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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第28話 王家付きメイドと冒険者パーティ”威城のメイド”はチームを組みました(2)

誤字報告を頂きました。

毎度ありがとうございます。

 ライラさんとマイラさんの間で協力の話が纏まって、具体的な話に入る。

「私達は意識管理と情報管理の知略系の能力を得ました。

 その能力を使って、私達はアスリー様が掠われ国王様がおかしくなり始められ、ひょっとしたらセイラ様が魔王妃の称号を得られた切っ掛けにもなった、そもそもの発端を調べています。

 皆様には必要な場合、私たちが調べたことを実行する際の手助けをしていただきたいと考えているの。

 私たちが今調べている有力な手掛かりは、アスリー様が閨でお使いになった香油なんですが……。」

 ライラさんが私を見たので、代わって答える。

「いつもの香油47パーセントにアルザの果実35パーセント、あと私の知らない成分2種類が8パーセントと6パーセント、残り4パーセントはコカトリスの幻覚成分でした。」

 私が香油の成分を説明すると、シャラという人が首を傾げた。

「ねえ、コカトリスの幻覚成分って、確か揮発性が強いんだよー。蒸発とか、してない? 」


 私がライラさんを見ると、ライラさんが記憶を手繰り始めた。

「あの日、アスリー様に初めてお仕えすることになって、私は相当に緊張していたわ。

 だから随分と早めに香油を用意して、緊張で指が震えるので手をよく温めて、それからティムニアさんと二人で早めに入念にアスリー様に香油を塗って……。

 サファに伝えた情報は指が震えていたときのものだわ。

 元々の成分とアスリー様に香油を塗ったときの香油の成分……。

 ちょっと待って、今思い出すから。」

 ライラさんが思い出して送ってきた香油の情報を元に私が分析する。

「香油を開封したときの成分はいつもの香油40パーセントにアルザの果実30パーセント、私の知らない成分2種類とコカトリスがそれぞれ10パーセント。

 それがアスリー様に使ったときには、いつもの香油52パーセントにアルザの果実39パーセント、私の知らない成分2種類が6パーセントと3パーセントで、コカトリスは0になっています。」


 ライラさんはしばらく考えた後で説明をし始めた。

「未知の成分の揮発性の違いが情報として使えるかもしれないわ。

 未知の成分は、コカトリスの幻覚成分に比べると3分の1と3分の2の揮発性があるということよね。

 入手や保管に特別な注意が必要なはずだわ。

 サファ、商業ギルドで揮発性の商品について情報を当たって。

 それから、マイラさん、経費と報酬は支払います。冒険者ギルドで入手や取扱いに注意が必要な揮発性の素材の情報を当たってみてもらえないかしら。」

 マイナさんはライラさんの依頼を引き受けた。


◇◆◇◆


 私たちは王城から冒険者ギルドへと続く道を歩いていた。

 王城は王都の中心にあり、冒険者ギルドはもちろん王都の基幹施設だ、都の主要道路に沿って王都の真ん中付近にあり、私とノーメ、シャラとユルアで2人ずつ前後に並んで歩いていた。

「シャラ、さっきの話、どう思った? 」

「んー、国王様とアスリーさんの話ー? よく分からないけれど、調べるしかない感じかなあ。」

「たく、違うっての。セ・イ・ラ。セイラがどこの誰なのか、全然説明がなかっただろ? 」

「あー、そういえば、そうだねえ。」

「あれじゃ、セイラが何もないところからいきなり湧いて出たみたいじゃないか。

 王家の事情だか何だか知らないけど、肝心なとこが説明してないよね。」

 ユルアが苛立たしげに言い募る。実は、ユルアの表現が真実にかなり近かったのだが、そのことを私たちはまだ知らなかった。


「ユルアも気が付いたんだ。彼女たち、セイラのことをほとんど話さなかったよね。つまり、セイラが王家にいたこと自体に秘密がある。

 それを説明してもらうのは、まずは私たちが信頼を勝ち取ってからだろうね。」

 私がシャラとユルアへと振り返って話をして、3人の注意がお互いへと逸れたほんの一瞬だった。前へと向き直るとノーメの姿が見えない。

「あれ? ノーメ、さっきまでそこにいたよね。え、どこ? 」

 大通りのやや右寄りを歩いていた私たちだったが、周りで通行人が行き交う中にノーメらしい姿が見えない。

「んー? 今、私の前にいたと思ったの、気のせいだったのかなあ。」

 シャラが言いながら周りを見回して、3人で近くの店の中などにノーメの姿がないか探す。振り返ると、シャラがいなかった。

「ヤバいっ! ユルア、逃げるよっ! 」

 私は左手でユルアの手を取ると走り出した。斜め後ろからユルアのはっはっ、という息づかいが聞こえて、交差する路地を横切るところでふいに左手で掴んだユルアの手が振り(ほど)かれて、そちらに視線をやると路地に引き摺り込まれて消えていくユルアの片足が見えた。

(一瞬で掠われた! 絶対に敵わない!! )

 全身に冷や汗が吹き出して逃げ出した私だったが、次の路地と交差するところで誰かに口に何かを押し込まれると、襟首を掴まれたまま引っ張られ、あまりの早さに体が宙に浮いたまま路地に引き込まれた。

 高速で景色が流れ過ぎて、今自分がどこにいるのか分からないまま地面とほぼ並行に宙に浮いた私は、視界に映る空を呆然と見詰めて、ああ、これで死ぬんだと思った。

(空。抜けるように青くて遠い空。これが私の最期の景色──。)


