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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第37話 キャセラズキャンプ、開幕。鞭だけじゃなくて飴付き

前話と前々話で、ケイアナの偽名を”アリーダ”とすべきところ、”アイーダ”になっていたので修正しました。


 俺とティルクは、冒険者ギルドを出て宿へ向かっていた。

「姉様、私、上流階級の生まれなんかじゃないのに、新人冒険者の人たちに勘違いされてる。」

 ティルクがぽつりと話し掛けてきて、俺はティルクが何を言おうとしているのかな、と顔を向けた。

「私、森に住んでて、前に父さんに連れられて町に来たときに、町の人がすごく上品に見えて自分が恥ずかしかったの。

 それが、みんなに交じっていると私も上流階級の人に見えるって。

 私、礼儀作法なんか何も知らないし、今は私が母様の本当の子どもだって信じているから違和感が小さいかもしれないけれど、きっとそのうちにみんながこの子は違うって分かって、嘘がバレてしまうわ。

 どうしよう。」


 俺はきょとんとして、それから微笑む。

「今日は私とティルクの2人だけだったのに、みんな違和感なんて感じてなかったわ。まあ、私もただの人で、上流階級の人って母様だけなんだけど。」

「え? 姉様は違うの? 」

 聞き返すティルクのびっくりした様子に笑ってしまう。

「私は異世界の生まれで、向こうでは普通の人だったよ。」

 しかも男だ、と心で呟く。

「でも、姉様は作法だってきちんとしてるでしょう? 」

「一月くらいだったけれど、母様に仕込まれたから、ひととおりはね。

 でも、私もこちらで王家以外の上流階級の人と接したことはほとんどないし、いざとなったら分からないわよ。

 ティルクも母様に教えてもらったら自信が付くんじゃないかな。」


 ティルクは何ごとか考えている様で、大きな瞳がキョロキョロと動く。

「でも、私、今度の森の調査が終わったらそろそろ15歳になるし、お嫁に行くための準備をして、相手を探して結婚をして、きっと森の中で一生を過ごすの。

 礼儀作法なんて、意味があるのかな。」

 ティルクがいきなり消極的になったな。ここは少し話をしよう。

「ティルクの今のレベルは幾つ? 」

「ええっと、704になったわ。」

「ふうん。もし母様と一緒に旅を続けるならば、もっと上がるよね。

 そのレベルで、近くで相手の人は見つかる? 」

 ティルクが目を見開いて、びくんとした。

「あ! いないかもしれない! 」

 結婚相手を年の近い者に限って今までの森の環境を考えるならば、まあ、その可能性は高い。

 でも、魔獣の移動が続いている今は事情が違う。

「今は魔獣の移動が続いているから、若い人でも戦いの機会が増えているだろうから、そうとは限らないんじゃない?

 でも、この傾向が続くならば、その場所を護るためには自分が強くなるだけじゃなくて、活動範囲を広げて周囲の人たちとも連携しなくちゃならないかもしれないわね。

 そうなれば、鬼人族だけじゃなくていろんな人たちとの交流も増えて、きっと礼儀作法も知っておいた方が良い知識の一つになって、ティルクの存在が脚光を浴びる様になるわ。

 できた嫁って言われるんじゃない? 」


 俺がそう話をまとめると、ティルクは嬉しそうな顔をした後、でも、相手がいるかは問題よね、と呟いた。

 この世界では、レベル差がそのまま体力差として現れるために、結婚相手とのレベル差は3割以内くらいの間にないと夫婦生活が厳しい。

 それを解消して、結婚相手とレベルを(なら)す手段は教会にあるらしいのだが、片方のレベルが上がる代わりにもう片方のレベルが下がるので嫌がられる。

 特に妻の方がレベルが上の場合、夫は妻にレベルを(かさ)上げしてもらう形になるため、男の虚栄心からも嫌われると聞いた。


 強くて良い人がいると良いんだけどな、そんなことを考えていると、ティルクにこちらを見ながら、姉様が男の人だったら良かったのに、とぽつりと言われて、俺は咳をしながら慌てて顔を(そむ)けた。

 ティルク、俺が霊体は男だって、知らないはずだよな。


◇◆◇◆


 宿に帰って見ると、母様とミシュルは調査から帰ってきていた。

 話を聞くと、今日は商業ギルドと薬剤師ギルドへ行って聞いていたそうだ。

「それで、明日からは大きな商店を聞いて回りながら装備とかを調えたいと思うんだけど、セイラとティルクの都合はどうかしら。」

 母様に聞かれて、俺は今日ウォーガルさんと話した内容を話した。

「そう、じゃあ、2人は冒険者ギルドに行かなきゃね。2人にはお金を渡しておくから、帰りに欲しいものがあったら買ってくると良いわ。」

 母様からそう言われて金貨を10枚渡された。

 俺、この世界のお金の単位も種類も価値も知らないよ?

