表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
43/233

第41話 変態は血筋。ややこしいものを遺伝させるな

少し短めです。

 私とティルクが母様を心配して町へ戻ってみると、宿屋の手前にある広場で、母様は先ほど襲ってきた者達と同じ制服を着た兵士たちとともに待っていた。

「セイラ、怪我人は出なかった? 」

 俺が、はい、大丈夫でした、と答えると母様は満足そうに頷き、壮年の兵士に向かって、ほらね、と言って笑っている。

 ええっと、その様子からすると母様と壮年の兵士の人は知り合いなのかな、と思い確認すると、そのとおりだった。

「ところで、びびりバッシュ」

「あの、姫様。部下の手前もありますし、名前で呼んでいただけないでしょうか。」

「……。」

「え? まさか姫様、私の名前をお忘れですか。」

「ドルガ スターリク。」

「惜しい。ドルグ スタージクです。」

 母様がペロリと舌を出して愛想笑いをする。

「ごめんなさい。あの頃の私はじゃじゃ馬で、毎日の訓練で対戦対戦相手の様子を見て付けたあだ名がその人の本質を顕す本当の名前だと思っていたのよ。」

「今は大人しいので? 」

 ドルグさんが言いながらこちらへ視線を向けられて、返事に詰まる俺を見て、そうでしょうな、と頷いた。


 ドルグさんは、その場の兵士のうちで、兜に赤い房の付いた兵士を呼び寄せ、森で襲撃してきた兵士たちと合流して現地で待機するように命令すると、母様に向かって微笑んだ。

「さて、姫様。どこかに落ち着いてこれからのことについて相談をいたしましょう。

 姫様とそちらのセイラ様、でよかったですか、とに100人からの兵士が遭遇した以上、私の現在の主であるトールド様と会談することはもはや避けられませんからな。」

「そうねえ。あの変態剣士なら、報告を受けるなり町中を大捜索して私たちを探すでしょうね。」

 ゲイズに付けたのと同じあだ名を母様がゲイズの父親に付けていたのを聞いて、俺は驚いて固まった。

 思わず胸を両腕で覆った俺に母様が笑いかける。

「セイラ、心配しなくて良いわ。

 変態剣士っていうのは、彼の戦い方の特徴を指しているの。

 くねくねした変な構えから執拗に同じところを狙ってきて、気持ち悪いのよね。」

 ああ、偏執的にしつこいと。

「姫様、伯爵家がなくなって、トールド様は今は我が主になっておいでです。兵士の前で我が主を二つ名で呼ぶのはお止めくださいね。」

 俺が安堵の息を吐いていると、ドルグさんが釘を刺す。

「分かってるわよ。トルーロ サンダルで良いのよね。」

「トールド サングル様です。」

 ドルグさんが溜め息とともに訂正する。

 この人、昔から母様を相手に苦労してそうだな。


 そんな遣り取りを聞きながら、ドルグさんと母様と俺とティルクで落ち着く先を探していると向こうから変態剣士二代目のゲイズとカウスさん、新人冒険者のキューダの3人が駆けてくるのが見えた。

「セイラさん、襲ってきた兵士達には今回のことで咎めはないと説明してあそこで待機してもらって、新人冒険者のみんなにはケイアナさん達のことを説明してきました。

 護衛がマライ達3人しかいないので、皆、今日は多少移動範囲を狭めて採取をするそうです。」

 カウスの報告に頷きながら、母様にゲイズとキューダを紹介すると、跪くゲイズとゲイズを真似ようとしているキューダを母様が制止して、同行を促す。


 相談のために7名で座ったのは高級そうなレストランの一室で、ティルクとカウスさんとキューダの3人が不安そうにしている。

 恐らくテーブルマナーだな。そう思った俺は、3人に向かって手を広げて魔法を発動する仕草をしてオートモードセーブリバースを送ることと食べる仕草を伝えると、3人に安心した表情が広がった。


「それではことの経緯を説明するわね。」

 母様は王都を出ることになったいきさつから話し始め、”落雷の轟き”やティルクと出会い、俺が女神様の信託を受けた経過を掻い摘まんで説明した。


「うーむ、人間の存続に関わる一連の事件ですか。独立運動などに拘っている場合ではありませんな。」

「僕が心配していたのは、父が表立って独立運動をするために王太后様に何かをすることでしたが、そんな場合ではありませんね。僕からも父を説得します。」

 母様が頷きながら、ただ、彼は納得しないでしょうね、と溢した。

「トールド様の性格ですから、なかなか受け容れないでしょうね。

 姫様には無理にでもテルガの町に滞在してもらって、伯爵家を再興して再婚をするよう説得するでしょうな。」

「あ、その件は大丈夫。話にならないから。」

(ザカールが生きていたんだものな。)

