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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第29話 寄らば斬る、これが私の本領

 魔法の修行をしながら魔獣を狩る生活は今日で3日目に入っていた。

 落雷の轟きとティルクと俺とは、強い魔獣が見つかると今では合同で戦闘を行っている。

 獣人の国が近くなってきて、だんだんと魔獣が強さを増してきているのだ。

『おかしいな、昔はこんなことはなかったんだが。』

 随分と昔から生きているらしいミッシュが呟いて、そうなの?、と俺が聞くとミッシュが、ああ、と答えた。

『考えて見ろよ、こんなに強い魔獣に囲まれて暮らしていたら、最強は獣人になっちまうだろ? でも、現実は魔王が一番強い。こいつらは最近になって縄張りを移してきたんだろう。』

 なるほど、と思った。ならば、魔獣が縄張りを変えた原因は何だろう。

 一番分かり易いのは、もっと強い何かが縄張りを主張して追い出されたからというものだが、もしそうならこの先はどんどん強い魔獣が出てくることになる。

 とにかく気を緩めないことが重要だろう。


 魔獣との戦いでは、魔法での戦闘に慣れるために俺も一応魔法は使うが、魔法が先行すると剣の修行にならないし、他のメンバーのレベルアップの機会を奪うことにもなるので、母様から補助的に使うよう言いつけられている。

 現在、落雷の轟きやティルクも急速にレベルアップしていて、ミッシュが絶え間なく魔獣を追い込んでくるお陰で、ほかの皆が一日20から40の間でレベルアップしている。

 落雷の轟きの面々は、レベルを200が視野に入ってきて、今日中にも200の大台へ上げるんだと鼻息が荒い。

 それはそうだろう。つい1週間ほど前にはアギラオオカミの群れになすすべもなく全滅しそうになって、俺たちに引率してもらってテルガ経由で出発地点のゴルラへと戻ろうとしていたのだ。

 そんな彼らも今や世間的に見ても一人前と呼ばれるレベルに達して、気持ちが前向きになっている。


 食事の時にも会話が増えて、いろいろと話を聞くこともできた。

 落雷の轟きの男性メンバーは厳つい老け顔が多くて騙されていたが、話を聞いてみると全員が15歳、俺よりも年下だった。

 聞くと皆商家の三番目以降の生まれで、このまま家にいる訳にはいかないらしい。

 そうすると、分別くさい発言や判断ができるカウスさんは意外と将来有望なのかもしれないし、マライさんはもっと体が大きくなるのかもしれない。それにトーガさん、そつなくまとまっている感じだが、弱点もなく総合力を上げているのはすごいのかもしれない。

 まあ、彼らが年下だと分かったからと言って今さら呼び捨てや君付けにするというのも締まらないので、一見して年下と分かったリーラ以外は引き続きさん付けにしている。

 彼らにとって、俺はどうも年上のきれいなお姉さんのポジションらしくて何だかムズムズするのだが、俺からさん付けされて3人とも嬉しいみたいだし、まあ仕方がないだろう。


 もっとも、最近はきれいなお姉さんとして向けてくる視線に尊敬が混ざったりしている。

 というのも、俺は毎日の魔法訓練が魔獣狩りによるレベルアップとの相乗効果で急速にレベルを上昇させていて、彼らが一日20から40のレベルアップのところを一日に100前後のペースで上げているので、そろそろレベル500になろうとしているからだ。

 魔法の訓練は、属性獲得が一通り終わったらより高度な魔法の習得をするらしくて、魔獣がだんだんと強くなっていることを考えると、このレベルアップの速度は当分は現状以上のペースで維持しそうだ。


◇◆◇◆


 俺の称号は剣士なので、戦いでは剣を主体に訓練しているのだが、実は戦うにつれて違和感が出てきている。

 理由は簡単で、剣を振るう度に日本人である俺のイメージが何か違うと異議申し立てをしてくるのだ。

 例えば西洋の映画などでは、戦いのシーンで剣で叩いて叩いて防御を破って最後は叩いて打撲でボロボロにして突き刺して倒すというのが見せ場のことが多いが、実際、剣は切ることを考えた武器ではない。

 打撃と刺突が剣という武器の本来の性能で、先日、ヴォルテックスベアの腹を一気に切り裂いた1手があったが、あれは母様がイメージしていた理想の3手の中の一手がきれいに決まったたまたまの結果であって、だからこそ落雷の轟きの面々も驚いた。

 だが、俺にとってはあの一手が却って俺に斬ることを強烈にイメージ付けて、敵を打撃する度に、そうじゃないだろ、と感覚が訴えかけてくる。


 何とか剣の切れ味を増すことができないか、そう思って、俺が剣に風の魔法を纏わせようとして、剣の刃の部分に風を送りつけて四苦八苦していたときだった。

『なんだ、セイラ、剣に風魔法を付加させたいのか。付加魔法というのがあるぜ。』

 ミッシュが付加魔法の存在を教えてくれた。付加魔法は属性魔法とは違って魔法技術なので、やり方を覚えれば魔法が使えるならば誰でも使えるそうで、剣に魔法の発動の仕方を指定して、魔力を流すと指定したとおりに効果を現す術式を魔方陣に組み込んで剣に貼り付けるのだそうだ。

