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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第39話 キャセラズキャンプに痴漢乱入。なんで馴染んでるの

 俺たちは薬草採取から戻ってすぐに、いつもの酒場の個室に集まって相談していた。20人が入るにはすごく狭いが、逆に言うと20人もの客がふだん入るはずのないスペースを使うから、あまり使うことがない部屋の回転率が上がって、おまけに大部屋部分が有効に使えるので特別に認めてくれている。


「なあ、やっぱりあの人たちは何か特別な使命を持ってる。俺たちの目に間違いは無かった。」

 今日の訓練は衝撃だった。

 生まれついて魔法のステータスの方が数値が高いのに称号は肉体系で、でも他に仕事を探せる様な環境がなくて、自分の運のなさを呪いながら仕方なく冒険者になった奴ら。

 そいつらが今日、突然に魔法が使える様になった。まだ今は回復魔法だけだが、それでもそいつらは戦闘もできる魔法使いにクラスチェンジして、これからの人生が変わった。

 回復魔法が使えれば、冒険者を引退しても治療院を開設して食っていけるからだ。


 俺たち新人冒険者はまだ14、15歳だ。

 大人になるかならずかといったところで、夢見がちなガキ扱いされることが多い。でも、失敗を恐れずに大きな夢を見られるのは俺たちの特権だと思って、新人冒険者の仲間達で酒を飲んでは何度も語り合った。

 その俺たちが、本物の夢を見ることができるチャンスがやってきている、それが今日の俺たちの議題だ。


「姫さんたちは俺たちの憧れだけじゃなくて、人生の指標になると思うんだ。あの人たちに付いていけば、きっとでっかいことが始まる。

 俺たちは何としてもあの人たちに付いていって強くなって、そこで活躍をしたい。そうだよな。」

 そうだ、キューダの言うとおりだ、とみんなが口々に同意する。

 昨日と今日の訓練で、半数ほどの新人冒険者が実はレベル150を超えたのだが、誰もそのことをギルドに申請していない。

 レベル150を超えて青札のE級冒険者になると一人前になったと見做されて、薬草採取に参加して舞姫さんたちの訓練を受けることができなくなるからだ。

 周りから一人前と認められることよりも、舞姫さんたちの訓練を受けて早く強くなることの方が、今の俺たちにとっては大事だった。


「だが、そうするには考えておかなきゃいけないことがある。

 姫さんたちがわざわざこんな辺境に来て、舞姫さんたちが新人の護衛依頼なんかを引き受けて、戦姫さん──はいつまでも使うと拙いんだが──戦姫さんたちがいないのは、次にどこかへ行くための準備をしているからだと思う。

 姫さんたちに連れて行ってくれる様に頼むことも重要だが、その前に俺が確認しておくべきだと思うのは、落雷の轟きと最初にあったときに、カウスさんが答えてくれた言葉だ。

 ”俺たちが勝手な夢を見て、見放された。”

 カウスさんは俺たちに嘘を吐かずに、敢えてそう教えてくれた。

 俺たちが見ている夢を間違えないためには、あの言葉の意味をよく知る必要があると思うんだ。

 明日の訓練が終わったら、カウスさんに頼んで来てもらって、話せる範囲で詳しい事情を教えてもらおうと思うんだが、みんな、どうだ? 」


 みんなが、キューダ、頼む、と叫ぶのに対して、俺は、確認したら姫さんたちには手が届かない事が分かる切ない現実が待っているかもしれないぞ、と牽制する。

 本当はみんな、功成り名を上げて、姫さんたちの誰かと仲良くなる夢が見たい。

 だけど、姫さんたちの目標がでかい話になればなるほど、夢の最後の部分に手が届くのは難しくなるんじゃないか、俺はそんな気がしていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝、冒険者ギルドに行ってみると、いつもの新人冒険者たちの中に、一昨日にナンパしてきた男が木製の認識票を下げてキンキラキンの鎧を着て混じっていた。

 あっ、いたっ!、と嬉しそうな声を上げる男と、うわ、いる、と呆れた声を上げる俺とティルク。

 新人冒険者のキューダという人から、知り合いですか、と聞かれたので、ナンパされていきなり体を触られた、と答えた途端、辺りの新人冒険者たちに殺気が(みなぎ)った。

 ああ、これは後で全員にボコられるパターンだな、そう思ったが、付き纏わられても困るので、死なない限り黙認することにした。

 死にさえしなければ、後で回復しておけば良いし。


 ただ、この男が混じると魔法の訓練ができない。

 どうしようと思案していると、新人冒険者たちも同じ思いだったのだろう、1人がナンパしてきた痴漢、うん、名前は痴漢で充分だな、をそれとなく脅している。

「俺たちはキャセラさんに訓練を付けてもらっているんだ。俺たちでも立つのが辛いほど厳しいんだから止めておいたらどうだ。」

「ああ、僕、レベルは214あるんで、あなたたちより強いから、それくらい大丈夫だと思いますよ。」

 痴漢くんが新人冒険者を見下した様に言うのを、カウスさんが、ほお、と言ってにやりと笑ったと思うと、じゃあ先頭でお手本になってもらおうか、と指名してからこちらを見て頷く。

 あ、なるほど、痴漢くんには先頭でやらせて、彼に分からない様に後から行けばいいのね、と頷き返して、出発することにした。


 訓練を続けるには持久力が必要だが、痴漢くんはボンボンだけあって地道な努力が必要な持久力など持ち合わせずに、結果がすぐに見える瞬発力や筋力だけを上げていたようで、ヒイヒイと息を切らし始めたが、意外にも根性があって止めない。

 ボロボロで採取地に着いて、へたり込んでいるところを新人冒険者たち……と落雷の轟きの人たち、え、リーラさんも?、に囲まれて姿が見えなくなったので、そっと席を外して魔獣の警戒任務に就いた。

 一頻(ひとしき)り経って帰ってきたら、痴漢くんは回復魔法を掛けてもらって、いやあ、こんなに仲間がいて嬉しいなあ、とか言って笑っている。

 あれ? 新人冒険者の人たちに落雷の轟きの人たちも、もう殴ったら水に流しちゃったの?

