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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第33話 え? 私たち、世間知らず3人組!?

 落雷の轟きの人たちが去ってから数日経って、俺はオートモードリバースを使ってティルクに剣道の訓練をしていた。

 俺のイメージしたとおりにティルクが動いて、足を捌きながら剣を振る。剣の捌き方を強くイメージしなければならないので、俺の方も訓練になる。

 そして、戦う上で意外に参考になっているのが時代劇の殺陣のイメージだ。殺陣は強い人はオタオタしないで最短距離で進んでいく。

 つまり、最短距離で進めるだけの周囲と相手を見切る実力があるからそれができるということだろう。

 全体の動きを読みながら目の前の相手の動きを制して、倒したときには次の敵やその次の敵への照準と準備が整えるように流れをコントロールしていなければ、次々と敵を相手したり牽制することはできないからだ。

 そんなことを考えながら教え、ティルクが敵と戦うときにはオートモードセーブリバースにして自分でも考えながら戦ってもらった。


「ちょ、敵を倒す回転が速いと次の敵への照準が、わああっ! 」

 ティルクが敵へ斬り込む速度が速すぎて、次の敵への備えができないまま敵の真正面に出てしまってパニクった。

 ティルクの真正面へと飛び出してきた敵がティルクへ飛びかかる前に、俺は風弾で弾き飛ばしながら、ティルクに落ち着くように指示をする。

「周りの様子を把握して敵を倒しなきゃダメよ。牽制も交えて周りの動きをコントロールしないまま闇雲に突っ込むとそうなっちゃうから気をつけて。一度オートモードを切るわよ。」

 そう言うと、俺も戦いに参加して、集まってきた敵を蹴散らした。

 ティルクが剣道の作法で戦うには、もう少し訓練が必要なようだ。


◇◆◇◆


 昼になって昼食を摂っていると、母様から通知があった。

「もう大分テルガが近いわ。今日の夕方か明日くらいにはテルガに着くんじゃないかしら。セイラの魔法属性も一応全種類付け終わったし、ちょうど良いわ。

 セイラ、トリックフォックスの能力を使うときが来たわよ。

 あれこれと詮索されると拙いし、変身魔法でティルクとセイラを魔族の姿にして、私は見かけを少し年上にして、母娘として町に入りましょう。

 それで、セイラにはステータスの偽装をしてもらうわけだけれど、どんな風にするのが良いかしら。」


 俺たちが相談しているところへミッシュがやって来た。

 食事どきにミッシュが獲物を狩りに行かずにいるのは珍しい。

『テルガの町では、俺もこの姿で仲間に入れてもらうぜ。』

 ミッシュはそう言うと、収納空間から女の子を取り出したので驚いた。

 黒髪の可愛い女の子だが生きているようには見えないんだけど……。

『男の姿ならばこのまま変身できるんだが、そうすると着る物がないからな。

 俺はこの人形を操って、人と猫の姿で町に入ることにする。

 こう言っては何だが、アスリーと一緒に旅をして、俺は町での過ごし方についてはよく知っているが、あんたたち、ほとんど知らないだろう? 』

(何のことかな? )

 ミッシュの言っていることがよく分からない。

『例えば、この中で日常的に金を使っていたヤツはいるか。』

「私はこの間、花屋で花を買ったわ。」

『ケイアナは自分で金を使ったのは初めてだったろう? 普通の倍額を払わされていたのに気付かず、チップまで弾んで、結局、本来の3倍くらいの金を使っていたよな。』

「私は、母様が花を買うときに初めてこの世界のお金を見た。」

「父さんが買い物をするのに付いて行って見たことがある。」

(あ。このメンバー、町に入ってもまともに買い物すらできないかも。)

 ライラさん、母様と俺を2人だけのセットでよく送り出したな。

『という訳だ。お前たちだけじゃあ、すぐに身ぐるみ剥がれて路頭に迷う。』

(俺たち3人、お金の使い方の知識で使い魔に負けてるのか。)

 人間固有の活動部分で使い魔に負けているのが、ダメダメな気がしてすごく凹む。


『まあ、身ぐるみ剥がされた後、ケイアナの身元がバレて城に囲い込まれるかもしれないがな。』

 え?、と俺が母様を見ると、母様が視線を逸らして、それから俺に説明してくれた。

「テルガは獣人の国との交易の利益を背景に、この間まで──正確には私がザカールと結婚するまで──ガルテム王国の自治領だったんだよ。

 独立意識の強いところでね、自治領の准王の唯一の後継者だった私が図らずもザカールと恋愛結婚するまで、テルガは独立を目指していたの。

 ザカールが死んだと公表されて私が表に出ないようにしたのは、私が再婚してテルガの自治領を復活させるようテルガの独立派の勢力から要請されるのを避けるのが一番の理由だったのよ。」

(ああ、ティルクのお父さんのガーダさんやシャザさんが母様のことを知っていたのはそういう訳か。母様、本当にお姫様だったんだな。)

