表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
44/233

第42話 生活が落ち着いたら勉強。うく、これが文武両道

遅くなりました。

「母様。お城で生活って、私どうしよう。」

 トールド子爵との挨拶も終わって部屋へと通され、メイドが下がるとティルクが不安を口にした。

 トールド子爵にもティルクが鬼人族の出であることは知らせているので、そんなに気にすることはないと思うのだが、やはり母様に恥を掻かせたくない、自分が恥ずかしい行動をしたくないとは思うよね。

「ティルク。私も最初この世界に来たときには何も知らなかったけれど何とかなったわ。それに母様が指導してくれるから大丈夫よ。」

 俺の言葉を聞いてティルクが幾分安心したところへ、つい言ってしまった。

「ああ、でも、最初にメイドさんが付いて体を洗ってくれたのはすごく緊張して、何が何だか分からなかったのよね。」

 か、身体を人に洗われるっ、ティルクが途端に顔を赤くしてあわあわと視線を彷徨(さまよ)わせ始めたので、大丈夫、何とかなるから、と言って笑ってみせて、ティルクを宥める。


 何しろ、俺のときには女の身体になってすぐに、初めて見た女の裸体が自分の身体で、それを裸に近い状態の若い女性2人に洗われて大混乱だったが、それでも何とかなったのだ。

 実情はショックと刺激が強すぎて、それに反応すべき部分もなくてどうして良いのか分からずにひたすらに現実から目を背けていただけだが、それでも一生懸命に周りを意識しないように気を散らし続けた根性たるや、今思っても我ながら感心するほどのものだったと思う。

 ……それが、メイド暮らしで大浴場に入る間に女性の身体にだんだんと慣れ、やがて胸の谷間が見えたりスカートが捲れたり、男なら本能的に視線を走らせる場面に反応しなくなって、最近はティルクに抱き付かれて寝ても何も意識することがないのが密かな悩みとなっている。


 俺がそんなことを考えている間に、母様はカウスさんを呼び寄せて打ち合わせをしていた。

「カウスさん、今回のセイラたちへの協力を評価して、あなたたちに合流の意思があるならば以前のことは水に流す用意があるわ。

 それで、新人冒険者達なんだけれど、今、どういう状況かしら。」

 カウスさんは頭を下げて感謝の意を示すと新人冒険者たちについて説明した。

「彼らのレベルは3分の2はレベル150を超えていて、残りも140台になってまして、王太后様たちの目的は知らないままでしたが、全員が王太后様たちに同行することを希望していました。その目的も今日知った訳で、今さら希望を変える者などいないでしょう。

 彼らには私たちが目的を間違えて王太后様の勘気(かんき)を買った話はしてありまして、私たちと同じ間違いを繰り返すことはないと信じています。」

 母様は満足げに頷いた。

「良い仕事をしてくれているわね。彼らにはキューダさんが話をしてくれているでしょうが、カウスさんからも私が新人冒険者たちの同行を許す前提で考えていることを話してくれて良いわ。

 ただし、私の訓練は厳しいわよ、と必ず伝えてね。」

 母様の良い笑顔にカウスさんが硬い顔のまま(いとま)を告げて帰って行くのを俺たちは見送った。


◇◆◇◆


 身内だけが残り、俺は母様にトールド子爵との会談で感じた疑問をぶつけてみた。

「トールド子爵は、なぜ母様に(こだわ)るんですか。自分が王になることを目指せば良いのに。」

「理由は2つあるわ。

 まずは独立しようとする意識自体が、テルガ国最後の国王だったクルダ タールモア王に対して家臣全員がタールモアを永遠に王として戴くことを誓った逸話に基づいていてね、タールモア家以外が上に立てない状況にあることが一番の要因ね。

