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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第35話 冒険者ギルドのお約束(2)

少し長いです。

普段は冷蔵庫に入った缶ビール一本を飲もうと思い立つのに3年掛かるような私ですが、昨日は真っ昼間にアテ無しで日本酒を4合ほど飲まされて一日ひっくり返っていまして……

遅くなりました(||・||・||)

 新人冒険者たちの護衛任務が終わって、俺たちは冒険者ギルドのカウンターへと戻ってきていた。

 冒険者ギルドの取引カウンターで預けていた荷物を受け取って依頼の達成を報告すると、受付の女性が、しばらくお待ちください、と言って席を外し、今朝対応してくれた男性が来て、別室へと案内された。


 男性は副ギルド長のウォーガル、と名乗った後に話を切り出した。

「今日は無事に依頼を達成してくれて助かりました。

 心配していた事態もなかった様で何よりです。

 それで、約束どおりアイーダさんとキャセルさんをCランク、ミシュルさんとティルクさんをDランクへ上げたいと思いますが、姓のノルヴァはどうされますか? お家再興の望みでもお持ちで?

 それから、パーティ名はどうされますか? 」

(心配していた事態? 何だろう。)

 俺がそこに引っかかっている間に、母様は笑って名前だけの登録をお願いし、少し考えてパーティ名を”母娘の絆”とした。

 母様と俺はどうせ偽名の登録だからいつまでも冒険者の認識票を使うことはないだろうが、ティルクには変身魔法も教えるつもりだし、使うことがあるかもしれない。認識票は良い記念になるだろうし。


 ウォーガルさんは、ではしばらくお待ちを、と言うと一度下がって他の職員に指示したようで、すぐに戻ってきて冒険者の義務と権利について説明をしてくれた。

 冒険者同士の喧嘩、特に生き死にに関わるものは禁止すること、一度引き受けた依頼は達成すること、達成できないときには報告すること、報告しない場合は一定の経済的又は資格上の制裁が行われるが、ギルドの依頼内容の瑕疵が判明するか瑕疵を証明した場合はその限りでないこと、など基本的なもので、説明の間に認識票ができ上がって渡された。

 認識票は白と赤で、これを見ればC級とD級であると分かるそうだ。

 ちなみにS級が金色、A級が銀色、B級が黒、E級は青、F級は黄で、G級は木製だそうだ。


「今日の護衛任務における討伐品などがあれば後で窓口で出していただくとして、何か分からないことや聞きたいことはありますか。」

 母様を制してミシュルが対応して、ここに来るまでに倒した魔獣の毛皮などや魔石を換金できることを確認し、後で換金に行こうとしたのだが、ウォーガルさんが興味を示して今ここで見たいと頼まれた。

