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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第31話 俺を女にしたのはあなたですかっ。てへぺろじゃないです

 祠の中には部屋が2つと祭壇が1つあるだけの簡単な作りだった。

 部屋の前を通り過ぎて祭壇へと出ると、神像が1つとその横に上に何も載っていない台座が1つ並んで奥に配置されていて、その手前はがらんとしている。

 台座だけの方は男神が祀られていたのかな、と思いながら俺は残った神像を見た。造りは粗いが女神リーアに似せて作ったのだろうことが分かる顔立ちをしている。

 この世界へ来たあのとき、わざわざ魔王の顔を教えたってことは、女神様、俺がどうなるのか知っていたよな、と溜め息を吐きながら手を合わせてお祈りをする。

『そう言わないで。最低限の知識と対策はしてあったでしょう? 』

 声が聞こえて目を開けると、神像に女神リーアが顕現していた。


「やっぱり、何が起こるかご存じだったんですね。」

 俺が再度溜め息を吐くと、女神様は微笑んだ。

『あのまま幽体が消滅して死んでしまうよりは良かったでしょう? 』

 え?、と俺は声を上げた。

(本当は死んでしまうところだった? それを助けられた? )

 湧き上がった疑問に女神様は答えるでもなく、こちらへ向けて微笑んでいる。

『それより、折角の機会です、少し話をしましょう。

 私は本来、人のすることに干渉ができないことになっていますが、異世界から来たあなたをサポートする役割から、干渉せざるを得なくなりました。

 そのために、セイラ、あなたは私と関わったことによる使命を負うこととなりました。

 今、あなたが調査に赴いているこの一件とそれに繋がる全ての問題、それらにあなたは関わる運命にあります。』

「それは俺がアスリーさんの体に転移したからですよね。男性の体に転移させる訳にはいかなかったんですか。」

『私の管轄が女性だけなので、男性の体には無理だったの。』

 あー、男の体は男神の担当……、と台座だけになった像に目をやりながら肩を落とす。

「命か、ナニか、どちらかを選べって言われたら……。

 うー、普通はセットでしか考えないですよ?

 世の中の男性は神の加護がないって、世間は知っているんですか? 」

『体だけの問題だから、特に知る必要はないと思うわ。言わないでね。』

 つまり、男神がいないので男のナニには神の加護がない。

 衝撃の事実で話題が逸れて、しかも女神様に口止めされてしまった。


『話を戻しましょう。

 あなたがこれから関わる問題、それは各種族を含めた人間の存続にも関わる問題になりえます。

 あなたが直接に事件の中心にいることになるかは分かりませんが、あなたが自分の役割を果たしてくれることを期待しています。』

 女神様はそう言うと、俺に向かって手をかざした。

『これから起きる事件に対処するために、あなたの力を強化しておきました。

 オートモードリバース、オートモードセーブリバースと唱えることで、あなたのイメージを人に伝えることができます。2つの違いはオートモードと同じですので、分かりますね? 』