「セイラと俺の契約も魔方陣に契約内容を貼り付けたもので、技術としては同じになるが、セイラがやろうとしているのは、まあ、初歩だな。

 教えてやるから、自分でやってみると良い。」

 方法としては、起句を唱えて指定したい魔法の内容を記述し、結句で動作が指定されるというものだ。とくに難しいものではなかった。

 やってみると、プログラムを作るのに似ている。俺は学校で少し囓った程度で本格的なプログラム作成をやったことはないが考え方は理解している、そういう意味では苦労は少なかった。

『へえ。セイラ、才能があるなあ。アスリーよりも理解が早いや。』

 ああ、理系が苦手な女の子も多いから、そういうものかもしれない。


 で、付加魔法のやり方が分かって、剣に風魔法を付加して実際に使ってみる。

 魔獣を斬ると血しぶきが舞う。断面はきれいだが、血が風で吸い出されて周囲に血生臭い臭いが充満する。これはダメだ。

 変更して、火魔法……は切り口が焼けて血が止まるので出血はしないが、魔獣がすぐに死なずに斬られてもしばらく動く。これも失敗。

 で、水魔法。切り口もきれいだし、水と血が馴染んで血が飛び散らないし、剣に血糊がこびり付かない。これだ、と水魔法で行くことにした。


 剣が切れるようになると今度は戦い方に違和感が出てきた。

 これまで覚えた打撃と刺突の戦い方と着る動作を主体にしようとする戦い方が合わないのは当然で、他の戦い方と考えて、剣道を思い出した。

 剣道は、小学校の体育館などでよく子どもを相手に教えたりしているが、俺も小学生の時には体育館に通ったクチだ。

 先生だった人が剣道の高段位者で子どもの教育、というか素質のある子どもの発掘に熱心で、毎週、道場の門下生を連れて模範試合を見せてくれたりしていた。

 俺も先生の眼鏡に適って、親にうちの道場に来て欲しいと何度も説得を受けた経緯もあって、目を掛けてもらった分、高位の技を持つ人達の動きは覚えている。


 まずは一人での訓練で、可能かどうかの疑問はあったのだが、オートモードで自分に意識の焦点を合わせてやってみる。

 母様が俺が何かを始めたのに気が付いて、興味深そうに見ていた。

 すり足での足運びに注意して、基本的な動作を反復して練習してみる。

 自分でイメージして体を動かすので、人のイメージに合わせるよりも動作の確認がきちんとできることに気が付いた。

 動いて、イメージと実際の動きを確認してみて、すぐに分かったのは、木の根やでこぼこの多い森の中なので本当にすり足にすると動けないことよる違和感だったが、足を浮かせ気味に移動するようイメージを修正をしてまた動いてを繰り返して、動きやすいイメージを作り上げる。

 イメージが固まってから、魔獣との実戦での試しだ。

 この頃になると、周りの皆が俺が何か違う戦い方をしているのに気が付いていた。

 周りが見守る中、肩を上下動させることなくすうっと歩き、足を送り、継いで打ち込む。足を開いて送り、また開いて送る。

 敵の攻撃を足さばきで躱しつつ身を剣の届く範囲に突き入れて、敵を制空圏に置いたときにはもう剣を振るっている。

 敵全体の動きを見ながらズバ、ズバ、と両断して切り進みながら、斬ったときには次の敵の動きを予測して足運びを選択する。

 敵の攻撃を受けることなく進んでいく姿が舞踊をするように映っていたのだろうか、俺の戦いはやがて陰で”舞い”と呼ばれるようになることを俺はまだ知らなかった。


「すっごーいっ! 姉様、華麗ですっ。まるで踊っているようですっ! 」

 ティルクが興奮した様子で抱き付いてきて、俺は、いや、違うだろ、と思ったのだが、その後ろから母様が尋ねてきた。

「セイラ、その戦い方は付け焼き刃じゃないわね。何か元になるものがあるんでしょう。」

「ええ、国には刀という斬ることが主体の剣があって、その刀の使い方が今の戦い方なんです。」

 ふうん、と母様が納得したように頷いて、俺の剣歴を聞いてきた。

「子どもの頃に何年か練習しただけで、実戦は初めてですが、何日かおきに達人が練習試合を見せてくれていたので、動きのイメージはありました。

 それに、国の伝統的な戦い方だからかな、筋肉の使い方や動作が体に馴染むんです。」

 俺が微笑むと母様は、なら、それで少しやってみたら良いわ、と言ってくれた。

 剣には水魔法を付加しているとティルクに言うと、ティルクは、姉様、私もやってみたい、と言うので母様の許可を得て、ティルクの剣にも水魔法を付加して、臨時の剣道教室を開くことになった。



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