 もう一つはレベルが上がりやすい覚醒者と呼ばれてきた者が生まれるタールモア家に対する期待よ。

 タールモア家は各世代に1人だけ、その覚醒者が生まれていてね、その体質は覚醒者の子孫だけに引き継がれるの。

 私の世代ではそれが私に(あらわ)れた。

 だから、私の他にもタールモアの血を引く者はいるけれど、私以外の者がタールモア当主を名乗ることができないの。

 私の血はダイカルに引き継がれて顕現しているから、私はもうタールモア家と王家は一体化してしまったと考えているのだけれど、私の訓練の効果が高い話も伝わっているから、ダイカルの強さを私の訓練の所為(せい)にして、私の子の世代にはまだ覚醒者が生まれていないと考えたがる人たちもいるのよ。」

「ふうん。もし、トールド子爵が王を目指したらどうなるんですか。」

「よほど上手くやらないと、テルガ内部から王を僭称(せんしょう)する謀反人(むほんにん)として総攻撃を受けるでしょうね。」

(うわあ、それは大変だな。だから、母様を説得しようとしているのか。)


「ただ、今回、セイラが魔王妃であることを公表してしまったでしょう?

 トールドなら、もしセイラがダイカルの子どもを身籠もることがあれば、その子をタールモア家の当主にしようと考えて、セイラにアプローチをかけてくるかもしれないわね。」

(え。その話、俺に飛び火してくるの? )

 トールド子爵が偏執的にしつこいという話からすれば、ありそうな話だった。

 魔王の加護が発動したのを見られている以上、本当は妻じゃない、は通らないんだろうな。


 俺がげっそりとした気持ちでいると、母様が俺とティルクに今後の指示をしてきた。

「しばらくはここに落ち着くことになるし、良い機会だから、2人には勉強をしてもらうわ。

 ティルクにはお待ちかねの礼儀作法を本格的に、セイラにはミシュルから魔法の体系と使い方の習熟に関して勉強をしてもらいます。ミシュル、良いわよね。」

 教わる側の俺とティルクには聞いてくれないのはいつものこと。ミシュルが頷くのを見て、俺はティルクと別れてミシュルについて行った。


◇◆◇◆


「セイラ。魔法についてこれまでは実技だけだったけれど、今が落ち着く良い機会なので少し理論の勉強をしましょう。

 セイラは現在、火、風、水、木、金、土、雷、光(回復と状態異常)、闇(幻覚や呪術)、支援(攻撃と防御)、変化(大、小)、結界、空間、隠蔽と多岐にわたる魔法の基礎を習得していて、これらの魔法は使いこなすにつれて威力も強くなるし、質も向上するでしょう。

 それがある程度自由に調節できるようになるまでが第一段階です。

 セイラは今のところはまだそのレベルまで達していないし、普通はここで満足してしまうことが多いのが現実です。

 ですが、魔法にはその性質を理解して拡張して、他の魔法と重ねて使うことで、いろいろな用途に使うことができるようになります。

 例えば、前にセイラが習いたいと言った防音の魔法は、結界と風に闇魔法を加味したものです。

 まだセイラが使いこなすことはできないでしょうが、そう言われて考えれば、空間魔法で結界を張って空間を遮断し、そのすぐ内側に風魔法で震動を相殺し、もし外側から見たときに闇魔法で幻覚により内部の様子を曲げて伝えるように操作していることは何となく分かるでしょう? 」

 ふむ。どうでも良いけれど、ミシュルの口調が学校の女の先生にみたいになってるな。

「ほら、気を散らさない。学校の先生って、なんです? 」

 考えていることが筒抜けになってるし。


「まあ、今、防音の魔法を使うことは無理ですが、各魔法の特性を考えながら習得して複数の魔法を同時に使うまでに習熟していけば、いずれ必要な魔法の組み合わせが分かるようになったときに組み合わせて使えるようになります。

