第34話 冒険者ギルドのお約束(1)
いつもの投稿時間とは違いますが、翌日の投稿に回した結果、少しずつ間隔が開いている気がするので、本日中に投稿してしまいます。
これで、明日は……どうなるか、筆者にも全然分かっていないのですが(笑
翌朝、宿で場所を聞いて4人で揃って冒険者ギルドを訪れた。
黒猫の方のミッシュは今日は寝て過ごすそうだ。
俺たちはミッシュ…ミシュルに言われて渡された毛皮や石などをそれぞれがカバンに詰めて肩から提げている。
依頼窓口ではなく総合窓口のようなところへ行き、まずは4人で登録したいと申し出ると、受付の男性はこちらの風体を観察して、装備は剣を一本ずつ下げただけの3人と何も持たない手ぶらの1人の様子をじっと見て難しい顔をした。
「お嬢さんたち、冒険者って何だか分かってます? ここは就職斡旋所じゃないんだ、さあ、行った行った。」
あれ、まともに取り合ってくれないのは困ったな、とみんなで顔を見合わせて、それからもう一度頼み込む。
「あの、私たち、これでも魔獣と戦って訓練をしながらここまで来たんです。登録させてもらえませんか。」
「いや、魔獣と戦うって、無理でしょうよ。商業ギルドヘ行って給仕の仕事でも探すんですな。」
この人、話を聞いてくれないよ。どうしよう、と他の窓口を探していると、カウンターの奥にいる人と目が合った。
「あのー。冒険者登録をしたいんですが、この人、話を聞いてくれないんです。」
俺が声を掛けると、カウンター奥から年配の男性が出てきて、どうしたんだ、と窓口の男性に聞いて、男性を叱りつけて対応をしてくれた。
「いや、すみません。彼、ちょうど皆さんと同じ年頃の奥さんと娘さんたちがいて、娘さんたちが冒険者になるって言い出して家庭がごたついているもので姿が被ったんでしょう。」
家庭の問題をこちらへ飛び火させるな。
「しかし、彼の心配ももっともだ。皆さんお若いし、おきれいだし、冒険者は綺麗事ではないですよ? 」
あれ、この人もそっちへ流れるの?
「ご心配いただき、ありがとうございます。でも、多少は腕に覚えもありますので、何とかなると思います。」
母様が答えると、男性は俺たちが防具も持たずに剣一本を下げているだけなのを見ながら、眉に皺を寄せた。
「一応、皆さんのステータスを見せていただいても? 」
はい、と言って母様を始め、皆で偽装後のステータスを開示すると、男性はしばらく見入った後で、途端に態度を変えた。
「いや、これは素晴らしい。今、森がちょっとごたついてまして、戦力になる人の加入は大歓迎です。」
男性が窓口の男性を呼んでステータスを見せると、窓口の人は急に態度を変えて手続きを始めた。
冒険者はランクがAからGまで分かれていて、目安としてはAがレベル3,000以上、Bがレベル2,000以上、Cがレベル1,000以上、Dがレベル500以上、Eがレベル150以上、Fがレベル150未満でGが見習いと言うことで、レベルが5,000を超えるとSランクになるらしい。
ただ、最初は適性を見るためもあって必ずGから始まるとのことだ。
それでてすね、と男性が声を潜めて言う。
「あなたたちはGランクスタートは間違いないのですが、あなたたちがGランクの認識票を下げていると、それを見た冒険者が間違いなくちょっかいを掛けて来て必ず問題が起きます。
冒険者が何をやろうと自己責任ではあるんですが、この忙しいときにあなたたちにちょっかいを掛けた奴らが怪我をして、使える駒が減るのは困るんです。
それで、実力を見るのにお誂え向きの依頼がありますので、良ければこれからそれを引き受けて達成してもらえませんか。
そうすれば、私たちも安心してあなたたちをCランクとDランクへと変更ができて、識別表がC、Dのランクともなれば、トラブルが大幅に減って私たちも安心して仕事ができます。」
窓口の男性が驚いているところを見ると、異例の措置なのだろう。
この人、たぶん偉いんだな、そう思ってみると、何となく貫禄があるようにも見える。
ミシュルが母様に、母様、良いよね、と聞いて母様が頷き、話が決まった。
「で、依頼なんですが、町の西側に森があって、その入口付近でF、Gランクが採取活動をしているんですが、最近の魔獣の移動でバレットウルフが集団で出るんです。
バレットウルフというのは、土魔法で作った玉を撃ちながら襲ってくるので厄介でして、毎日ギルドで新人の護衛を付けているんですが、今日は手配していた冒険者パーティが大怪我をして動けないと連絡があって、困っていたんですよ。」
母様は二つ返事で了承して、取りあえずカバンはギルドのカウンターへの中で保管してもらうことにして、俺たちは新人冒険者20人ほどの護衛をすることになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
今日の薬草採取に向けて俺たちが集まっていると、冒険者ギルドのウォーガルさんが来て皆に声を掛けた。後ろに何だかきれいな女の子たちが4人も並んでいる。
何だろう、と思っていると、ウォーガルさんが女の子たちを伴って出てきて今日の予定の説明があった。
「今日は”暁の輝き”の人たちが怪我で来られないので、新人の試験を兼ねてこの人達が護衛をします。」
女の子たちは母親と娘3人の4人組で、パーティ名もまだ決まっていないらしい。
冗談じゃねえ、と俺は思った。これでも登録してから順調にレベルも上げて135になって、最速でGからFになってEも視野に入っているのに、今日登録したばかりのなよなよした姉ちゃんたちが俺たちの護衛だ?
