表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
49/233

第47話 ミッシュ!……って、ああ、逃げられた。腹が立つやら

 サングル子爵から森への探索と魔獣の討伐を命じられたドルグは、森の中へ入って1時間ほどのところに陣を張って部下に魔獣の移動状況の調査と討伐を命じ、昼には陣へ戻るように指示していた。

(今晩、テルガで動乱があることを早くから部下たちに伝えると同様と疑念が生まれる。密かに町へ戻って自分たちで確認しようとする者が現れれば、襲撃者たちに目撃されて襲撃に備えていることを気取られるかもしれない。

 部下たちに説明するのは午後3時頃にしよう。)

 ドルグは部下の全員を昼には戻らせて昼食後に報告を受け、整理しながら部下たちへの説明のタイミングを待つつもりでいた。


◇◆◇◆


 この朝、カウスとキューダはゲイズが用意した質の良い革鎧や剣を受け取って装備を換装し、キューダたち新人冒険者は揃って冒険者ギルドへとランク変更とパーティ登録の申請を提出していた。

 冒険者ギルド側は先日までFランクだった者たちが一気にEランクの中堅近くまでレベルを上げていることに驚き、申請のあったパーティの審査する中でそれぞれのパーティに魔法使いと思われる者がいることを訝しんだ。

 ギルドでは個々人の属性を確認・把握はしていないものの、魔法使いの存在は、その能力によってパーティの柱の1つとなりうるため噂になりやすい。

 何らかの理由があって、これまで存在を知られていなかった魔法使いが現れることはときおりあるが、2人揃って判明することは珍しい。5人もの魔法使いの存在が明らかになるのは初めてだった。

「俺たちは皆仲が良くってな、メンバーが揃って一人前になる前に他の誰かに知られると引き抜かれちまうから、皆で示し合わせて黙っていたんだよ。」

 キューダはE級の青い認識票を受け取りながら上機嫌でそう言い、ギルドとしてはそれに納得するしかなかった。


「よっし、これで俺たちは一人前の冒険者だ。

 何か理解の難しいことをやっていても、直接の被害を被らない限りは世間は理由がある行動と納得してくれる。

 皆、今日は頑張ろうぜ。」

 酒場”愚者の溜まり場”のいつもの一室で、キューダは新しい武器と装備に身を包んだ仲間たちに檄を飛ばす。


 部屋の中には、落雷の轟きの面々も揃っていて、紅一点のリーラは酒を口に含んで頬を赤く染めて、同じパーティのトーガと手を握りあったまま頷きあっている。

(へえ。ひょっとして、リーラさん、そうなのか。)

 セイラに憧れて親密な関係になれないかと期待したが、セイラが魔王妃と聞いて諦めざるを得なかったキューダが羨ましそうに2人を見詰める。

 憧れただけで終わったと分かった恋だが、傷は浅くとも、楽しそうなカップルを見て、ずきりと痛む程度には本気だった。

(ああ、早くこの気持ちは整理して、セイラさんには国民として忠誠を捧げなくちゃならん。俺は、もっともっと、強くなってやる。)

 キューダは恋心を忠誠心に代えて、セイラに向き合おうとしていた。


 カウスからは、今晩の襲撃地点に対応する班分けが提案された。

 まず第1班は冒険者ギルド。主要な戦力の半分はここに集まっている。 夜には人が減るが、併設している酒場は冒険者にとって情報収集や人材開発の一番の拠点だ。

 ここに冒険者ギルドに受けが良かった落雷の轟きと冒険者の間で受けが良いマイスが率いるパーティが対応する。

 次に第2班は商店対応だ。大店には冒険者の不安定な生活を止めて落ち着いた警護の者が何人かいるが、なかなかに手練れが揃っていて、夜間もけっこうな人数が夜番についている。

 ここには商家出身で顔の広いヴァルスが率いるパーティと同じく商家出身のソルグという男が率いるパーティが対応に当たることになっている。

 第3班は兵舎だ。キューダのパーティがゲイズと連携して兵士たちと協力して襲ってくる者たちと戦うことにしていた。

 敵がサングル子爵と関係があると分かっているために事前には動きづらい。キューダたちとしては、敵が襲ってくるまで近くで待機して、事件が起こったらすぐに対処するスタンスだった。


◇◆◇◆


「母様、ミッシュが何をやっているか、知っているんでしょう? 」

 俺は母様に問いただしたのだが、母様は微笑むだけで何も言わない。

(あ、これは知ってるな。私には知らせたくないことを考えている顔だもの。)

 そう考えてから、いや、私でなくて”俺”、と心の中で言い直す。

 今朝、自分の体に戻ってから、どうも調子がおかしい。

 せっかく男の体でティルクに女の子を感じて、自分は男だと実感しかけたのに、ギリギリのところで我慢したその影響が女に戻っても残って、体が重く感じられるうえに敏感になって、考えが纏まりにくい。