 母様の言いたいことが何となく分かった。

 だが。ドルグさんが母様の発言の理由を聞いても母様は説明は行わず、逆に、最近のテルガの情勢に疎いから、とドルグさんとゲイズに対して質問と確認を続けて相談は終わった。


 次に母様はキューダに日を改めて話し合いの場を開くことを約束した。

「あなたたち新人冒険者の最近の活動状況はセイラから聞いて知っていてね、大体の望みも聞いているし、詳しい相談はまた日を改めて行いましょう。」

 それだけを言うと、今日の出来事には口止めを約束させてキューダは新人冒険者の元へ、俺たちはテルガ城へと向かうことになった。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺たち母娘とドルグさんの後に付いてテルガ城の門を潜った。

 テルガ城はこぢんまりとしているのに壁が厚い無骨な造りで、相当以前に建てられたものであるのが分かるが、少々の衝撃ではびくともしない堅牢な造りであることもよく伝わってくる。

 母様が城のあちらこちらに向ける視線には優しいものがあり、懐かしいのだろうことが察せられた。

 先触れが行っているので、俺たちが訪問することはすでに城には伝わっている。

 城の名目上のトップであるサステル伯爵は任地に赴かずに名前だけの存在になっており、実質的な城のトップは、これから面会するトールド サングル子爵なのだそうだ。


 やや狭い通路を通って広間へと歩くと、その奥に一段高く置かれた椅子にやや小太りな男性が座っており、俺たちを見て椅子から降りて出迎えに来た。

「おや、これはケイアナ様。ようこそお帰りくださいました。」

「トールド子爵、久しぶりね。でも私は帰ってきたつもりはないわよ。」

「いえいえ、テルガの城にお入りになった以上、新たな王位と婿をお連れにならずに当城をお出になることはないかと存じます。」

「へえ、そう。力尽くならば、相手になるわよ。」

 うわあ、最初っからけんか腰、どうしようもないや、そう思ったときだった。

「……と、まあ、こう申したいのが本心ではありますが、お国の大事にそうも言ってはおられますまい。まずはごゆっくりとお休みください。」

(あれ? 母様の説明だと、ここで引くような人じゃない筈なんだけど、長い間に性格が変わった? )

 そう思いながら周りを見回すと、ゲイズとドルグさんが意外そうな顔をしている。

(あ、やっぱり。きっと腹に考えている何かがあるんだな。)

「いいわよ。おそらく何か考えているんだろうけど、こちらも頼みたいことがあってね、付き合ってあげる。」

 母様がそう答えると、トールド子爵は笑みを見せた。

 うん、いかにも何か企んでますという、悪そうな笑顔だ。


「それで、こちらがアスリー様でございますか。」

 トールド子爵がこちらを見て尋ねてくる。

 どうしよう、と母様へと視線をやると、母様が代わりに答えてくれた。

「残念ながら、アスリーは死んだと公表されているわ。

 この子は知られていない魔王妃でね、セイラというの。」

 トールド子爵は驚いたようだ。

 改めてこちらをじっくりと舐るように見詰める視線が遠慮がなくて気持ちが悪い。

「ふうむ。このお体で国王様の寵愛に耐えられるだけのレベルがあるとは信じられませんな。

 国王様はあまりにお強くなられすぎて、お妃を娶られるのにご苦労されるのでないかと案じておったのですが、魔王妃様はアスリー様だけでなくセイラ様もいらっしゃったのですか。

 さぞかし経緯もあるのでしょうが、いや、それなら王国も安泰だ。」

 おい、言葉はともかく、視線がセクハラレベルを超えてるぞ。

 やっぱりこいつは変態剣士初代だ、間違いない。


「それで、あなたの性格からして、すぐにさようならとはいかないのでしょうね。」

「いや、これはご理解が早くて助かります。少しの間、当城でごゆっくりとお過ごしください。」

 溜め息交じりに問う母様に、トールド子爵が追うように頷く。

 俺が母様に視線を向けると、母様が説明してくれた。

「トールド子爵はね、納得すればすんなりと通してくれるでしょうけれど、それまでに出発しようとすればあれこれと理由を付けて止めに入って、城から出るのは大事になるわ。

 納得してくれるまで、そう長くは掛からないと思うけれど、こちらもお願いしたいことがあるし、まあ、ゆっくりしましょ。」

(ああ、そうなんだ。)

 冒頭の遣り取りでいきなり揉める展開も想定していた俺だったが、母様ののんびりとした様子に拍子抜けして視線を巡らせると、城暮らしと聞いて緊張するティルクの姿が目に入った。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