 つまり、俺のイメージへ強制的に従わせるのがオートモードリバースで、俺のイメージに従って相手が自分で調節できるのが、オートモードセーブリバースだということかな。

「これ、相手に対して強制力があるんでしょうか。」

『いいえ。相手があなたのイメージする事柄を受け容れて良いと思うときだけしか発動しません。

 ですから、言うことを聞かない相手を強制的に屈服させるものではないことをよく理解しておいてくださいね。』

 ふむ。相手に俺のイメージを伝えて、相手が納得した範囲で使える力。

 思いつくのは他のメンバーに戦い方や新たな属性魔法を覚え込ませることができる、くらいかな。

 女神様を見ると、それも1つの使い方です、と頷いている。

「分かりました。ありがとうございます。」

 俺がそうお礼を言うと、女神様は微笑んで輪郭をぼやけさせて、石像に戻ろうとしていた。

『それでは、あなたの人生が良いものでありますように。』

 あー。俺が男に戻れるのか、聞く暇がなかった。


 俺はしばらく女神像を見詰めていたが、再び女神リーアが顕現する様子がないので諦めて帰ることにした。

 周りを見回して部屋の隅に石造りで水が流れてきている場所があるのに気が付いて、水で布を濡らして神像と隣の台座を清めて、水筒の水を補充してから立ち去ることにした。

 特にほこりが付いている訳でもないのだが、手入れもしないで立ち去るのが躊躇われたのだ。

 掃除が終わると一礼した後に祠を出た。

 祠の外には変わらぬ清冽な空気に満たされ、ここに魔獣が近寄ることなどできないと感じた。

 母様、知っていて俺にここに来させたんだろうな、そう考えながら、母様たちが進んだだろう方向に当たりを付けて出発をした。


◇◆◇◆


 セイラの立ち去った後の祠に大きな黒い影がすたりと木から降り立ち、辺りを窺った。

 清冽な空気を嗅ぎながら、ミッシュは祠へと進み、前足で祠の扉を器用に開けると祠の中に入る。

 祭壇へと進み、女神の隣の台座を見ながら像の後ろへと回り込むと、石の壁の一部に前足を当て、ゴゴ、と音を立てながら石壁が開くのを待って壁に開いた空間へと入っていく。

 石壁の部屋の中には、1人の少女が横たわっていた。

 目を閉じ、心臓も動いていない。

 ミッシュが少女を異空間に回収しようと近寄ると、声が響いた。

『久しぶりね、ガシュドミル。その子をどうするつもり? 』

 リーアイダ、久しぶりだな、とミッシュは事もなげに答える。

『あなたが勝手に神を辞めて地上に降りてから、苦労させられているわ。何?、まだ目的を達成できないでいるの? 』

 ミッシュは、入滅も神に復帰もしていないのだから、生きているのは分かっていただろう?、と答えて長い舌でペロリと口の周りを舐めた。

『今回の事件は俺の選択の結果だ。これに対処するのは俺の責任でもある。

 もう単独で事態を改善できるほどの力は残っていないが、せめて巻き込んでしまったアスリーとセイラは護ってやりたいと思ってな。

 もらい受けていくぞ。良いだろう? 』

『関わった個人を護ろうとするなんて、あなた、人間みたいな考え方をするのね。

 私にとってもアスリーとセイラは今回の事件に対する大事な駒の1つだし、まあ仕方がないわ。』

 リーアは溜め息を吐くと、微笑んだ。


『久しぶりにあなたに責任を押しつけることができるのなら、こんなに嬉しいことはないわ。事が終わったら、ついでに復帰してくれても良いのよ。』

『冗談は止せ。神の力を捨てて、長年目的のために過ごしてきたんだ。今さら振り出しに戻りたくはないよ。』

 リーアは溜め息を吐くと、その決意が揺らぐことを祈っているわ、と告げて神像との接続を切ったようだった。

 ミッシュはグル、と不快そうな声を一声漏らすと、少女を異空間に回収して祠から出る。


『さて、セイラと合流してやらなくちゃな。』

 そう呟いて、ミッシュは聖域を立ち去った。


◇◆◇◆


 日が落ちた薄暗がりの中、俺がミッシュに案内されて母様たちの元へと戻ると、ちょうど夕ご飯ができたところだった。もう間もなく合流すると読んで、俺が到着するのを待っていてくれたらしい。

 母様から、どうだった?、と聞かれて、まずは女神リーアに再会したことを報告し、俺に関する詳細のを皆に知らせていないので内容の報告をどうしようかと迷っていると、母様が俺の迷いを察したようだった。

「やはり、女神様はセイラの前に顕現なさったのね。」

 そうとだけ言って、詳しい話はまた2人だけでといった風情で話を終えようとするので、俺は母様に対して女神様との話の概略を報告することにした。

「母様。女神様から今回の事件、人間全体の存続に関わるような大きなものになる可能性があるとのお告げがありました。それに対処するために、人に向けて使える新しい力も授かりました。

 だから、ここにいる全員に関わりのある話です。」


 それを聞いて母様は少し考えると全員を集め、みんなに対して説明を始めた。

「今から話すことは私が許可するまで口外無用よ。いいわね。

 セイラはね、異世界から来たの。元々はアスリーさんがダイカルと結婚して勇者の資格を失った後の勇者とするために、アトルガイア王国が異世界から掠ってきたところが……」

「私がガルテム王国に転移したのは女神様のご配慮だったそうです」

 俺が口を挟むと母様は驚いた顔で俺を見て、それから話を続けた。

「……そう。女神様のご配慮で勇者となることを免れて、誰かに幽体を掠われたアスリーさんの体に転移してきたの。

 その際に、セイラは人の期待したことを理解してそのとおりに反応するオートモードと、人の期待を理解して自分で判断して動くことのできるオートモードセーブの力を授かったわ。

 セイラが属性を持っていないのに魔法が無理矢理に使えるようになったのは、このオートモードの力によるものよ。」

 母様が全員の顔を見て個別に確認をしていく。

 女神様に会って俺が能力を授かったという話は衝撃的だったようで、だから魔王妃なのか、と言う声に混ざって、神の使い、神使だ、といった声が漏れて、え、俺、神使とかそんな大仰な話はしてない、と困惑しているところで、母様が俺に話を振ってきた。


 俺は深呼吸をすると、今回の女神様との会見に関する説明を始めた。

「今回、女神様から、私たちがこれから関わる問題は、各種族を含めた人間の存続に関わる問題になり得るとのご説明を受けました。

 そして、私たちがそれにしっかりと対処できるようにと、新しい力を授かりました。」

 それから俺はオートモードリバースとオートモードセーブリバースの能力について説明をして、俺が魔法の能力を得たように、みんなにも新たな能力を得ることができる可能性を示唆すると全員の目が輝きだして、頼もしく思えるとともに心の隅でみんな、特に落雷の轟きの人達、何でそんなに目がキラキラしているの、という疑問も湧き上がっていた。



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