 俺たちはカウンターに預けていたカバンから中身を出して、魔石は机に、毛皮や牙などは机の周辺の床に並べた。


「ほう、ここまで森の中を進んでこられたのか。これはすごいですね。

 ミシュルさんは物の価値がよく分かっておいでだ、状態も良い。これらを全てギルドで買い上げると相当な金額になります。

 口座を作られますか。」

「口座はお願いします。

 ただ、このうちの半分は途中まで一緒だった別のパーティに所有権がありますの。

 彼らはもうここに来ているか、間もなく来ると思うんですが、ギルドから渡してもらうことはできませんかしら。」

 母様が横から口を挟み、”落雷の轟き”の名前を挙げると、ウォーガルさんは、まだ来ていないが渡すことは可能です、との返事であったのでメモを添えてお願いをした。

 ウォーガルさんが預かり証を発行するのを見ながら、俺はミッシュが俺たちには黙ってしてくれた助けと、落雷の轟きのメンバーに対する母様の気遣いに頭が下がる思いだった。


◇◆◇◆


 それで、と母様が口を開く。

「私たちは人捜しと幾つか調べたいことがあってきているんですが、冒険者ギルドでも調べることはできますか。」

 人捜し?、と繰り返したウォーガルさんへ母様が頷く。

「ひょっとしたら冒険者ではないのかもしれないのだけれど、ここから獣人の国アスモダの方向でS級の実力を持つ男性の噂をきいたことはないかしら。」

 ウォーガルさんが驚いた顔をする。

「S級ですか。今の状況でそんな人がいたら是非とも冒険者ギルドで協力してもらいたいものだが──いえ、聞いたことはありませんね。

 その方は間違いなくこの方面にいるんですか。お名前は? 」

 いるはずです、名前は多分偽名を使っていると思います、と母様は答えて、アスモダに居たとしたら分かりますか、と重ねて聞いた。

「故意に隠すこともあるので確実とは言えませんが、アスモダの支部から入ってきている情報で、冒険者にそのクラスの人がいると聞いたことはないですね。

 それに、犯罪対応のために原則として偽名では冒険者登録ができないので、偽名は無理だと思いますよ。」

 ウォーガルさんの回答に母様が肩を落とした。

 前国王なら原則を曲げて偽名にしている可能性があると思うが、S級の人がいないという時点で答えが出てしまっているので、母様もそれ以上を聞かなかったのだろう、気を取り直して話題を変えた。


「アルザの果実について詳しいことを調べたいのですが、冒険者ギルドで分かることはありますか。」

 ウォーガルさんは、アルザ、と呟いて記憶を探っていたが、やがて思い出した様で説明をしてくれた。

「たしかガズヴァル大陸で採れるという実のことですね。この辺ではあまり情報はありません。」

 母様は頷くと次の話題に移った。


「それで森の異常について何ですが、原因は分かっているんですか。」

「アスモダの北部に異常があるようで、そこから順次魔獣が押し出されて移動しているのが原因と言われています。

 アスモダでは町や村を護るために必死の戦いをして何とか護っているようですが、商人が襲われるもので物流対策に手を取られて原因調査まで手が回っていないのが実態のようです。」

 ウォーガルさんが、行くのですか、と重ねて聞いてきた。

「しばらくここで調査と準備をして、それから行こうと思います。

 短い間になりますが、よろしくお願いします。」

 ウォーガルさんとの面談は終わり、依頼窓口へと案内された。


 ミシュルが窓口で、バレットウルフを全部持ってきたのだけれどここで出していいかと聞くと、裏の剥ぎ取り部門へと回され、ミシュルが空間魔法で122匹のバレットウルフを取り出して驚かれた。

 空間魔法の容量は魔力の大きさに依存する。戦った後にこんなに多くを入れたままにできる魔力量にまずびっくりしたらしい。

「あの、狼って普通10匹か20匹やられたら逃げますけど、なんでこんなに一網打尽になってるんです? 」

 剥ぎ取りの担当の人に聞かれて、俺も思わずミシュルを見る。

「狼たちに勝ちそうになってる幻覚を背景に見せて、付近の狼を全部呼び寄せているから。」

 答えを聞いて俺は硬直した。

 アギラオオカミの時だけじゃなくて、祠に行ったときも100匹くらいに襲われたのは、隠れてミッシュが付いて来てたんだな。だとしたら、ゴブリンに囲まれたときも当然いたよね。

 ミシュルへ向けた目付きに非難を込めると、にいと笑顔を向けられて、俺はぷいと顔を背けた。

 ミッシュのお陰で見たくもないモノを何本も間近で見せ付けられた!

 しかもこっちを見ながら大きくしやがって、自分が女と見られてるのが身に染みて分かって、ショックが後から湧いてきて地味にダメージを受けてるのに、ミッシュ、黙って見てたんだ!

 ああ、もう、腹が立つったら!!