 小規模な魔法で良いので、今は魔法を使う度に特性をよく観察しながら数多く使うこと。その繰り返しです、良いですね。」

 俺は、はい、と答えると、ミシュルが、まずは火魔法から、と言いながら手の上で管理できる小さな火魔法を立ち上げてこちらを見た。

 俺はオートモードを立ち上げてミシュルと同じ仕草でその魔法がどの様に起動してどれくらいの熱や勢いで発動したかを調節しながら、魔力が循環する様子を観察し始めた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 トールド子爵は悩んでいた。

 ケイアナの娘と称する女たちはたかがしれているだろう、ケイアナを説得するのは難しくとも、武力によって数で力押ししていけば、ケイアナは同じ国の兵士である自分の私兵を殺すことには躊躇して、そのうちにケイアナを制圧できると考えていた。

 しかし、森でセイラたちを襲った兵士によって魔王妃と確認されたセイラの存在が計算を狂わせた。

 ダイカル王の魔王妃となったということは、セイラという女がレベル8,000を超えるダイカル国王の7割以上のレベル、つまりケイアナに相当する力を持っていることになる。

 こちらにはレベル3,000台の兵士がドルグを含めて3人いるだけで、他はそれ以下の戦力だ。ケイアナと同等の戦力が2人いては、トールドが持つ戦力では太刀打ちができない。

 説得に失敗した場合の(から)め手が何か必要だった。


「……女たちを眠らせて、教会に男女レベル平均化の法を使わせられないか。

 そして、力が同等になったなら、いっそそのまま手籠めにしてしまえば……。」

 貴族では政略結婚のまかり通る世の中だが、教会は戒律を重んじる。

 少なくとも男女のどちらか一方が一定以上の思いを寄せていることが男女レベル平均化の法を使う前提として求められた。

 ケイアナはかつてこの地方の顔であり、レベル3,000を超える兵士はケイアナに憧れて強さを求めたものばかりだった。

(ドルグは堅物で無理だろうが、後の2人のどちらかはケイアナの婿にすると言えば、ケイアナを抱くだろう。

 女たちを確実に眠らせることができて、教会を上手く丸め込んで、自分の抱える最強の兵士とケイアナのレベルを均すことができれば力の優位はなくなる。

 そこに複数の兵士でケイアナを取り押さえて、男女レベル平均化の法を使った兵士との既成事実さえ作ってしまえば、ケイアナに関してはどうにでもなる── )

 ここまで考えて、トールドはセイラに思いを()せる。

(後はセイラだが……。

 男女レベル平均化の法は大丈夫だろう、セイラに一定以上の思いを寄せる男の条件は俺がクリアできる。)

 謁見の間でケイアナたち一行と挨拶したとき、セイラの切れ長の目と視線が合って、トールドは魂が溶けるかと思った。

 そして、ケイアナとの会話を早々に切り上げて、セイラをじっくりと鑑賞してみれば、その豊かな胸や腰回りと折れそうな背中は奇跡のようで、トールドはセイラに手を伸ばすのを我慢するのに精一杯で、ついケイアナとの議論も始めることなく城の中に迎え入れてしまっていた。


(セイラの力を奪って、それからセイラをどうする? )

 セイラの力を奪えば、ダイカル王との夫婦生活の継続は困難になり、トールドのしたことは必ず露見(ろけん)する。だが、ダイカル王はそのことを気にするのか──

(そうだ、ダイカルは母親や妻が王都から逃げても眼中にないほどに正気が危うい。母親を襲うのも妻を襲うのも危険はなかろう。

 セイラは王の寵愛(ちょうあい)を受けるだけあってあれだけの美姫だ、きっと苦悶に歪む姿は極上の美しさだろう。)

 明かり取りから覗いている小さな黒い影など気付きもせずに、トールドは己が妄想に耽り、ニタニタと下卑た笑いを浮かべている。

 自分が考えている作戦が本筋から逸れて行っていることにトールドは気付きもしなかったし、議論を行う前提がなくなっていることに気付いたときには、欲望に後押しされて、もう修正の必要を感じないくらいに、これが当然の作戦と思い込んでいた。


  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