 しばらく様子を窺っていたら、冒険者の男たちに囲まれた真ん中で、痴漢くんが何かを掴む様に広げた指を(すぼ)めながら話していて、聞き耳を立ててみたら、これくらいの大きさと形で握ったら弾力が、って、おいっ、人の胸を触った感触を広めるんじゃないっ!

 あのやろ、俺へのセクハラ体験を餌に新人冒険者に馴染みやがって、”変態剣士”に二つ名は格下げだ。

 話を聞いてた奴らの顔も覚えたからな、と気を散らせてたら、キャセラさーん、魔法が来ないー、と魔法組から苦情が入った。


 今日も食材に魔獣を狩ってきて、昼食を作って皆に振る舞っていると、痴漢くんがにこにこしながらやって来た

「やあ、一昨日はすみませんでした。

 失礼なことをしたのに、殴った後も優しく回復を掛けてくれて、なんて優しい人だって、惚れ込んじゃったんです。

 キャセラさんは冒険者だし、ギルドに行けば分かると思って冒険者登録をしてから窓口で粘って、ようやく聞き出して今日の訓練に参加できました。

 聞けば僕と同じ様な人たちがこんなにいて、僕も仲間にしてもらって良いですよね。」

(一緒じゃねーよ、女の胸を無理矢理触る様な変態はお前だけだ、出て行けっ。)


 腹が立ったので、椀の中に塩を一撮(ひとつま)み余分に放り込んでやったのだが、ああ、今日はすごく疲れたんで助かります、ありがとうございます、と(こた)える様子もなく嬉しそうに食べてて、こいつ、良い性格してるなと感心してしまった。

 ボンボンのくせに妙に人に取り入るのが上手くて、いつの間にか新人冒険者たちのパーティの中にも入れてもらっていたりして、変態剣士ゲイズは新人冒険者たちに溶け込んで、俺が魔法組の冒険者に魔法属性の取得を教えている秘密もあっさりと知ってしまい、帰路に魔法組の全員が空間魔法を覚えたところも目の前で確認してしまっていた。

 秘密を守りそうな気はするけど、変態剣士だからな、いまいち不安が残るけれど……大丈夫だよね?



◇◆◇◆◇◆◇◆


 テルガの町は獣人の国アスモダと国境を接しているために商人が多く、少し規模の大きい商店はテルガに支店を出していたりする。

 私は夫ザカールの消息とアルザの実と森の異変に関する情報を得るために、今日もミシュルと商店巡りをしていたのだが、4軒目を回っていたときのことだった。

「奥様、込み入ったお話のようですので、奥の部屋でお伺いしてもよろしいでしょうか。」

 店から責任者らしき年配の男性が出てきて別室での対応を提案してきたのだけれど、おかしいわね、ミゼル商会?、確か最近王都で伸してきた店で薄利多売、多数の客にいちいち丁寧な対応をする店というイメージはなかったのだけれど。


 首を傾げながら別室に入ったとたんに跪かれて、王太后様、よくぞおいでくださいました、私は当支店を任されているナゲルと申します、と挨拶をされてしまった。

 うわあ、よく調べて情報をこんなところまで伝えてあるわね、と感心していたら、それで、セイラ様もご一緒でしょうか、と聞かれて、また首を捻ることになった。

 なぜミゼル商会がセイラに関心を持つのかしら、と思ったら、顔に出ていたのだろう、ナゲル支店長が、ミゼル会頭がセイラを気に入って嫁候補として息子のアイザル副会頭に紹介したことから、アイザル副会頭がセイラに一目惚れをして求婚して断られたが、セイラが行方不明になった後に思い直してセイラの支援態勢を作ったことまでの経緯を掻い摘まんで説明してくれた。

 ふうん。あの娘、ミゼル商会のことは何も言ってなかったけれど、良い駒を押さえてあるじゃない。


 私はセイラの目標が自分の体を手に入れて男に戻ることだと知っているし、結婚に干渉しようとは思わないけれど、セイラへの約束手形を切らずに使える駒を利用するくらいのことは構わないと思っている。

 なので、ナゲル支店長にはセイラが一緒であること、これから獣人の国へ行くつもりであることを伝えて、その情報を妖精の国サーフディアにいるはずの息子ジャガルへ内密に伝えて欲しいと頼み、相場が分からないので金貨10枚を渡した。

 ナゲル支店長は金貨を見て、これは仕事ですね、と念を押して、金貨3枚を取って7枚を返してきた。

 それから本来の私の用事に話題は移り、目新しい情報は得られなかったが、アルザの実に関しては商会で調べて、分かったことがあればアスモダの支店へと情報を移送してくれると約束してくれて、これはセイラ様へのサポートですから、と費用に関しては断られた。


 うん。あの娘、やっぱり良い駒を押さえている。

 求婚もされたというし、もしセイラがお嫁に行くのなら、王家からしっかりと支援をしてあげるんだけどな。

 男に戻るのを止めたりしないかな。

 あ、これは私の個人的な希望。

 あの娘に私の希望を押しつける様な真似は絶対にしないんだから。



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