 帰り際、ウォーガルさんが追いかけてきた。

「依頼窓口で聞いたんですが、バレットウルフを全滅させたとか。

 魔獣が流れてきてるので、明日から代わりに何が出てくるか分からないので、明日も護衛をお願いします。」

 母様は調べ物をしたいとのことでミシュルが同行することになるので、2人だけで良いか聞いたら、他からも集めるが2人にはまず頼みたいとのことで、結局、明日も俺とティルクは護衛を引き受けることになった。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝、母様とミシュルと別れて2人で冒険者ギルドへ行くと、キラキラの防具に身を固めた男2人組が待っていて、ウォーガルさんにこの2人が護衛の追加だと紹介された。

 彼らは俺たちを見るなり、ギラン、ガリアと名乗って隣に並んで肩へ手を回そうとするので軽く手を叩く。

 何するんですか、と言うと、今日は俺たちとデートだ、とか言って鼻の下が伸びている。

 ないわ、と思ってウォーガルさんに、この人たちが来るなら止めます、と言うと、ウォーガルさんが困って宥めに来た。


 仕方がないので渋々同意して出掛けたのだが、護衛役の2人の男はこちらしか見ていないし、隙があれば触ろうとする。

 ああ、これはダメだ、と諦めてティルクと2人で周りに注意を払うのだが、さらに2人がベタベタとまとわりついてきてそれを妨害する。

 ん?、何だか新人冒険者の人たちが随分と殺気立っている様な……。

 思わず新人冒険者たちへと視線を向けると、新人冒険者たち全員がこちらを見ているその向こうから、大きな熊がのっそりと近づいてくるのが見えた。周りを見回すが他に近づくものはいない。


「ティルク、あそこに熊! 」

 そう言って走り出すのを、ギランとかいう男が腕を掴んで引き戻そうと妨害するので、どけ、この色ボケ!、と反対の手で張り倒して駆け出す。

 何とか新人冒険者たちを越えて熊の前に出たときには、50センチくらい前に熊の顔があって、ゴアッ!、と唸って右前足を振り下ろそうとしている直前だった。

 もう剣で対処する間合いなんかない。

 とっさに俺の周りに半円に風弾を30発くらい作って突き込むように一斉に発射して、ドドドドドドドドドン!、と着弾音がして爆風が来る下を、身を(かが)めて熊へと駆け込み、爆風で後ろに下がって()け反っていた熊の喉元へ飛んで剣を振り入れて首を落とした。

 だが、走り込んだ先は熊の体の下なのでどこへも逃げ道がない。

 熊の下敷きになりそうになって、慌てて結界魔法の結界で熊を支えたのだが、仰向けに倒れた俺の体の上5センチほどのところで止めるのが精一杯だった。


 周りが真っ暗な中でわあわあと言う男達の声が漏れ聞こえて、やがて、おぃっしゃー!、という声が聞こえて熊がひっくり返されて周りが明るくなった。

「舞姫さんは結界を張ってた! 無事だあーっ!! 」

 誰かの叫び声が聞こえて、うおおっ!っ、という野太い歓声が湧いて、ティルクが抱き付いてきた。

 ティルクに泣き付かれながら、ん、舞姫?、と思ったのは一瞬、20人がかりで護衛の2人を殴っているのが目について慌てて止めた。

「だけどキャセルさん、こいつら護衛もせずに邪魔しかしてないんだ! 」

 ティルクはガリアとかいう男に抱き付かれて、俺が熊を倒すまでに振りほどけなかったみたいだし、俺もこいつらは許さない。

 ボコボコにされたまま、治療もせずに縛り上げて放っておいた。


 そして、目の前の熊肉。

 誰かがワイルドベアと教えてくれたが、せっかくあるので、空間魔法で目的地まで持っていって、血抜きをしてスライスして塩とハーブを(なす)り付けて、土魔法で薄い平べったい石を作って火であぶりながら縛った2人以外の全員で焼いて食べた。

 採取が終わってギルドに事の次第を報告した際に居合わせた全員からの任務放棄と任務妨害の目撃報告もあり、ギランとガリアの2人はD級からE級に繰り下げになったのだが、ウォーガルさんの、やっぱりあいつらにしておいて良かった、という呟きが耳に残った。

 ウォーガルさん、あなたこの結果、最初から予想してたよね?



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