 しかし、私の生にはまだ少し続きがあったようだ。

 ゆっくりと速度が落ちて体が地面に引っ張られて足が付いて、周りを見るとどこかの部屋だった。

 近所の建物の一室に窓から入ったらしい。

 部屋を見回すとノーメたち3人の姿が見えて、3人とも口に布を突っ込まれて後ろ手に縛られたまま、私の後ろを怯えた目で見詰めている。

 意を決して後ろを振り返ると、紫の混じる大きな黒い角と黒い銀髪がまず見え、意志の強そうな切れ長の赤い眼がこちらを見詰めていた。

 ──私でも知っている。この図抜けた男前は国王様。レベルが私の80倍はある方だ。

(ライラさんたちと接触したのが運の尽きだったか。)

 後悔の念を噛み締めていると、国王様がにこりと見惚(みと)れそうな笑みを(こぼ)された。

「悪いな。だが、王家の問題に首を突っ込んだお前たちに王都で活動をさせる訳にはいかん。」

 国王様はそう仰ると懐から短剣を取り出して──

 この日、私たちは王都から存在を消した。


◇◆◇◆


 ライラさんと私は、2人で商業ギルドへと向かっていた。

 商業ギルドならば、遠方の商品についてもいろいろと知識を持っているだろう。香油の成分が分かれば、その知識をジャガル様の元へお届けすれば、魔法に詳しいエルフ国でなら何かが分かるはずだ。

 そう考えながら歩いていると、見知らぬ男達4人に囲まれたのに気が付いた。

 4人ともに冒険者風の身なりで前後左右へ何気ないふりで位置していたが、一気に距離を詰めてくるとこちらを見て路地へと顎をしゃくる。

 あちらへ行けと言うことだろうが、行けば命の保証はない。

 だが、前と左右の3人ともが腰に差した剣に手を掛けていて、後ろの1人が袖の中へと隠したナイフでライラさんと私の背中を強めに突く。

 断れば即座に命がない。そう判断して、ライラさんと私は青い顔で路地へと連れ込まれた。

 路地の奥まで来ると、男達は何も言わずに抜剣して私たちに剣を向け、私はライラさんの手を握って2人で身を寄せ合った。

 やられる、そう思ったとき、上から強烈な光が3条降り注いで、両脇と後ろの男たちが体に穴を開けて倒れ、前にいた1人はいきなり首から上がなくなった。

 ひえ、と震える声で2人で抱き合っていると、盛大な溜め息が聞こえ、

「ライラ、サファ、戦闘訓練をやれ。今のお前たちでは話にならん。」

と続いた聞き慣れた声に振り向くと、ダイカル様が立っておられた。

 ダイカル様にはいつもの異様に苛立つような雰囲気はなく、少し離れたところにある建物の2回を指されると、

「あそこにマイラたちがいるから、私がここを片付けている間に先に行っていてくれ。」

とご指示があった。


 部屋へ行き、マイラたちと合流すると、すぐにダイカル様が窓からお見えになった。

「お前たちが何をやってくれているかその内容は聞かないが、王家のために動いてくれていることは察していて、大変に嬉しく思っている。

 今、王都と私に起こっていることを説明するから、その情報を活用して欲しい。」

 ダイカル様はそう仰ると、私たちに向けて微笑まれた。


「まず私だが、アスリーとの床入りの夜から、魂が何かに引き寄せられ、そこから私を押さえ込もうとするような圧力を受け続けていて、その力がだんだんと強くなっている。

 セイラが側にいて、アスリーと変わらぬ笑顔を向けてくれている間はそんなに意識するほどでもなかったが、セイラがいなくなってからその圧力を強く感じるようになり、圧力だけでなく”アスリーの死を公表してアトルガイア王国と戦争をしろ”といった具体的な指示が混じるようになった。

 それを撥ね除けようとして、私は王都に100人規模の高レベルの一団がいることに気が付いて、調べてみると、王都の勢力ではそれを制圧することが難しく、下手をすれば王都が陥落することが判明した。

 これに対処するために、私は宰相のゴシアント ジェゴスと相談をして、敵の指示に大筋で従っている振りをしながら対策を進めているところだ。

 このことは極秘だ。王家の者とセイラ以外に話すことを許さん。」

 ダイカル様はそう仰って各々から同意を得ると、話をお続けになった。


「私の精神を攻撃している者と王都に潜む者、こいつらは間違いなく連携している。

 王都にいる奴らは、平均でレベルが3,000から4,000ほどもあり、中にはレベルが5,000から6,000の者が何人かいる。

 こいつらと正面から戦おうとすれば、単独で戦える戦力は私と母上くらいしかいない。他の者でレベル3,000の相手と互角なのは数十人だろうし、大規模な衝突をするには彼らが都の中に分散しすぎていて難しい。

 そこで、私は王都の高位レベルの者と組んで密かに少しずつ奴らの排除をしているところだ。

 ただ、私への精神攻撃が今後も強くなれば、今後、どの様に転ぶか分からないし、私が知ったことが敵に漏れる可能性がある。

 母上の性格を考えてそうと知らせることはできなかったが、母上とセイラが王都から脱出して、対策の種は()かれた。

 皆にはすまないが、この国宝であるステータス表記改竄(かいざん)の短刀と資金を預ける。

 それからライラ、セイラの秘密は知っているか? 」

 国王様はライラさんの表情をご覧になり、ライラさんへと耳打ちをなさった。

「ライラ、現在の状況に至る王家の事情とセイラの秘密の5人への開示を認める。

 そして、今ここにいる6人の眷属には、王国存続のため、王家とセイラへ全力を以て支援することを命じる。」

 国王様は私たちにこうお命じになり、私たち6人はチームを結成して王都を後にすることを国王様に約束し、エルフ国サーフディアへと向かうことになった。



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