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第56話 妹の立場って、気楽で良いかも

 兄妹になることを決めて、私とセラム…兄さんは自分たちの状況を確認することにした。

 セラムのことは頭の中でできるだけ”兄さん”という言葉を付け加えるように注意しながら、私とセラム…兄さんがまず最初にしたのはステータスの照合で、お互いのステータス表を表示して比べ合った。


「レベルは一緒だけど全体的にちょっとずつ数字が違っているのは、やっぱり男女差なんだろうなあ。

 それから魔王妃の称号だけど、当然俺は無くな……っていないな。

 ”魔王配”。なんだ、これ。」

 セラム、兄さんの称号欄には”魔王配”という名称が灰色で表示されていて、その横に”On”、”Off”の切り替えスイッチが現れていて現在の表記は”Off”になっている。


「王配って、たしか女王の配偶者のことよね。」

 元の世界で女王の配偶者にそう呼ばれている人がいたって、ニュースか何かで聞いた記憶がある。

「俺が男だから”王配”なんだろうな。

 でも、それだったら魔王は女性でないとおかしいけど……

 魔王はダイカルだろ? 」

 私とセラム兄さんは顔を見合わせた。

 私たちは以前に兄さんが魔王配になったときに、ダイカルの性別が強制的に女性に変更されたなんてことは知らなかった。


 でもセラム…兄さんはシューバとの戦いの最中にちらりとダイカルに男の姿を譲ってもらったと感じていたらしい。

「これを”On”にすると魔王配の力が起動してシューバと戦ったときの衣装が現れるんだろうな。

 今、セイラの魔王妃が有効になっているけれど、俺がこのスイッチを入れたら入れ替わりでセイラの魔王妃は無効になるんじゃないか。

 そのときにセイラのステータス表にこのスイッチが出てくるのかとか、魔王配の能力は魔王妃に比べてどうなのかとか、一度確認しておく必要があるんだけど……


 シューバ戦のときに俺が感じたとおりに作動するんだったら、俺が男になっている間、ダイカルは女性の姿になっているんじゃないかな。」

 セラムがスイッチを(もてあそ)びながら呟いた言葉に私はつい、え?、と間の抜けた声が出た。   


 経験したのはセラム…兄さんだけど、この世界に来た頃にアスリーさんの姿で無防備なところを晒して、ダイカルにはアスリーさんの固い防御との違いをねちねちと指摘されたことがある。

 ダイカルが自制心を維持するために仕方ないことだったとセラム、兄さんは同じ男として納得しているみたいだ。

 だけど、”国王の婚約者”と名指しされた影響をずっと耐えてきた私は、ダイカルの善意は理解しつつも少し鬱屈した感情をダイカルに抱いていた。


(そう、セラム兄さんが魔王配になったら、ダイカルも兄さんと同じ経験をする訳ね。)

 どこかの会合だか集会の中心でいきなり女性化するダイカルを想像すると思わずにんまりと口元が(ほころ)んで、”それくらいの仕返しはやっちゃえ”と思ってしまうのだけれど、セラム…兄さん、ああ鬱陶(うっとう)しい、兄さんでいいや、は紳士だった。


「昼は公の場所にいる可能性が高いから拙いだろう。

 ダイカルは家族を大事にすることを理由に、夕方以降は緊急の用件以外は原則として参加しないはずだから、このスイッチを試してみるのは、夜にしようか。」


 ちぇ、と不承不承に同意した私に、セ、兄さんは理解の視線を向けてくる。

 私と記憶を共有しているのだから当然だけれど、私を理解してくれる身内がいることの心丈夫さに私は大いに勇気づけられた。


「ねえ、ダイカルと私が結婚する可能性が高いっていう話、どう思う?」

 直接気兼ねなく相談できる相手ができて、私は自分の置かれている状況について兄さんに意見を求めた。


「そうだな。安心して妹の身を任せることができるという意味では、これ以上の相手はいないと思う。」 

 私が眉を吊り上げたの見て、まあ待てと兄さんが静止する。

「リーアは言わなかったけれど、セイラがダイカルの婚約者で王太后が側にいたことの威光で、悪意を持って利用しようという人間には俺たちはまだほとんど会っていない。

 セイラが女神リーアの支援を受けているという事実を一部の人間が知ることを許されガルテム王国の庇護(ひご)下にあることを多くの人間が知っている、そのお陰で俺たちは安全に過ごしてきたんだと思う。

