司祭を伴ってセイラの部屋に入ると、ベッドで寝ているセイラを見下ろす。

 薬の影響で強制的に眠らされているセイラの姿は美しく、儀式の後で行うことを考えるとトールドの嗜虐(しぎゃく)心を刺激したが、まずはそのためにもセイラの力を奪わなくてはならない。

(トールド、司祭にはセイラは美しいが痩せこけた病人に見えている。話の辻褄を上手く合わせろよ。)

 ダゲルアの指示を提案と受け止めながら、トールドは司祭に男女レベル平均化の法を受けるためにどうすれば良いかを尋ねる。


「それでは、サングル子爵様は奥方になられる方の枕元に座って戴けますでしょうか。はい、それで結構です。

”天にあり全能である我らが神リーアに謹んで願い奉る。これなる男女に祝福を与えともに歩かんがため、神の大いなる力によりて……” 」

 司祭は身の丈ほどの儀仗を左手に持つと2人の位置を指示して2人の間に立ち、祝詞(のりと)のような詠唱を始めた。

 詠唱が進むにつれてトールドとセイラの周りに魔方陣が(あらわ)れて2人の体の周囲に薄く輝く光が広がると、司祭が儀仗を2人の間に差し出し、儀仗の先端に付いた透明な石に新たな魔方陣が顕れると石へと2人の周りの光が吸い寄せられ石を通過して相手へと流れていった。

 流れが止まるまで司祭の詠唱は続き、流れが止まったところで司祭は、”2人のこれからの人生の(すこ)やかならんことを願う”、と結句して儀仗を下ろした。


「サングル子爵様、終わりましてございます。」

 司祭の詠唱が始まる前にトールドの意識を自分の体へと送って眠らせていたダゲルアは夢心地でトールドに先ほどの自分の体験をトールドに幻覚で見せてから体を入れ替えた。

「……うむ、うむ。これで彼女の容態も改善するだろう。それでは次に母親の方を頼む。」


 満足そうな表情のトールドを余所に、ダゲルアは流れ込んできた魔力の質の高さと己のMPが向上したことを実感して驚嘆していた。

(これまで感じたことのない良質の魔力が体に溢れている。わかるぞ、俺の魔力はこれまでとは一線を画したものになった。

 力と魔力、この2つが揃い、俺は仲間内でも上位の力を得た。

 これで俺は間違いなく幹部となることができる。)

 ダゲルアは自分がセイラ由来の良質の魔力に包まれていることに陶然として、自分のステータスが向上したと信じたまま、確認することを怠った。

 彼は自分がセイラの魔法属性を得て多岐に亘る魔法を使えるようになったことを漠然と感じていたが、そのことに有頂天になって、引き換えに彼の魔法属性もセイラに分割されたことに気づきもしなかった。

 そして、魔法を使う能力が劇的に向上した高揚感に囚われずに冷静であろうと意識していることを以て自分が冷静だと信じて、さあ、もう1人の力も、と考えながら、トールドがケイアナの寝室へと移動するのを見守った。

 この儀式が終わればトールドは司祭を見送った後にセイラとケイアナを手籠めにしようとするだろう。

 自分はトールドの行いとセイラという女の挙動を監視して、できればトールドが納得する程度まで思いを遂げさせた後にセイラを殺し、その力を我がものとするのだ。

 そうすれば手強そうな伝説の多いケイアナも力の差で圧倒して殺して2人の力を我がものととすることができる。

 ダゲルアは、もう2人の力の全ては自分のものだ、己の栄光の日々は今始まるのだと信じていた。


 司祭による男女レベル平均化の法はケイアナの寝室でも同様に執り行われ、トールドは約束していた教会への多額の寄進を持たせて司祭を丁重に送り出すと、欲望の赴くままに過ごす楽しい夜の期待に満ちて、意気揚々とセイラの寝室へと戻って行き、ダゲルアはどの時点で自分が介入しようかと見守っていた。



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