 母様にそう言うと、ミシュルが金貨の代わりに銀貨を5枚ほど渡してきて、この世界のお金の単位はジル、金貨、銀貨、銅貨の交換比率は1対10対1000だと教えてくれて、慣れだと思って、銀貨5枚くらいで練習してきたら良い、と言われた。

「ただね、物によるけれど、市場なんかの値段は人となりと知識を見て決まることが多いの。

 吹っかけられていると思ったらまず10分の1以下、そうでなければ相手が言った値段の半分くらいから交渉して相手の反応を見ながら値切り交渉をするのが普通よ。

 もし分からないと思ったら、前の人が買った値段で買いなさい。」

 定価で物を買うのが普通と思っていた俺にとって、この世界の常識は随分と違うみたいだ。

 ミシュル、使い魔なのにこんなことも知って理解しているなんて、すごいな。


 母様にはティルクに礼儀作法を教えて欲しいと頼んだら、今は旅の途中なので、実用的なところから始めましょう、と言われ、毎日30分ほど礼儀作法の勉強をすることになった。

 その後は食事をしてお風呂に入って寝るのだが、ティルクがベッドを移動してきて二つのベッドをくっつけて2人で寝た。

 夜中、胸に重さを感じて目が覚めると、やはりティルクが俺の胸に頭を(こす)りつけて腰に抱き付いて寝ているのに気が付く。

 やれやれ、こんなことで本当に近いうちにお嫁に……いや、これはこれで旦那さんは嬉しいかもしれないな。


◇◆◇◆


 翌朝、冒険者ギルドへ行くと、カウスさんたちが待っていて、こちらを見つけると頭を下げてきた。こちらも笑顔で頭を下げておく。

 その様子を目を皿の様にして新人冒険者たちが見ていて、なんだろうと思ったのだが、彼らを連れて町を出たところで全員に土下座をされて慌てた。

「頼みます。落雷の轟きの人たちに付けたのと同じ訓練を俺たちにも付けてくれないか。俺たちも強くなりたいんだ。」

 ティルクと顔を見合わせ、それからカウスさんたちと顔を見合わせたが、カウスさんは肩を(すく)めて両手を肘から水平に上げてみせた。処置なしといった感じかな。


 いきなりの頼み事に、俺はその可能性を考えた。断ることはできるけれど土下座までされて、いきなり断るのもアレだし。

「森までの往復の道で基本的な型の訓練を付けることはできます。

 でも、その先の魔獣を狩る実技はサポートなしでやると命に関わりますし、薬草の採取依頼の片手間という訳にはいきませんよ。

 カウスさん、実際にやってみてそうだったですよね。」

 俺がカウスさんに話を振ると、カウスさんが頷いた。

「セ……キャセルさんの言うとおりです。

 キャセルさんたちと別れてテルガの町まで俺たちだけで来ましたが、レベル600台でもここまで辿り着くのが精一杯で、キャセルさんたちのサポートをもらって、レベル130くらいの時に安心して戦っていた環境とは全然違いました。

 今のここの森に、黄札だけで入ると全滅しますよ。」


 新人冒険者たちは難しい顔をしたが、それでも頼み込んできた。

「まずは型だけでも良い、教えてくれないか。先のことはまたみんなで相談して考えたい。」

 俺は、うーん、と考えて、それならば、と引き受けた。

「取りあえず、行きと帰りだけを訓練の時間に充てます。剣を振りながらですから、進む時間が遅くなります。

 みんなの採取の時間が減る訳ですから、へばっていると置いていきますからね。」

 俺がそう言うと、後ろの方から、あの、と声が掛かった。

「教えてもらうのは、舞ひ…キャセルさんの剣技ですか。」

「いえ、母様の剣技です。

 私の剣には魔法を付加させて斬れる様にしてありますが、本来が剣には少し向かない技術ですので、普通の剣でやると折れると思います。」

 俺が答えると、質問をした男性は、そうですか、と残念そうだったが、納得はした様だ。

 俺と同じ技をティルクも使うが、母様に聞いたところ、ティルクの剣は業物(わざもの)だという。ティルクに聞いたら、旅の門出だと言って、父さんが先祖伝来の剣を貸してくれたのだそうで、母様は、ひょっとしたらご先祖の魔王本人か側近が使っていたものかもしれないと言っていた。


 話はそれで纏まり、森へ行くまでの間にやる型を披露して、ティルクや落雷の轟きの人たちにも手伝ってもらって1人1人を修正して回る。

 落雷の轟きの3人に新人冒険者たちの訓練を監督してもらいながら、俺とティルクとリーラの3人で周辺を警戒して回った。

 セイッ、セイッと気合いを入れながら2列に並んで森へ行進する新人冒険者たちの姿は、ときおりすれ違う人たちに好奇の目で見られたが何ごともなく通り過ぎ、15分置きくらい、型の精度が落ちてきた頃に落雷の轟きの3人から、

「強くなりたいか! 型の精度を上げろ!」

といった激が飛び、うおーっ!、という返事が返って実際に精度が少し戻る。

 そんなことを1時間も続けて、ようやく森に着いたときには、新人冒険者の全員が歩けるか怪しいくらいにヘロヘロになっていたのだが、俺も含めて、母様の訓練を受けた面々は素知らぬ顔で薬草採取に向けて尻を叩き、その後でティルクとリーラと俺の3人は顔を見合わせて、でもやっぱり少し可哀想だから、何かが狩れたら昼食を用意してあげようか、と相談をし合った。


 昼食の準備の時間までに結局のところ魔獣が来そうになかったので、他の護衛メンバーの了解をもらって俺が魔獣を探しに行き、懐かしのゲイルボアを見つけて仕留めてきた。

 うわっ、懐かしいね、そんな声がティルクやリーラからも漏れて、3人で料理を作る。

 主食は新人冒険者たちが何か持っているだろうから、おかずだけ、以前の時と同じように4品を作って一汁三菜にして、俺が土魔法で薄い石製の食器を作って全員で食べた。

 食事は予想外のサービスなんだから評判が良かったのは当然だが、石の食器を新人冒険者たちがみんな大事に持って帰ろうとする。

 おおーい、それ、熱は伝わりにくいけれど、少し重たくて使い難いよ?

 止めるのも聞かずに、帰りも訓練をしながら後生大事に持っていたが、3人ほどは武器を当てたり武器を振ったはずみで地面の岩に叩き付けたりして粉々に砕いて、帰ってから泣きそうな顔で頼まれて食器を作り直すハメになった。

 


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