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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第5話 フルボッコされました

 魔王妃の議のために俺は会場の真ん中に1人進み出る。

 少し安心なのは、俺のレベルが1なので、誰かが俺に攻撃をすれば、俺は魔王の加護でしか立ち向かえない。

 だから最初の1人で魔王の加護が与えられていることが確認できるし、そうしたらめでたしめでたしですぐに儀式は終わるんだろう。

 もし魔王の加護が発動しなかったら、強さ1、HP4の俺にはどうしようもない。内心は真っ青でガタガタと震えそうなのだが、オートモードが作動している俺は表面上は平然としている。

「さあ、どなたからですか。」

 俺が静かに司会をしていた男を見詰めると、用意、と声が掛かり、10人の男達が俺を中心に円形に広がった。


「では、一番目、民間代表の冒険者シュミルから、始め! 」

 掛け声とともに俺の正面にいた男が大剣を左下に構え、右上に薙ぎ払い、白い光が俺の周りに広がった。

 白い光は地面に近づくにつれ黒へとグラデーションで変化し、そこへスカートと同じ黒い花模様が浮かび上がって、真上から袈裟懸けにしようとしたシュミルさんの大剣は跳ね返されてシュミルさんが吹っ飛ぶ。


「次、二番目、冒険者デューダ! 」

 え? もう魔王の加護は発動したのに?、と思ったが、斜め後ろにいた人から声が掛かり、いきます、と構えられた。

 大きな火球が放たれ俺に飛んでくるが、今度は白から薄桃色にグラデーションする光と黒い花模様によって火球が遮られる。

 あ、物理と魔法で反応が違うんだと気が付いて、両方の披露が終わったので、今度こそお仕舞いかな、と期待したが、そうではなかった。


「次、三番目、冒険者トーグ!」

「次、四番目、……」

 ……

 次々と攻撃が魔王の加護によって遮られ、そうか、一応全員がやるのか、と考えながら、俺は少し落ち着いてきていた。


「次、六番目、王城代表の騎士シュザルグ! 」

 鎧兜を纏った大男が進み出てくると、頬当てを上げてこちらへ一礼した。

「アスリー様、ご自分の力だけで防ぐことがおできになるのに、ご自分の力を一切使わずに全てを王のお力に委ねておられる絶対の信頼と勇気あるお姿には感服しました。」

(好きで使わない訳じゃないやいっ、自分の力がないだけだっ。)

 口にできない抗議を心の中で叫びながら、顔はにっこりと微笑む。  

「ですが、我々とてガルテム王国を代表して本日の儀に臨んでおります。幾分かでもアスリー様のお力も見せて頂かねば分が立ちません。

 私1人の力では無理でも、全員で掛かれば、魔王様の加護を超えることはなんとか可能と思っております。

 では、行きますぞっ!! 」

 シュザルグさんは周囲の男達へと目配せをすると、周りの9人が一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 魔法では火球、氷柱、先端が(とが)(きら)めく石つぶて、竜巻、高熱の白光が同時に襲いかかり、剣技では大剣、片手剣、槍などが縦横無尽に切りつけ、突きを放ってくる。

 俺の周りに白と黒味がかった薄桃色のグラデーションが立ち上がり、全員からの攻撃を魔王の加護が防いで、白い光がだんだんと輝度を上げていくが、加護の結界は9人の攻撃を跳ね返すことができずに押し合って、ビリビリと震える激しさが増していく。

 そこへシュザルグさんが裂帛(れっぱく)の気合いと共に片手剣で突いてきた。


 魔王が慌てて会場脇の席を立って駆け付けようとしたその側を黒い影が駆け抜け、魔王の加護をすり抜けて俺の腕の中へ飛び込んでくる。

 反射的に抱え込んだものが何かを確認する前に、腕の中のものを中心にぶわりと風が吹き、シュザルグさんの攻撃を始めとする一切を一気に押し返した。

 転がったシュザルグさんは、素早く片膝を付いて剣を地面に置き、再び頬当てを上げてにやりと笑う。周りの9人も同じ姿勢を取っている。

「アスリー様、さすがでございます。」

(死んでた! これ、絶対に死んでた!! )

 俺は腕の中の黒猫を抱きしめながら、心底怯えていた。何故かは知らないが、俺を助けてくれたのはこの黒猫に間違いない。

 取りあえずこの場を切り抜けないと座り込むこともできないので、俺、どうすれば良いの、と魔王の方を見ると、魔王は突然の全員攻撃と俺がそれを弾いたことに呆然としており、オートモードからの反応がない。

 困った俺が目の前のシュザルグさんへと焦点を移すと、俺の体が少し顎を引いてシュザルグさんへにこりと笑い返して褒め称える。

「さすがはガルテムの精鋭達です。我が君のレベルは歴代魔王の中でも最強と聞いておりますが、魔王妃の儀で魔王の加護を検証役が上回ったのはこれが初めてと聞き及びます。

 今後とも、我が君ダイカルのために、その精強を捧げてくださいますね。」

 どうやら検証役達の望む切り返しができたようで、検証役の10人が、はっ、と声を揃えて頭を下げる。

 魔王へと視線を向けると、魔王が進み出たので後は任せることにした。

 魔王は俺の側へ来ると、威風を正して検証役へを労う。

「誠に見事な技を見せてもらった。検証役の者達だけでなく、国民皆が我が国を盛り上げてくれることを願う。大儀であった! 」

 ああ、なんとかなった、と俺が気を抜いた瞬間、黒猫は滑り落ちるように俺の腕の中から出ていくと、フシャ!、と一声威嚇するように鳴いて去って行き、座り込みそうになっていた俺は慌てて姿勢を正した。



◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふあーっ! 」

 俺は式典から戻ると魔王の居室のソファに両足を投げ出してどっかりと座り込み、ティムニアさんが入れてくれた冷えたお茶を一口飲んで盛大な溜め息を吐いた。

 儀式が終わり、オートモードをセーブに切り替えているので、俺も大分自由な行動や発言ができる。

 両手で長いグラスを持って冷えたお茶を口に運ぶ俺を見ながら、魔王が詫びてきた。

「セイラさん、すみませんでした。最初から魔王の加護が発動して魔王妃の称号を得たことが明らかになっていましたから、まさか検証役の彼らがあんなことをしてくるとは思わず、油断していました。」

「本当、絶対死ぬと思いました。私、この体に転移してから、ずっと死にそうな目に遭っている気がするのですが、私が死んだらアスリーさんが戻るべき体がなくなるんだって、分かってますよね。」

 ちくりと嫌味を言う。

 自分が女になったことやどんな能力があるのかの確認もできないうちから、酷い目に遭いすぎる。

 こんな調子だと、俺、何日も生き残れないような気がする。


 何ごとか言い訳を始めた魔王を無視して、俺は思い出したことを魔王に尋ねる。

「そういえば、さっき私を助けてくれた黒猫はどこへ行ったんでしょうか。」

「ああ、あれは確かミッシュというアスリーの使い魔で……」

 魔王が視線をティムニアさんに向けるのでそちらを見ると、後をティムニアさんが引き継いで話し出した。

「ミッシュはアスリー様の使い魔で、ガルテム城内では黒猫の姿でいますが、本来はもっと大きくて恐ろしい姿らしいです。

 アスリー様がダイカル様と仲睦まじくしているのが気に入らないのか、ダイカル様には敵意を剥き出しなので、ダイカル様もミッシュのことはあまりよく分かっておられないようですわ。」

 そう言ってティムニアさんがくすりと笑う。

(さっきの態度からすると、俺もきっと嫌われてるよな。)

 俺もミッシュとやらに邪険にされそうな気がするが、それでも今日は助かった。命の恩人なのだから、今度見かけたらしっかりお礼を言おう。


◇◆◇◆


「それで、えーっと、ダイカルさん。私は次はいつ何をすればいいのですか。」

 魔王は俺の呼びかけに考え込むと首を振る。

「昨日、結婚式の時にお披露目と挨拶は済みました。公的な行事はもうないですし、しばらくは何かと理由を付けて面会も休めると思うので、セイラさんのお望みのように過ごして頂いて結構ですよ。」

 嬉しい言葉に俺が喜びの声を上げる間もなく、ああ、ただ、と魔王の言葉が続く。

「母上がお話ししたいという件がありましたよね。母上が初対面の人をあんなに気に入るなんて珍しいんですよ。」

 ああ、朝食の時に”女同士でつぶさに魔王妃の称号を得た話をしたい”って、怖いことを言われたんだったな。

 何だか回復してきたと思った元気がまたなくなっていくような気がする。


 お茶を飲んで一息吐いたらティムニアさんに先導されて、また着替えだ。

 あの、ティムニアさん、と話し掛けたら、私は使用人ですからティムニアと呼び捨てにしてください、と強く言われ、引いてくれないので、仕方なく従うことにした。

「ティムニア、何か動きやすい服ってないかな。ほら、レベルを上げて体力を付けないといけないので。」

 この間までズボンしかはいてなかったのに、いきなりドレスやスカートばかりでは動きづらいための言い訳だったのだが、ティムニアは納得したようで、アスリーさんが着ていた運動用の衣装を出してくれた。

 ベージュの少しゆったりとしたレギンスの上から同系統の濃いめのショートパンツをはき、上はぴったりめで胸のところで布が交差した臙脂(えんじ)の半袖のブラウスを着る。足には底だけ少し厚めにして皮を張った柔らかいフェルト地の室内履きを履いたので、建物内では最高に動きやすい。

 地球の町でも見かけそうな格好になって動きやすさにほっとして居室に戻ると、魔王が視線を逸らした。

 あー、俺は自分の姿を見られる訳じゃないから気にならないが、ロングドレスに慣れている男の目にはちょっと刺激が強いかもしれないな。

 ──それに。ふと気が付いたが、魔王は昨夜、新婚初夜の契りが完了しなかったって言っていた。

 それって、かなり欲求不満が(たま)っているのでは……。


「あのっ、ダイカルさん。まさか、今夜も一緒のベッドということはありませんよね。」

 俺が慌てて聞くと、魔王は当然といった顔で頷いてくれた。

「勿論です。魔王の加護は魔王とその家族には力が及びません。一緒に寝て、うっかり私の腕でも当たれば、それだけでセイラさんはHPが全損してしまいますからね。」

「え! 」

 俺、今朝、魔王の隣で目が覚めたんだが──。

 死と隣り合わせで寝ていた(?)ことに気が付いて、俺は改めて青ざめた。

 これは、レベル上げを最優先しなければ!



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