思い切り不満の鼻を鳴らしたら、キューダ君、ギルドの指示に従いたまえ、とウォーガルさんに注意をされてしまった。
表向き、はい、と答えたが知ったことか、今日は俺は勝手にやる。
皆の思いは同じだった様で、いつもは並んで森へ行くが、今日はてんでバラバラに移動する。女ども、困ったみたいであいつらもバラバラに分かれて数人ずつに付いて目的地へと進んでいく。
男5、6人に対して女が1人ずつ。年増の女は美人で艶っぽいし、娘たちもかなり可愛い。
このまま森の奥に引き摺り込んで、みんなで襲っちまうのも良いかもしれねえな。
そんなことを考えたのは俺だけではなかった様で、中には腰を引いて歩きづらそうにしているヤツもいる。馬鹿なヤツだな、気が入りすぎだ。
みんなの視線が少しずつ合って、以心伝心、何を考えているかが分かり合って、よし、ヤッちまおう、そう頷くばかりになっていたときに、魔獣が襲ってきた。
「バレットウルフよ。みんな固まって、迎撃態勢を整えて! 」
年かさのアリーダという女がそう指示したが、女を襲うことしか考えていなかった俺たちには即座に反応ができなかった。
何人もがぽつりと取り残されたまま魔獣に囲まれて合流ができず、俺たちの誰もが、あ、あいつは死んだ、と思い硬直した。
その様子を見て、もらったとばかりに取り残された男達に殺到するバレットウルフに対して、4人の女がそれぞれ魔法を発動して雷弾、風弾、水弾などでバレットウルフを撃退する。
バレットウルフが後退した隙に取り残された者たちが駆け寄ってきて、みんなで背中を寄せ合って周りへの視界を確保した俺たちが見たのは、4人の女たちによる蹂躙劇だった。
アリーダさんが雷で間引きながらバレットウルフを鮮やかな手際で倒していく。
それは、俺たち剣士が漠然とイメージしている理想の剣捌きを体現したとしか思えないほどに見事で、一生を掛けて辿り着きたいと願うほどの隙のない動きだった。
キャセルさんとティルクさんとか言った長女と三女は、母親とは全く違う戦い方をしていて、剣の刃の部分を薄青くキラキラと輝かせながら、独特の体捌きでバレットウルフを斬っている。
バレットウルフにすうっと近寄り、体の位置が微妙にズレたと思ったら剣だけが届いて魔獣が両断され、両腕を開いて腰を落として両膝を曲げ足を交差させた姿が瞼に残ったと思った次の瞬間には方向転換して次の魔獣の首が飛んでいて、その先で斬った姿で佇んでいる。
そして低い姿勢で左足を引き寄せたと思ったら踏み切って高く飛んで次の魔獣を斬る姿が空に舞う。その踊る様な姿に俺たちは見蕩れた。
また、次女のミシュルさんは砲台のように魔法を打っていたと思ったら手刀でそこら中の魔獣を当たるを幸いと葬り続ける。
その魔法と敵を倒す姿の力強さは、とてもあの細い体から発しているとは思えないほどだった。
バレットウルフの攻撃の一つとして俺たちに届くことはなく、わずか数十分の戦いで倒されたバレットウルフの数は100匹を超えた。
その間、俺たちはただただ彼女たちの戦いに魅了されて、バレットウルフから一撃も食らうことなく奴らを掃討していく姿を目に焼き付け続けた。
戦いが終わって、彼女たちが周りを見回して、もうバレットウルフの追加が来ないことを確認して俺たちに微笑んだときには、俺たち全員は彼女たちへの罪の意識に苛まれていた。
──彼女たちを森の奥に引き込んで乱暴をしようとした。
そのことを恥じたが嫌われることが恐ろしくて口にすることができず、ただ土下座をして、すみませんでした、と謝罪を繰り返した俺たちの意図は、幸いなことに彼女たちには伝わらなかった。
俺たちはその日、心を入れ替えて真面目に収集に取り組んだお陰でこれまでにないほどの成果を上げ、もらった金で酒場に集まり、今日見た彼女たちの姿を伝え合って、彼女たちの二つ名を考え合った。
母親には”戦姫”、長女と三女には”舞姫”と”舞小姫”、次女には”闘姫”と決めて、俺たちは仲間だけの秘密のように、その呼び名で彼女たちを崇拝し始めた。




