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第69話 新たな同行人

大変長らくご無沙汰しておりますm(._.)m

体調不良で書きやすそうなあちこちの話を前取りしてしまったために、次章への繋ぎに難渋しております。

復帰したいと切に望んでおりますので、もう少しお待ちくださいませ。

 話はダイカルの魔人国出発のときに戻り──


「この辺で休みましょう。」

 ケイアナが言うと、女性化してダイアナと名乗ることになったダイカルがはいと応えて、一番後から進み出るとケイアナが異空間からテーブルと椅子を取り出しくれたことに礼を述べてテキパキと休憩の準備を始めた。

 ジュアナが気付いてダイアナに手伝いを申し出て二人でお茶の準備を始めていることと、ようやく私が理解し始めた人間の権力の序列と実際の強さの序列とが異なっていることにすごい違和感を感じる。


 ダイカルは身分もその実力も隠して生まれもつかないメイド姿で、身分上王太后であるケイアナと王妃であるアスリー、それから私たちのために尽くそうとしている。

 その事態に気が付いたジュアナが慌ててダイアナを手伝おうとしているけれど、シュザルグの同行者が下働きをする必要はないという制止にジュアナは居心地悪そうに座っている。


 それは人間の言葉で建前と言うのだそうだ。

「ジュアナ、良いから座っていなさい。

 私たちは多くの国民に送られてシューダ討伐に出掛けたけれど、今はまだ王都に近いから私やアスリーのことを知っている商人なんかが頻繁に通りかかるの。

 だからあなたたちを含めて、私たちは敢えて王都を出発したときの役割を見せる必要があるのよ。」

 ケイアナがにっこりと微笑みながらシュザルグとジュアナに視線をやるのを見て、私はつい体を引いた。

 なぜか、ごくりと喉が鳴る。

 たぶん、人間社会の機微が分かっていない私たちに教えるために、ケイアナはわざとやっている。

 直感的にそれぞれの強さを計り取る私たちフェンリルに、個人の単なる強さを超えて人間社会の身分制度や立場が力を持つことをケイアナは教えようとしている。


 そのことを意識しながら、私はケイアナに教わったとおりにシュザルクやフェンたちに声を掛けた。

「あなた、ジュアナ、私たちもこちらでお茶にしましょう。」

 私の声かけに応じて皆が集まってきたが、皆の反応は私の思ったとおりではなかった。

 はいお母さんと型どおりに応えたジュアナが、ぎこちなく異空間からテーブルセットを取り出してケイアナたちと少し離れた場所に置き、その側にフェンが無造作に座る。

 シュザルグの椅子は私の椅子とは少し離れて、私とジュアナがお茶とお菓子の準備をする間、テーブルの前で所在なげなポーズをとっていたが、顔が紅潮して視線がうろうろと定まらず落ち着かない。

「リ、リル。凝ったものを用意する必要はないからな。」

 シュザルグは急に緊張を漲らせて私の名前を噛みながら呼ぶとギクシャクと緊張を漲らせ、私と視線が合うとさらにバタバタと足を組み替えて側に立てかけた盾をひっくり返し、あああ、と慌てて盾を拾おうと屈む。

 シュザルグがドタバタしている後ろから商人の格好をした男が現れたのに私は気が付いた。


 奥方、と私に和やかに声を掛けてきた商人風の男が外見どおりでないことにはすぐに気が付いた。感じられる強さが普通の人間ではない。

 ケイアナから商人の妻は通常奥様と呼ばれていて、もしほかの呼び方をする相手がいたら、私が商人の妻でないことを看破している。

 悪意の有無を含めてよく観察しなさいと注意を受けていた。

 側ではシュザルグも聞き耳を立てている。

 あら、奥方だなんて、とケイアナから教わったとおりに返したけれど、商人風の男はにこにこと人懐こい笑顔を貼り付けながら、しかし下げた頭から眼がきょろりと動いた。

「皆様、王太后様の護衛、お疲れ様です。」

 ああ、そう取られたのか。

 人慣れしていない私と私への態度がぎこちない夫、妻の過剰なアピールに夫が逃げ腰の若夫婦。

 ──まあ、設定に無理があるかもね。

 そう判断した私は微笑んで応えた。


「そちらでお茶を頂いているのは皇太后様に間違いありまんけれど、私たちは私たちの事情で、王太后様と同行しているのは偶々なんですよ。」

「左様ですか。

 ふむ、それならば私も王宮に出入りして王家の方々には面識がありますし、王太后様にご挨拶して許可が得られればしばらくの間はご一緒できますでしょうか。」

 チャーズと名乗った商人の申し出にシュザルグが微かに頷くのを確認して、私はケイアナに相談することにした。


「チャーズ、教会の大司祭とあろう方が商人の扮装とは、どうされました。」

 ケイアナの台詞を聞いて、私はチャーズがこちらの反応を斟酌することなく人懐こい顔を貼り付け続けている理由が分かった気がした。この男はセイラが警戒するよう警告されていた集団の一員、それもボス格だ。

 その証拠に、遠くに控えている従者二人が緊張している様子からは、いざとなれば王太后であるケイアナや私たちと一戦交える覚悟が見て取れる。

「教会は最近組織を変えまして、教祖の座は女神リーアのもの、そこは変わらないのですが、よりよい神との関係を築くために助言者を置くようになったのです。」

 チャーズは話しながら手ぶりで緊張を解くように従者へと指示をしながら、ケイアナへ笑顔を向けた。


「助言者? それは初めて聞く役職ですね。」

「最近教会は女神リーアに対する信心のあり方について大幅な見直しを行いましてね。助言者というのは第三者の立場からオブザーバとして私たちの考え方を検証する、新たにできた役職なんです。」

「それは聞き捨てなりませんね、詳しいお話を伺えるかしら。」

 ケイアナがぴくりとチャーズの表情を伺い集中力を高めているのを感じる。

 長い休憩になりそうだわ、と私は思った。


◇◆◇◆


 ケイアナ(と後ろでメイドとして控えてケイアナを通じて念話で参加しているダイカル)との会談はしばらく続き、会談が終わったときにはそろそろ野営地の心配をする時間になっている。

 まだ王都からそんなに離れていないこともあり、もう少し進めば街まで突くのだけれど、宿に泊まると自分たちの位置がオープンになるのでケイアナは街の宿に泊まるつもりがなかった。

 私たちもケイアナと一緒に野営をするつもりだったけれどチャーズも一緒に野営をすることになった。

「チャーズたちはセイラのところまで同行するわ。

 予定を変更することになるけれど、リルたちもお願い。」

 宿泊地でたき火の周りに集まって野営中にケイアナから説明があり、私は了承した。


 野営の準備が終わって、チャーズも平等に歩哨に立つことになった。

「心配せずともあなた方に危害を加えることはいたしません。

 やったとして、とてもあなた方には敵わないでしょうが。」

 チャーズの柔らかい笑い顔が普通の人と違う気がしたのは、彼が聖職者だからとシュザルグが教えてくれた。何でも生死について見ているものが私たちとは違うらしい。


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