 どうも解消されないままに終わった性の興奮が残ってしまっている。

 そのうちに納まるだろうが、これまで否定してきた女の体の感覚を意識させ続けられていることは、きっと俺の男への執着心に影響している。

(ミッシュ、恨むぞ。)

 テーブルの向こうで素知らぬ顔で朝食を摂っているミシュルを俺は睨み続けていた。

 後で魔法の練習の時間に、ミシュルには思い切り言いたいことを言ってやる。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 ドルグは、駐留したドルグ他のレベルが3,000を超える兵士たちは本部付き増援兵力として温存し、レベル500前後で構成された調査隊を5名ずつで分散して各方面へ向けて派遣して数時間、現実は計画どおりには進まなかった。

 敵はテルガの町での動乱に加えて守備側を攪乱する目的で、魔獣をテルガの町の近くまで多めに誘導していた。

 そのため、派遣された兵士たちは想定した以上の数の魔獣と遭遇して交戦となったのだが、魔獣のレベルが800ほどもあったため、死者こそ出さなかったものの、戦力を分散させられて魔獣の攻撃を持ちこたえられずに魔獣を引き連れたまま本部へと撤退した。

 そのため、本部は各部隊が引き連れてきた魔獣に取り囲まれ、地の利のさしてない場所を拠点として迎撃することとなって戦況が膠着し、午後になって多少改善したものの、戦いの終わりが見通せる状況になかった。


◇◆◇◆


 魔法の練習の時間になって、ミシュルは自習と言い残すと去って行った。

 体が落ち着くまで苦労したのに、それはないだろう、と憤懣やるかたなく母様のところへ行ったら、やはり母様はミシュルが何をやっているか知っていた。

「トールド子爵から命じられてドルグたちが森に追い払われているのだけれど、敵は森に魔獣を集めていたようで苦戦させられているらしいの。

 ミッシュはトールド子爵に取り憑いた敵と顔を合わすと正体がバレる危険があるから、今日はミシュルでの活動は最低限に止めると言って、ドルグたちの加勢に行ったわ。」


(うーん。そういうことなら仕方がないのかな。)

 なんとか納得して魔法の練習に戻ろうとしたら、母様からミシュルの伝言を伝えられた。

「そうそう。ミシュルがね、昨夜は悪かったって謝っていたわ。

 その様子だと、そのことで来たのよね。そんなに怒るなんて、ミシュルにどんな迷惑を掛けられたの? 」

「あ、いや……。もういいですっ。」

 まさか男の体でティルクを襲いかけて、それを抑えるのに必死でしたなんて言える訳がない。


(それより、昨日、ティルクを誤魔化すためにぬるま湯を作って胸に貼り付けて乳房を作った魔法、練習の成果だよね。

 うん、今日は実用になりそうな複合魔法を考えて色々と試してみよう。)

 面白そうなテーマが見つかり、部屋に戻って魔法の練習をすることにした。


 今日の戦いに備えて、というのも泥縄過ぎる気がするが、執れる手段は多い方が良い。

 まず、火魔法と風魔法を合わせて、火炎放射器のようなものができないかを考えてみる。

 室内なので、当然に掌ほどのサイズで魔法を展開し、単純に火魔法と風魔法を合わせてみるが、炎が揺れて火力も上がっているのだろうが、方向性がなく、武器として使用できるものではない。

 なので、風を渦巻き状に回転させてみたのだが、途中で炎が風に負けて火が消えてしまった。パイプ状に真っ直ぐに送った風に炎を乗せて送ってみても、多少良くなったが結果は同じ。

 考えて、炎の方を回してみた。風のパイプの中を炎が渦巻きながら勢いよく伸びてパイプの先まで届く。

 結界をすり鉢状に縦に作り、そのくぼみに目掛けて発射してみると、結界の中で炎が渦巻いて炎の色がだんだんと白から青みがかっていく。

(これ、きっと温度が上がっていってるよね。)

 結界のくぼみに端切れをフォークに引っかけて差し込んだら、一瞬で燃え尽き他だけでなくて、フォークが赤くなっていくのを見詰めていたら、フォークの柄を熱が伝ってきて指をやけどした。

(熱っ。)

 指を咥えながらにんまりと笑顔が溢れる。

(うん、これは使える。)


 土魔法では、鉄砲の弾をイメージしてパイプを風を渦巻かせてみたが、土自体も回転させた方が勢いが良かった。

 窓から木を狙って撃ったところ、照準には訓練が必要そうだったが、威力は申し分がなかった。

(うん、これも使える。)


 ただ、ゲイズさんからは、できればサングル子爵には生きていて欲しいと言われている。

 何者か分からないけれど、人に取り憑くような相手がそれを解除したいと思うような手段はないか。

 その手段を考えているうちに、俺はミシュルに対する恨みはほぼ忘れていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