 その庇護がなくなって記憶がまた無くなったら、セイラは自分が安全に生きていけると思うか? 」


 私はぐう、と言葉に詰まった。

 サミュルの町の近くで乱暴されて殺されるところだったことが思い浮かんでくる。ウィーナさんだって(だまさ)されて十年以上も苦界(くがい)に沈んだ。

 世間は厳しいのだ。


「だけど方法はあるのかもしれない。」

 私の沈んだ気持ちを宥めるように、兄さんが明るい顔と声で言う。

「ミッシュとリーアは、フェリアスさんにあう前に、何故わざわざセイラの記憶を消して警告するような真似をしたと思う?

 あの人たちは神の制約に縛られて知っていることを話すことができない。

 経験者のフェリアスさんと突き合わせをして、自分たちで対処方法を見つけろと言ってくれている気がするんだ。」

「あ。」


(そうだ、リーアもミッシュもやけに人間臭くなっている。

 予め私の記憶が消えることを警告して、このタイミングで兄さんを復活させてフェリアスさんと会わせて、シューダ討伐まで時間も無いのに新たな魔法の開発を依頼してきている。

 ひょっとしたら、全ては繋がっているのかもしれない。)


 私が記憶を失わなくてもいい方法が、きっとある。

 私はそう信じることにした。


「兄さん、ありがとう。

 私1人だったら、きっとぐるぐると同じところを堂々巡りして落ち込んでた。」

「だけどセイラは諦めないんだろう? 」

 私は頷いた。

 絶対に諦めたりするもんか。 


「さあ、相談はこれくらいにしてみんなのところに私たちが兄妹になった報告をしに行きましょう。」

 兄さんを視線を向ける。

「コールズさんにも挨拶しなきゃいけないし。」

 兄さんの顔色が一気に青褪める様子に、私はくすくすと笑った。

 兄さんだって、私の記憶でコールズさんの気持ちは分かっているはずだけれど、やっぱりそういう反応になるんだ。


(兄さんの気持ちを早く楽にしてあげなくちゃね。)

 そう思いながら、私はセラムの呼び名を”兄さん”と置き換えるのが自然にできることに気が付いた。


(これまで助けてもらってきたし、記憶も兄さんのものを借りてきた。

 兄さんの思いやりと包容力がティルクにも心地よいのかもしれないな。)

 そんなことを考えながら2人で部屋を出てティルクを探す。

 ティルクは応接間に伯爵やミッシュたちと一緒にいて、私は伯爵に一頻り兄さんを紹介してティルクを外に誘った。 


 ティルクはやはりぎこちなく頷いて、私と兄さんを凝視している。

「やっぱり慣れない?

 でも、言ってしまっていいのか分からないけれど、これまでは兄さんとのことは私に筒抜けだったじゃない。

 これからは私の目を気にする必要はないのよ。」

 ティルクは考え込むような顔で、そうね、と返事をして私たちに同行した。


 そういえば、と思い出したティルクと一緒にお城にやって来たガズルさん夫妻は、私の仲間たちに混じって武術の訓練をしていた。


『ガズルさんたちがいるから詳しい説明は後にするけれど、女神の手助けがあってセラムは少し早めに復活したわ。

 それで、私とセラムが同時に起きていられるようにしてくれているの。』

 まずはガズルさん夫妻に声を掛けて挨拶をした後、集まってきたソバット君以外のみんなに念話を送りながら、表面上は兄さんが合流したことを報告して、みんなは夫妻の手前、ごく普通の挨拶の声がけを兄さんにしてくれた。


「その節は大変すまないことをした。許してくれ。」

 コールズさんはガズルさん夫妻の方を視線で差しながら兄さんに詫びて、兄さんも表面上は穏やかに手を差し出して握手をしたけれど、内心穏やかでなかったのは、ほっとした顔で握手に応じたコールズさんの顔色が少し青くなったことで察しが付いた。


 ──兄さん、さっき握手した瞬間、手から小さな雷が走ったよね?

 これで許すって、根に持ってたんだ。

 仲直りの握手で電気ショックって、兄さん、紳士らしくないよ?



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― 新着の感想 ―
[一言] もはやセラムとセリアですっかり別人になってしまいましたね。
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