『言うまでもないが、ケイアナが独立派に囲い込まれたらガルテム王国の事態はさらにややこしくなる。

 それを避けるためにも、このメンバーが町で目立つことをしないよう、誰かが気を配る必要があるからな。』

 使い魔が優秀すぎて頭が下がる。

 俺はこの世界のことは何も知らないし、知識だけあったとしても社会経験が乏しいのでどうしていいか分からないだろう。

 ここはミッシュに頼らせてもらおう。


 ミッシュは黒猫の姿になると少女の上に飛び乗って目を閉じたと思うと、やがて少女が目を開けてミッシュを抱き抱えて起き上がった。

「これで完了、と。さて、まずは変身だ。」   

 そう言うと、14、15歳くらいの感じの黒髪に黒目の少女は、母様と同じ赤毛と赤い目、白い角が生えた姿に変わった。

 母様はそれを見て獣耳を止めて白い角に、俺はこれまでと同じ赤毛赤目に追加で白い角を生やした。

 ティルクはこれまでと同じスミレ色の髪に青い目、白い角だが、俺が額の一本角から両側頭部の二本角へと変えた。

 服装は、町が近いと言うことなので、服装はブラウスとスカートに替えて、虫対策にスパッツだけはいた。

 これでみんなの容姿に統一感が出てきて、家族と言って通るだろう。

 そして、名前は母様と俺の名前を誤魔化す必要があるので、母様がアリーダ、俺が長姉でキャセル、ミッシュが次女でミシュル、ティルクは三女でそのままティルクとして、姓はノルヴァを名乗ることにした。

 何でも女癖が悪く薄情なことで有名な子爵で、正式に妻として迎えた相手であっても、飽きて放り出した下級貴族の娘とその子どもが何組もいるそうで、正式な妻でない人は数知れず、ノルヴァの名前を出しておけば身元を不審に思われることはないそうだ。

 後は強さの表記を調整して、母様を1,125、俺は,1013のまま、ミッシュを840として、ティルクも662のままとした。パーティとしてはかなり強い部類だそうだ。


 テルガの町へ入る準備もできて、午後はこのままの形で進むことにした。

 ミシュルと黒猫の姿ではミッシュが魔獣を追うことができないが、獣人の国からやってくる魔獣が多くて遭遇率が少し減った程度だったのに驚いた。

 そして、3時過ぎにはテルガへ続く街道へと出て、4時過ぎには俺たちはテルガの門で並んでいた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 門の前で検問の順番を待ちながら、俺たちは周りの注目を浴びていた。

 女だけで連れ立っての旅人など珍しいし、母親は艶っぽく娘たちも適齢の美人揃いなので目も引くだろう。

 順番待ちの列は長く、興味を持った男どもが声を掛けてくる。

 ねえ君、名前は?、とか、今晩はどこに泊まるの?、はまだしも、一晩幾ら?、と財布を取り出しながら聞いてきたヤツがいたので即座に張り飛ばして、歯が何本も飛び散って倒れ込む男の姿を見てからは、大幅にちょっかいは減った。

『やり過ぎると町に入れなくなるぞ。』

 ミッシュの思念が飛んできて、俺はフンッと鼻を鳴らしただけだったが、内心では男の吹っ飛び様に驚いていた。

 軽くバンッと叩いたつもりだったのに、レベルが上がるとあんなに効くんだ。


 検問での取り調べ自体には問題はなかったが、ノルヴァ子爵は亡くなり、家は取り潰しになったと聞いた。

 何でもお城で狼藉を働いてメイドに成敗されたのだとか。メイドに成敗?

 首を捻ったが、意味が分からなかったので、はあ、とだけ返事をした。

 他には何ごともなく門を通り過ぎ、俺たちは町の中に入った。

 母様が緑雲館へ行こうというのを、ミッシュが、それは上級貴族御用達の最高宿だから、と止めて、中の中から下くらいの店が立ち並ぶ通りへと引っ張っていく。

 なるほど、母様に任せると全てがこの調子になるんだろうな。

 まずは食事を、ということでミッシュが嗅覚で匂いに雑味の少ない店を探し、大衆食堂的な店を選んで値段とボリュームを店員に確認しながら美味しい夕食を食べて人心地が付くと、ミッシュが店主に、この辺に良い宿屋はないですか、と何軒か教えてもらって向かう。

 宿屋では部屋と風呂、食事付きなどの条件と値段を確認しながら店を選んで泊まることになった。

 ミッシュの手際は流れるようで実に素晴らしい。

 使い魔に経済活動の一切合切を面倒見てもらって、人間としてこれでいいんだろうかと思う気持ちはあるんだけれど。

 俺たち3人とも基礎的な社会経験もないことだし、良い社会勉強と思って、今日のところはミッシュの好意に甘える。

 さあ、順番が来たみたいだから、みんなでお風呂に行こう。



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